あゆみはその『退職願』を持った手が小さく震えてしまった。
「・・本当は・・辞めたくなんかないんじゃないですか、」
無表情の彼を見やった。
「・・・もう、ダメだよ。 こんな騒ぎを起こして。 みんなにまた迷惑をかけて。 斯波さんには・・もう顔向けができない、」
まるで全てを失ってしまったかのように
抜け殻の彼に
「・・音楽が・・大好きなんじゃないんですか、」
あゆみはそっと語りかけた。
「・・好きでも。 やっぱりおれにはこういう会社の組織に入ってやっていくことも無理だったんだ。 自分勝手でわがままで。 軽率な行動でこうして・・迷惑をかけて、」
結城はどんどん自分に対する怒りで
声が大きくなった。
「北都マサヒロさんの・・コンサートに行った時も・・・本当にあの人のピアノが好きで好きで・・どうしようもない気持ちがすごく伝わってきて。 ホントに音楽が大好きなんだなって・・・思ったのに、」
結城はいきなり立ち上がり
「好きなだけで、やっていけるか! 結局おれの願いなんかひとつも叶わない!」
あゆみに鋭い視線を投げかけた。
その大声で
彼女の心にも火がついた。
「好きだから! 何があってもやっていけるんじゃないんですか!? 何があっても・・頑張ろうって思えるんじゃないですか!? もっともっと・・・縋ればいいじゃないですか!」
大きな声を出したら
何かが決壊して
涙も一緒に出てきた。
「もっとカッコ悪くなればいいんです! 斯波さんや・・・会社の人たちに土下座でもなんでもして・・・居させてほしいって言えばいい!!」
いつも
穏やかで
人の話を笑顔で頷いて聞いて。
決して出すぎることもなく
やわらかなその彼女の空気の中にいることが
大好きだった
こんなにも激しく感情をぶつけてくる彼女を初めて見た・・・・・
「もっと・・・もっとしがみついて下さい! 本当に好きなことなら! こんなことになったのが自分のせいだと思うなら・・・・きちんと責任を取るべきです! あなたのしていることは・・・逃げているだけです!!!」
結城は茫然としたまま
ゆらっとあゆみに近づいた。
そして彼女の両腕をぎゅっと掴んだ。
あゆみは全てを投げ捨てようとしている結城に涙ながらに叱咤します・・・
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