「舞いあがれ！」 第124回
第26週「私たちの翼」
家までひとっ飛びで、
会いに行けたらええのにな
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2020年4月
（膝を抱え、ベッドに座った貴司）
（小さな窓から夜空を見る）
（点滅する飛行機の明かりが
ゆっくり横切っていく）
（回想）
舞） 昔の飛行機はな、星の位置
を目印にして、飛んだんやで。
（目を閉じる貴司）
（回想）
電・舞） もしもし貴司君！？
どこにおんの？
（回想）
電・舞） すごいやん！ おめでとう！
ホンマによかったなぁ。
（回想）
舞） 私、貴司君の短歌、好きやで。
（回想）
舞） こういう、
歌にしたなるような幸せ、
これからいっぱいあったらええな。
（回想）
舞） 貴司君。貴司君。貴司君。
貴司君。貴司君。
（目を開ける貴司）
（紙くずだらけの机の上）
（鉛筆を探し、床から拾う）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
日本でも、新型コロナウイルス
の感染が拡大、緊急事態宣言が
出されました。
＜岩倉家＞
めぐみ） ただいま。
舞） ああ、お帰り。どうやった？
めぐみ） しばらく、曜日ごとにな、
出勤する人変えることになった。
舞） そっか…。
めぐみ） うん。こんねくとは、
どないすんの？
舞） 技術教室とか、人が集まる
企画は、当分やめとく。オンラ
インでできることを考えるわ。
めぐみ） せやな。ABIKILUは？
舞） ああ、今後のことは、
明日の会議で決めるって。
めぐみ） ほな、歩は、
私が見とくよって。
舞） ごめんな、ありがとう。
祥子） こん子も、
友達と遊びたかろうね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（マスク出かける出かける
支度をしている祥子）
（ノック）
祥子） はい。
めぐみ） 歩、やっとお昼寝した。
祥子） ああ、お疲れさん。
めぐみ） ん？
何で着替えちょっと？
祥子） デラシネば
見てこようち思ってな。
めぐみ） 何ば言いよっとね。
祥子） 子どんたちが、
来ちょるかもしれんけん。
めぐみ） 母ちゃん、
そん年で感染したら、
命に関わるとよ。お願いやけん、
今は外に出らんで。
（ベッドに腰をおろす祥子）
（部屋に飾った信吾たちの
写真に目をやる祥子）
祥子） 帰りたかぁ…。
五島ん帰って、
みんなに会いたか…。
（背中で聞いているめぐみ）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜ABIKILU＞
刈谷） 今年の秋、
有人フライトをやる。
これまでどおり作業を続けたか。
玉本） いや待って。
ちょっと楽観的すぎへんか？
今年の秋世の中どうなってるか
分からんやん。
刈谷） 状況が分かるまで
待機するとや？
玉本） 状況見ながら、目標の時期
を遅らせることも考えなあかんっ
て言うてんねん。
刈谷） そげな猶予はなか。
荒金さん。自動車の製造で、世界
有数の技術を誇る日本が、思うよ
うに航空機を作れんのには、理由
があるとですよね。
荒金） 戦後7年間、飛行機作りを
禁止されたからです。
刈谷） その7年間のブランクが、今
でも尾を引いとる。開発はスピード
が命たい。俺らが今休んだら、海外
勢はずっと先を行く。
玉本） 作業したい気持ちは分かる。
せやけどな、岩倉見てみ。岩倉んと
ころは、ちっちゃい子供も、おばあ
ちゃんもおる。ここの誰かがコロナ
に感染して、岩倉にうつったらどな
いすんねん。岩倉だけちゃう。ほか
のみんなもそうや。元気でおんのが
今は何よりも大事やろ。
刈谷） （頷く）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（作業場に刈谷と舞）
刈谷） 早く帰り。
舞） 刈谷さんは？
刈谷） ここで作業する。
家に帰っても、
誰も待っとらんけんね。
舞） 刈谷さんは、待ち合わせ
してるんですよね。
空飛ぶクルマと、
未来で待ち合わせしてて…。
はよ会いたいんですよね。
私、就職延期になって、
落ち込んでた時、
祖母に言われたんです。
嵐が来て、船が出されへん日も、
無駄な時間やないって。いつか、
空が晴れるまで、自分のできる
こと、やったらええって。
今、何ができんのか、
私も、家で考えてきます。
せやから刈谷さん。一人で、
焦らんといてくださいね。
刈谷） （頷く）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜岩倉家＞
歩） これパパやねん。
舞） え？
（絵を見る）
舞） 上手に描けてるやん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（歩に添い寝をしている舞）
♪（バイブレーション）
電・舞） 貴司君？
電・貴司） 舞ちゃん。
電・舞） 電話、ありがとう。
電・貴司） 時間かかってごめん。
電・舞） ううん。
声聞けて、うれしい。
電・貴司） あんな…
こっちで随筆書き始めてん。
電・舞） 随筆？
電・貴司） 今、パリで何が
起こってんのか、見て、聞いて、
考えたこと、言葉にしてんねん。
舞ちゃんへの手紙のつもりで
書いてる。
電・舞） フフフフ、ありがと。
電・貴司） 歩は？
電・舞） 保育園行かれへんから、
遅くまで元気。
電・貴司） ごめん、
こんな時に家空けてて…。
電・舞） いや、
貴司君のせいやないよ。
世の中がこんなことになるな
んて、誰も思えへんかった。
そっちは、どう？
電・貴司） まだロックダウン続い
てる。外出は1日1時間で、半径
1キロ以内しか移動でけへんねん。
電・舞） そっか…。
電・貴司） 舞ちゃん。
電・舞） ん？
電・貴司） 会いたい。
電・舞） 私も…会いたい。
電・貴司） 家帰るわ。
電・舞） うん、待ってる。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（晴れた庭で、
歩が土遊びをしている）
（そばでぼんやり椅子に
座っている祥子）
舞） ばんば、歩も、お昼にしよ。
祥子） ああ…。
まだ、腹や減っちょらんけん、
先に食べとかんね。
舞） うん、分かった。
歩、来てな。
歩） うん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（キッチンに戻る舞）
舞） ばんば、最近元気ない
なぁ。どないしたんやろ…。
お母ちゃん？
めぐみ） あんなぁ舞。ばんば、
五島に帰りたいんやて。
先が見えへん状況やもんな。
気持ち、よう分かんね。
章君に、IWAKURA任したらな、
お母ちゃん、ばんばと、
五島行くわな。
舞） うん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夜＞
電・舞） 飛行機のチケット、
取れそう？
電・貴司） 全然取られへん…。
ごめんな。家までひとっ飛びで、
会いに行けたらええのにな。
電・舞） ホンマに。
ひとっ飛びで、会いに行けた…。
電・貴司） 舞ちゃん？
電・舞） 貴司君、今、
ええこと思いついたわ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（机に向かい、夢中で絵を描く舞）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
日下部） 次消毒お願いします。
舞ちゃんの提案で、ABIKILUに
徹底した感染対策が施されました。
日下部） ああちょっとマスク
外さないでください。
渥美） あっ、ごめんなさい。
玉本） ここまでやったら安心やな。
舞） はい。
刈谷） ありがとう。
舞） いえ。
玉本） ありがとう。
荒金） これは？
（舞が描いた絵）
舞） 新しいアイデアです。
刈谷） へえ～見して。
舞） はい。
刈谷） ありがとうございます。
固定翼。ティルトローター
タイプの機体か。
舞） はい。誰にでも乗れて、
島から島へひとっ飛びで飛べ
るような、未来の空飛ぶクル
マです。
西浦） かっこええ。
玉本） いつかこんなん
作れたらええなぁ。
舞） はい。
刈谷） 夢を夢で終わらせる気
はなか。作業を再開するぞ。
一同） はい！
西浦） やるやん岩倉お前。
舞） ありがとうございます。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ようやく、舞の声が聞こえてきた貴司君。伝え
たい書きたい気持ちが湧いてきたようで良き。
貴司） 会いたい。
舞） 私も…会いたい。
貴司） 家帰るわ。
舞） うん、待ってる。
舞ちゃんはすごい。貴司を送り出してから、一
度も急かすことなく、メールだけで、我慢。自ら
電話してくるまで待つって、なかなかできない。
相手の心が整うのを待つって、そうしたほうが
いいと分かっていても、なかなか難しいのよね。
会いたい人に会えない。行きたい場所に行け
ない。祥子さんも、五島に帰りたいよね。五島
の人たちに会いたいよね。パリも五島も、遠い。
家までひとっ飛びで、
会いに行けたらええのにな。
貴司の言葉から新しいアイデアを思いつく舞。
なるほどね、オープニングの紙飛行機の最終
形態に、こうやって辿り着くわけね。良き良き。
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