大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第27回~替り目 | 日々のダダ漏れ

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日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第27回~替り目

 

 

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昭和36(1961)年

 

知恵) 打った!

りん) 棒振り回して何が面白いんだか。

美津子) 3番の長嶋ってのがすごい人気なのよ。

りん) ああそう。

五りん) ちーちゃんお待たせ~。

りん) あっ、五りん。甘いもん食べていきな。

 お茶入れるから。美津子。

美津子) はい。

五りん) たい焼きか。結構です。

今松) おい!

五りん) ちーちゃん早く

 フルーツパフェ食べに行こうぜ。

知恵) 今いいとこなのよ。

 9回表ワンアウト満塁で長嶋よ。

今松) 座りな五りん。五りん。

知恵) ちょっと…ちょっともう。

今松) 殺すよ?

五りん) はい。

今松) お前ね…師匠がたい焼きを買って帰

 るってのがどういうことか分かってんの?

知恵) ちょっと今松、うるさい。

 ちょっと、見えない見えない。

今松) わざわざ並んで買って…呼び捨て!?

知恵) キャ~打った! 長嶋、走れ、走れ!

今松) いいかい? 志ん生といえばたい焼き、

 たい焼きといえば志ん生ってくらい、とってお

 きの逸話があるんだ。ねっ、師匠?

志ん生) 長嶋の胸毛は、すごいなこれ。

知恵) 胸毛濃いのよ~。

今松) えっ? いや…。

美津子) お父ちゃん、ほら、清が生まれた時の。

五りん) あ~書いてありましたね、「なめ艦」に。

今松) 「なめくじ艦隊」! 

 変な略し方するんじゃないよ。

 

**********

 

昭和2(1927)年

 

孝蔵) 「…ったく、ありがてえと思いやがれ。

 たたき出しちゃうぞおめえなんざ。ほら、早く

 行け。この、おたふく、ばけべそ、出てけ~!」。

 

五りん) 昭和の頭、友達の万ちゃんの口利きで、

 柳家三語楼の弟子になり、柳家東三樓(とうざ 

 ぶろう)と名前を変えたはいいが、早速、師匠の

 羽織と着物を曲げて遊んじゃった。

 

三語楼) 曲げたって…質屋に入れちまった

 のかい!? 太鼓鳴ってるよ! お前…これ

 で出ろってのかい!?

万朝) あ~師匠私の着物で…。

孝蔵) あ~いいよ万ちゃん、俺が脱ぐ。

万朝) いいよ孝ちゃん…。

 師匠、ちょっと待って下さいね。

孝蔵) どうぞ。

三語楼) 3人で裸になってどうすんだい! バカ!

孝蔵) バカとは何だ? コンチクショー! えっ?

 そんなに大事だったんならな、弟子なんかに

 持たすんじゃねえや!

三語楼) 何だ、この言いぐさ! 

 てめえなんざ、破門だ!

孝蔵) こっちだっててめえみたいなの弟子に

 なりたくてなったんじゃねえや!

 

五りん) …ってなわけで、

 また貧乏暮らしに戻っちゃった。

 

**********

 

産婆) えっ? お金はない?

孝蔵) ええございません。

産婆) ございませんってどういうことだい?

孝蔵) ええ。え~実は、一文無しなんです。

産婆) だってあんた、噺家さんなんだろ?

孝蔵) ええ…いや、廃業しちまいましてね。

産婆) えっ?

孝蔵) あ~まあまあまあ、あの、産まれる前に

 言おうと思ったんだがこう、まごまごしてるうち

 に始まっちまったって。…かといってね、こう出

 てきたものをまた「ンッ!」とこう、腹に戻すっ

 てわけにもいきませんからね。

りん) すいません。来月にはいくらか入りますから。

産婆) 分かりましたよ~もう! 後でいいですよ。

美津子) 買ってきたよ~。

孝蔵) おっ、美津子! よしよしよしよし…。

 これはね、ほんの、お祝いで。

(たい焼きが一つ)

孝蔵) どうぞ、召し上がって下さい。

産婆) えっ?

孝蔵) いやね、こういうことは、ちゃんとやらなく

 ちゃならねえ。ねっ? いくら貧乏な家だからって、

 男の子だ。とにかくめでてえや。さあ、どうぞ。

(たい焼きにかぶりつこうとする産婆さん)

喜美) (お腹が鳴る音)

美津子) 喜美ちゃん、し~っ。(お腹がなる音)

孝蔵) (お腹が鳴る音)

りん) (お腹が鳴る音)

孝蔵) アッハハハハハ…こりゃしょうがねえや。

産婆) 食べられるわけないだろ!

 もう、ほら、あんたたち食べなさいよ。

(半分に割って子どもたちとおりんに渡す)

孝蔵) いやいや…。

産婆) あんたももう疲れてんだろ。食べなさい。

 いいから食べなさいって。ねっ?

(子どものたい焼きを盗む孝蔵)

産婆) あんたはいいんだよ!

 

五りん) はい。え~久しぶりに師匠の今と昔の

 暮らしをご覧頂きました。え~ところで「たい」

 といえば、アムステルダムオリンピックもめで

 たい結果に終わりましたね。

 

**********

 

<銀座・体協本部>

治五郎) いや~めでたい! 金、銀、銅!

 メダルの種類、全部取ったぞ!

野口) ええ!

岸) いや~壮観ですな~。

 水泳が6つに、陸上が2つ。

治五郎) うん? 何だそれは。どういう意味?

岸) いや、意味は特に…。

 まあ、ありのままを申しました。

治五郎) だからその「ありのまま」は何だ?

岸) だからその…水泳の方が、

 陸上より活躍したかな…。

野口) まあまあまあまあ…みんなで取った

 メダルじゃないですか。陸上とか水泳とか、

 もうそういう細かい内訳はいいでしょう。

岸) しかしまあ、水連の田畑の功績は

 今回は認めざるをえんでしょうな。

治五郎) フッ…そうかね? 国から補助金ふん

 だくるなど、20年前から私はず~っとやってき

 たんだよ? たまたま田畑が、あれしただけで。

 時代が嘉納に追いついたんだよ。違うか?

野口) いやもうそのとおりです。

治五郎) なあ違うか?

一同) はい…。

治五郎) ハハハ…どこ行った? 河童野郎は。

 

**********

 

<バー・ローズ>

政治) やい、占いババア! おい、いるか!? 

 ババア! あっ…おい、占ってくれ。

マリー) もうあんたのことは占いたくないのよ。

政治) そうはいかん。あんたこの間、西に吉兆

 ありと言った。見ろ。我が水泳日本は、アムス

 で大活躍だ。

マリー) まあ確かにオランダは西だけども…。

政治) あんたの占いは当たる。…ってことはだ、

 いよいよ俺は30までしか生きられんってことだ。

 親父は43、兄貴は33で死んだ。幼い頃から病

 弱だった俺が、次のオリンピックまで、生きら

 れるわけないじゃんね。

マリー) だったら、せめて健康に

 気ぃ遣ったら? 2本!

 (政治の指に2本の煙草)

政治) 仲間に言えるもんか。水泳日本が

 頂点に立つ日を、共に迎えることができ

 ないなんて。ロスまであと3年だよ。

 

**********

 

五りん) さて、かつての代表選手、ストックホルム、

 アントワープ、パリ、3回のオリンピックに出場し

 た我らが韋駄天も、御年38歳になり、まだ走って

 います。

 

<播磨屋>

実次) そぎゃんですか!

辛作) ええ、底を、ゴムにしましてね!

実次) お~! ハハハハハ…。

四三) ばばっ、ばばばっ! あっ、ちょっ、兄上!

実次) お~帰ってきた! 金栗先生、お元気

 そうで。ほう、父ちゃんばい。来い。

四三) あっ…んんっ!?

(子どもの頃の四三にそっくりな少年)

四三) お前…正明か?

正明) うん。

四三) あっ…。

辛作) 俺も驚いたよ! あの赤ん坊がな!

 いくつになった?

正明) 9つばい。

四三) あ~そっか…おい~。

実次) そりゃあそうばい。オリンピックば、

 3回やったもんな!

辛作) 声がでけえなお兄さん!

実次) お互いさんばい!

(笑い声)

四三) いやいや…ちょちょ…。な、な…な~し?

実次) 用事のあったけん、まあ帰る前に

 ちょっと顔ば見に寄っただけたい。

 

**********

 

<日本橋のほとり>

四三) 東京で会うとは、何年ぶりかね?

実次) あ~ストックホルムの旅費ば

 届けに来た時だけん…。

四三) えっ?

実次) あ~…。17年前ばい。

四三) わ~17年!

実次) 高か塔に上がったもんね~美川と。

四三) あ~。

実次) 浅草の…どっちの方角だったかね?

四三) 十二階なら、もうなかよ。

 震災で、もげよったけん。

実次) たった5年で、ようここまで持ち直したばい。

四三) あっ、地下鉄も、開通すっとばい。

実次) えっ?

四三) あ~電車が、土ん中ば走っとたい。

実次) ええっ…そぎゃんね!

四三) うん! すごかろ?

実次) なあ四三。

四三) うん?

実次) そろそろ、熊本に、帰ってこんね。

四三) えっ?

実次) いつまで東京におる気や?

 みんな…待っとるけん。

 

韋駄天、まさに人生の岐路に立たされておりました。

 

**********

 

<水連本部>

政治) いいか? ロスオリンピックまであと3年

 しかない! 金メダル第一主義でいくために、

 我が水連は、3つの必勝プランを掲げる。

 野田、声に出して読んでみろ。

野田) はい。え~…どれが字ですか?

政治) もういいよ! 

 一つ、監督・コーチの早期決定!

 一つ、世界標準の競技用プール建設!

 一つ、打倒アメリカ! 

一同) お~。

政治) 時間がないんだよ!

 

五りん) え~ここで、水連の主要メンバーを

 改めてご紹介しましょう。まずは、松澤一鶴、

 通称カクさん。帝大理学部出身、見かけに

 よらず論理的で、研究熱心なカクさんは、

 現役時代の経験を生かし、選手の技術向上

 を担当。

 

高石) 確かに、今日本のスポーツ界に足りな

 いのは指導者です。アメリカなどは、選手と

 監督が、長い時間をかけて信頼関係を築い

 ておりました。

政治) 違う! そう! 日本は大会ギリギリまで

 監督が決まらない。よって、選手の特性を生

 かした指導が期待できん。勝っちゃん、分か

 ってる。勝っちゃん分かってる。

 

五りん) 高石勝男、通称勝っちゃん。パリ、ア

 ムステルダムオリンピック連続出場のまさに

 水泳界のエース! とにかく女性にモテたそ

 うで。プール上がりに濡れた髪をかき上げる

 と黄色い悲鳴が…。人気女優と浮名を流し

 たなんてうわさもあったそうです。

 

鶴田) 水泳は、個人競技だからこそ、

 チームワークが肝心じゃ。

政治) そのとおりだよツルさん。

 いや~いい体しとるね。

 

五りん) ツルさんこと、鶴田義行。生粋の薩摩

 男児。アムステルダムオリンピックでは、日本

 水泳界に初の金メダルをもたらしました。

 

鶴田) チェスト~!

 

政治) というわけで、監督は…。

高石) 監督は松澤さんで決まりでしょ。

政治) 何?

高石) 実績経験、知識全てを兼ね備えた、

 松澤さん以外考えられない。

松澤) そんな、まーちゃんを差し置いて

 監督だなんてそんな…。

高石) あっ、まーちゃんがいた…。

鶴田) あ~田畑さんは数に入れちょらんでした。

(笑い声)

政治) えっ、何? じゃあ俺のこと君ら、

 何だと思ってた?

鶴田) えっ? 応援団長。

野田) あるいは、計測員。

松澤) いや…総監督ですよ! 

 私が監督だとしたら、まーちゃんは、監督を

 監督する、総監督だ。なっ? みんな。

野田) はい!

高石) あっ、はい…。

政治) うん…じゃあ、総監督田畑? 監督松澤?

松澤) はい。

政治) 助監督、野田!

野田) 助…助監督ですか!?

政治) 何だよ?

野田) いや、僕まだ選手でやってこうと

 思ってるんですけど。

 

五りん) この時、パリ、アムステルダムオリン

 ピックに連続出場した、野田一雄の、若すぎ

 る現役引退が決まりました。

 

政治) 見学だったんだよ、今までのオリンピッ

 クは。マラソンも、短距離走も、陸上のやつら

 は見学だったんだよ。次のロスは…我が水泳

 チームは、アメリカと真っ向から戦う。そして

 勝つ! ここから、日本人のオリンピックは始

 まるんだよ。「必ず勝つ」と書いて「必勝」!

 これを合い言葉に、次のロスではメダルをガ

 バガバ取ってやろうじゃんね~! 名付けて、

 メダルガバガバ大作戦だ!

鶴田) 田畑さん、今日はいつになく猛烈ですな。

松澤) まるで明日にでも死んじゃうみたいだ。

政治) 何?

 

(回想)

マリー) 30で、死ぬと出ています。

 

松澤) 冗談です。どうぞ。

政治) ああ…。

 

**********

 

五りん) さて、まーちゃんの必勝プランその2。

 世界水準の競泳プールですが…。

 

<体協本部>

岸) 何しに来た?

松澤) へへへ…神宮プール、建設の件で。

 競技場の横に、50m…。

政治) 体協さんもすっかり影が薄いんでね、

 金ぐらい出してもらおうかと思いまして。

松澤) まーちゃん。

政治) 頭下げるつもりはございませんよ。

 アムスの時私が渡航費あれしたんだから、

 いくらか出しても罰は当たら…。

岸) これは、私のポケットマネーからだ。

松澤) 5000円!

政治) 分かってる。

岸) ここから先は、プレゼンテーション次第だよ、

 田畑君。君は、口は悪いが、頭は悪くない。

 1万人収容の競技用プール、まさか作っておし

 まいじゃあるまい?

政治) 当たり前じゃないですか、

 嘉納治五郎じゃあるまいし。

松澤) まーちゃん。

政治) オリンピックオリンピックって役員や選手

 が騒いでも、一般の国民が見ることもできない。

 これじゃいつまでたってもひと事じゃんね~。

 これからは興行、見せ物です。生のレースを

 国民に見せるんです!

岸) 具体的に言いたまえ。

政治) 日米対抗戦をやります。

 

五りん) 出ました! まーちゃんの必勝プラン

 その3。打倒アメリカ! 世界水泳界の覇者、

 アメリカ。前回アムステルダムオリンピックで

 は、金、銀、銅合わせて11個のメダルを獲得。

 まさに世界最強のアメリカチームを呼ぶ、ま

 ーちゃんの狙いは…。

 

政治) ロサンゼルスオリンピック直前に、世界

 の覇者、アメリカのベストチームを招いて前

 哨戦をやるんです。この日本で、アメリカを徹

 底的にたたきのめし、自信喪失に陥れてやる

 んですよ、シシシ…。

岸) スポーツマンにあるまじき、腹黒い考えだね。

政治) もう見学は終わったんですよ。勝たなくち

 ゃ。そのためには、ハッタリでもいいから、世界

 に恥じない立派なプールが必要なんです!

岸) なるほ~ハハハ。確かに、嘉納さんからは

 出てこん発想だが、しかし、根っこは君と同じ

 かもしれんな。

政治) えっ、そうですか?

岸) 逆らわずして勝つか、ねじ伏せて勝つかの

 違いだ。分かった。力になろうじゃないか。

政治) さすが! 嘉納のじいさんより

 顔は悪いが頭はいい。

松澤) まーちゃん。

岸) 何?

政治) 何? いいこと…褒めてる…。

 

五りん) 岸会長の尽力で、昭和5年春の完成を

 目指し、神宮プール建設工事が始まります。

 

**********

 

<播磨屋>

四三) ひゃあ~! ほっ…ああ…。

辛作) 金栗さん。

四三) じゃあ~!

辛作) 電報だぜ。

四三) あっ…手の濡れとるけん、読んで下さい。

辛作) 俺がかい?

四三) すいまっせ~ん。

辛作) どれどれ…。

四三) ひゃあ~! ふう…。

辛作) おい…。

四三) はい?

辛作) お…お兄さんが…。

 

**********

 

<金栗家>

シエ) 四三…四三の帰ってきたばい、実次。

(布団の実次を囲んだシエたち)

四三) ああ…。ああ…。

 な~し…。にいちゃんな~し…。

キヨメ) 急性肺炎て…。倒れる前ん日まで、

 畑仕事ばしとったばってん…。

四三) 父ちゃんの時も、俺は間に合わんかった。

(実次の顔にかけられた白い布を取る四三)

四三) ああ…(泣)

(眠っているような実次の顔)

四三) 兄ちゃん…。あん時から…父親代わりだっ

 たもんね。いっつでん怒鳴られた。いっつでん学

 校部屋…。「俺に任せろ、何も言うな」って…(泣)

シエ) ばってん、四三んこつば、誰より気にかけと

 ったよ。田んぼ売って、オリンピックの金ば工面

 する時も、「四三は、金栗家の誇りだけん」って。

 この間、東京から、帰ってきた時も…。

 

(回想) 

実次) もう心配なか! 嘉納治五郎先生に会うて、

 「四三がお世話になりました」て、きっちりお礼ば

 言うてきたけん。

シエ) わ~!

実次) もういつ熊本に連れ戻しても構わん。

シエ) そぎゃんね。

キヨメ) すごか~!

実次) ハハハハ…池部の家にもそぎゃん

 伝えて構わんけん。ハ~ッハハハハハ!

 

四三) そりゃ、うそばい。

シエ) えっ?

四三) ハハハハ…。兄ちゃん…父ちゃんと

 同じうそばついて…。兄上が、嘉納先生と

 会うはずがなか。そぎゃん、うそついてま

 で…おるば熊本に…。

スヤ) ごめんください。

四三) あっ、スヤ…。

キヨメ) あらら、池部のお母さん。わざわざ…。

(スヤに支えられた幾江)

幾江) 実次が死んだと?

 何ね実次、ぎゃんはよう…。起きんかね、実次。

 あんたがのうなったら、張り合いのなかばい。

 当たり散らすもんが、おらんけん。

 弟はヘラヘラして、家に寄りつかんけんね。

四三) すいまっせん。

幾江) おったとか。

(実次の顔をのぞきこむ幾江)

幾江) 寂しかね、シエさん…。息子ば送り出す

 とは。私も重行ん時は、たまらんかったもんね。

スヤ) お義母さん、足…。近頃、足の弱くなって。

幾江) 余計なこつば言わんでよか。

シエ) 四三。あんたは長生きして、

 親孝行ばせんといかんばい。

四三) うん。

幾江) 今晩は仏さんのそばにおれ。

 死ぬまで、お前んために、頭ば下げて

 まわった、兄上のそばにおれ。

四三) はい。

 

**********

 

(実次の回想)

(実次のそばに四三)

四三) とつけむにゃあは、兄上の方じゃったね。

(ズボンの裾をまくり、すねを撫でる四三)

四三) そろそろ潮時ばい。

 

**********

 

志ん生) いや~真面目ですな。私なんざその

 当時、日がな、家でごろごろしてましたが、ち

 っとも後ろめたくなんかなかったですよ。カカ

 アがね、見かねて…。「お前さん商いでもや

 ったらどうだい?」なんて言うんでね、納豆売

 りっての始めたんですよ。ところが、どうも性

 に合わねえ。高座の上なら、どんな大きな声

 だって出せるが…。

 

**********

 

<孝蔵の家>

りん) あ~やだやだ。朝も納豆、昼も納豆、

 夜も納豆。あたしゃ納豆混ぜるために

 あんたの女房になったのかい?

孝蔵) おめえが商い始めろ

 っつったからじゃねえか。

りん) 売ってこいって言ったんだ。持って帰れ

 とは言ってないよ。美津子喜美子、食べな。

2人) は~い。

孝蔵) 何だ? こりゃ。これが夕飯か? 

 えっ? 納豆しかねえじゃねえか。

りん) あんたの稼ぎがないからだよ。

孝蔵) うるせえな…だったらてめえが

 売ってこいっつってんだよ! 

りん) あ~いいよ。一本残らず売ってやるよ!

孝蔵) あ~行ってこい行ってこい! 

 早く行け! 行っちまえこの野郎。

 このおたふく! ばけべそ! 出てけ~。

 あ~行っちまいやがった。

 あ~行っちゃった行っちゃった。

(背を向け、酒を飲む孝蔵)

(美津子と喜美子の泣き声)

孝蔵) はあ~しかしなんだねえ…うん?

 ミッちゃんキミちゃん…。

 

志ん生) ミッちゃんキミちゃん…うん、こんな

 甲斐性なしの、飲んだくれの、世話してくれ

 んのは、三千世界広しといえども、かあちゃ

 んしかいないんだよ、うん。本当だよ。器量

 だって悪かねえんだから…。

 

孝蔵) みんな言ってら。あんな、美人な女房を

 泣かしちゃいけないよって。分かってますよっ

 て。ねえ。普通こんなことじゃ一家心中ですよ。

 そんなことも考えたこともあるのかもしれない

 けれども、口には出さない。ええ、できた女房

 ですよ。本当…すまないと思ってますよ。

(玄関におりん)

孝蔵) まだ行かねえのかい!

りん) 私は…寄席へ出てほしいんですよ。

 高座上がってほしいんですよ。

 それだけなんです。(泣)

(背を向ける孝蔵)

 

**********

 

昭和5(1930)年

 

関東大震災から7年が経ち、帝都復興祭

がにぎやかに行われた、昭和5年、春。

東京市長、永田秀次郎は、次の一手を

考えておりました。

 

永田) 復興祭で終わりじゃ困るんだよ~。

 次は10年後だ。昭和15年、紀元2600年の

 記念事業として、東京市が何をやるかだね。

清水照男) その件なんですが…。

永田) えっ?

清水) オリンピック…とか、どうでしょう?

永田) プッ…な…何だい? 

 何だいその、オリ…何じゃいそれ。

清水) 4年に1度開かれる、

 世界規模のスポーツ競技会です。

永田) ああ…オリンピックね。いや~来ないだろ

 うさすがに。あれはね君、4年に1回なんだよ。

清水) いえ…ロサンゼルスの4年後が昭和

 11年ですから、その次は、昭和15年です。

永田) 来るね。紀元2600年の年だね。

 その…オリン…。

清水) ピック。

永田) ピック、ピック、オリンピック。

 それは、誰に話を聞けばいいのかな?

清水) 嘉納治五郎氏が適当かと。

 

**********

 

なんと、東京にオリンピックを呼ぶ?

まあ、この話はまた後で。そのころ、

打倒アメリカに燃える、まーちゃん

悲願の、神宮プールが完成します。

9コースの50mプール。

タイル張りの見事な競技場です。

こけら落としの極東大会で注目を集め

たのが、200m平泳ぎで日本新記録を

出した、前畑秀子、若干16歳。

 

<更衣室>

政治) 前畑君! 前畑君! どこだ!?

 おい、前畑君! 

(悲鳴)

松澤) まーちゃんそこ女子!女子更衣室…キャ~!

政治) いたいた、前畑君。何だ? 君たち。

小島一枝) ちょっ、何ですか?

政治) どきなさい。

松澤) ちょっと、ごめんね。

政治) カクさん…。

松澤) ちょっと、こっち行ってくれる? ごめんね~。

政治) 見たまえこれ。何だと思う?

(ストップウォッチを見せる政治)

前畑秀子) あっ、動いとる…。

政治) 何? あっ! びっくりして、止めるの忘れた。

前畑) 3分16秒8です。上で聞いてきました。

政治) やってくれたな君! 日本新記録だよ!

松澤) 今いくつ?

前畑) 16です。名古屋の椙山女学校で学んでます。

政治) 何? 学費どうしてるんだ?

 実家が貧乏なんだろ?

松澤) まーちゃん。

(政治の頬をたたく松澤)

前畑) はい。校長先生が、学費は気にせんで

 ええから、好きなだけ泳ぎなさいて。

政治) そうかそうか。いいか?

 日米対抗にも必ず出たまえ!

 

そしてついに、ベストメンバーによる、

日米対抗戦の開催が決定しました。

次にまーちゃんが仕掛けたのは、

スポンサー探しです。

 

**********

 

<朝日新聞社>

政治) さあ社長! 日本対アメリカ、

 どっちが勝つと思います?

村山) あ~アメ…日本かね?

政治) そう! 違~う! その予想をやるん

 ですよ。どこで? ここで! 新聞で! 部数

 を伸ばすチャンスだ社長。よっ、社長!

 いくら出します?

緒方) こらこらこらこら…。

村山) いきなり金の無心かね?

政治) 国民の水泳熱をあおるんですよ。

 とにかく、水泳の記事を大きく取り上げれば、

 我が社はロスまで安泰ですよ~!

 水連のタンクプールでは、鬼の松澤こと

 松澤一鶴が、科学的なトレーニングを取り

 入れ、猛特訓を始めました。高石鶴田の

 メダリストを筆頭に、若手の清川、小池、

 女子では、前畑、松澤、そしてついに…。

村山) うるさい。落ち着きたまえよ君。

政治) 落ち着いてられませんよ。

 見つけたんですよ、原石を。どこで?

 我がふるさと、浜松で!

 

(回想)

政治) よいしょ! 君、名前は?

宮崎康二) 宮崎康二です。

政治) 宮崎康二君! 見つけた。

 

政治) 更に更に、ラジオも巻き込みますよ。

村山) おお…ラジオ。

政治) 水上座談会ってのを、やります。

 

**********

 

<水上座談会>

河西三省) ラジオをお聴きの皆さん、こんばんは。

 本日は、来る、8月7日から、8月9日にかけて行

 われる、日米対抗水泳競技大会に出場する選

 手を迎えて、お話を伺います。早速自由形の、

 高石選手から意気込みを。

高石) はい。クロールは、とにかく興奮

 しないことです。特に100m…。

政治) クロールなら高石より、宮崎康二に注目

 して頂きたい。予選は4位でしたが、私田畑の

 一存で、メンバーに加えました。浜松で捕獲し

 た、生きのいい河童です。時代は、宮崎だ。

松澤) まーちゃん。

政治) 何だ?

河西) え~田畑さん、勝者には、メダルや盾など

 授与するのでしょうか?

政治) よくぞ聞いて下すった! 日本が誇る、著

 名な彫刻家に、トロフィーの制作を依頼しました。

河西) お~。

政治) これが、300mリレーです。どうですか?

 なぜコイなんでしょうか? 

河西) へえ~! とても独創的な…。

政治) これが、200m自由形! ねっ? これ800m。

 これ平泳ぎ…平泳ぎどれだ?

鶴田) えっ? いや…分かりません。

政治) 何で分かんねえんだバカ野郎め。

 あとこれ、ブロマイドも作って売ります。

 これが、高石。ねっ。勝っちゃん、へへへ…。

 …で、これが鶴田! はい鶴田。これ…何で

 カクさんがいるんだよ? こんなの要らん!

 捨てとけ、野田。捨てとけ。

松澤) まーちゃん。

政治) 何枚あんだよ!

河西) え~私も、田畑さんと同じ32歳で、

 アナウンサーの前は、運動部の記者でした。

政治) あ~そうですか。

河西) 同世代の戦友がこうやって頑張って

 おられるのを見ると、私も、精進しなけれ

 ばと、背筋の伸びる思い…。

政治) ちょっと待ってちょっと待って。

 あんたいくつって、おっしゃった?

河西) 32歳です。

政治) 32…。カクさん、俺いくつだ?

松澤) 32?

 

**********

 

<バー・ローズ>

政治) やいババア! よくもだましやがったな

 占いババア! アハハハハ…。

緒方) おいおい、どうしたんだよ田畑。

政治) あんた何つった? 俺の手相見て、

 30までしか生きられんっつった。

 言ったじゃんね! フハハハハ…。

マリー) ババアって撤回しないと、出入り禁止だよ。

政治) もう一度手相を見やがれ!

(ペンで描いた黒く太い生命線が、
 手首から腕へらせん状に延びている)

マリー) はあ!? 何だ…?

政治) ざまあ見やがれ。生命線を延ばしてやった。

 俺はもう32だ! 忙しすぎて、自分の年数えるの

 忘れてたんですよ。アハハハ…。

緒方) えっ?

政治) あんたの占いは当たらないって

 証明されたんだ!

マリー) なんてこと言うんだよあんた。営業妨害だよ。

政治) じゃあ、この日米対抗戦、どっちが勝つか占っ

 てみろ! ほら、こっちが日本で、こっちがアメリカだ!

マリー) しょうがないね…。

(それぞれの写真の上に占いの石をぶら下げる

 マリー。写真の上で、石がクルクル回る)

マリー) う~ん…。アメリカ。

政治) ってことは…よし! 日本が勝つ! ありがとう!

 これからは逆を行く。あんたが白ってえもんは黒って

 ことだ。というわけで、緒方編集局長。

緒方) な…何だ?

政治) 結婚したいんで、女紹介して下さい。

緒方) えっ?

 

**********

 

まーちゃんが人生の変わり目を迎えたその頃、

四三もまた、人生の決断をしていました。

 

<体協本部>

治五郎) 野口君、野口君。大変だよ君。

 今日これから永田市長に会うんだけどね…・。

野口) 会長、その前に。

治五郎) アッハハハ…久しぶりだ!

四三) 先生、お話が。

治五郎) 私も話がある。

四三) いや…先によかですか?

 

**********

 

<体協本部・ガレージ>

治五郎) 帰る? 熊本にかね?

四三) はい、決めました。

治五郎) ちょちょちょ…ちょっと待ってくれ。

 おい、一体どうしたんだ?

四三) 引退後も、お茶の水に籍ば置いて

 下さり、感謝に堪えません。ばってん…。

治五郎) ばってん、聞いてくれ。

 いや…参ったな。今君を失うことは惜しい。

 まだまだ君の力を借りんといかんのだ。

四三) そぎゃ~んおっしゃって下さるのは、

 うれしかばってん…。

治五郎) 東京に、オリンピックを呼ぶんだよ!

四三) ばっ!

治五郎) 紀元2600年の記念事業だそうだ。

四三) そぎゃんですか…。

治五郎) うん。考え直してくれんか?

四三) いや…やっぱり帰ります。すいまっせん。

治五郎) 訳を、聞いてもいいかね?

四三) 兄が亡くなりました。

治五郎) そうだってね、聞いたよ。

 あんなに元気だったのに…。

四三) 兄がいなければ、俺は、嘉納先生と

 出会わんだった。そん兄ば失い、母も高齢。

 いい加減恩返しばせんと…。

 今…何とおっしゃいました?

治五郎) えっ? 何も言っとらんよ。

四三) いやいや、兄んこつば…「あんなに

 元気だったのに」って…はっ?

治五郎) あっ、まだ話してなかったか?

 訪ねてきたんだ、講道館に。

四三) はあ?

 

(回想)

治五郎) 君かね、道場破りというのは。

実次) お手合わせ馬お願いいたす。

 

治五郎) うん。気合いだけは十分だった。

 

(回想)

治五郎) 君かね? 道場破りというのは。

(柔道着姿の実次)

実次) お手合わせば、お願いいたす!

 

四三) あ…兄が柔道ば?

治五郎) うん。気合いだけは、十分だった。

 

(回想)

実次) ん~! んっ…や~! んん…あ

 あいたっ! 痛っ! ああ…。

(実次の帯に名前の刺繍)

治五郎) 君、金栗君の…。

実次) 韋駄天の、兄でございます!

 順道制勝の極意、しかとこの身に受けました!

 一生もんばい! アハハハハ…。

 嘉納先生、弟が大変、お世話になり申した!

 ありがとうございました!

 

四三) 嘘じゃ…嘘じゃなかったとね。(涙)

 兄ちゃん…嘉納先生と会えた…。よかった…

 あ~よかった。ありがとうございます。

 

**********

 

<体協本部>

政治) はいこんちは~! おっ!

野口) 貴様、何の用だ!

政治) 貴様に用はない。

 嘉納先生に呼ばれたんだよ。

野口) 名誉会長は来客中だ。帰れ河童野郎。

政治) ハハ…。

 あれ? 金栗四三さんですよね?

四三) はい。あ~あなたは水連の。

政治) 総監督の、田畑です。

 お呼びでしょうか? 名誉会長

治五郎) あっ…ちょっと待ってろ、河童野郎。

(野口とガレージの方へ行く治五郎)

政治) 河童野郎…。

四三) あっ…。

政治) …よいしょ。

(部屋に二人きりになった、政治と四三)

政治) あっ、一つ、

 参考までにl伺いたいのですがね。

四三) はい。

政治) あなた、今まで3度オリンピックに

 行かれましたな?

四三) あっ、ええ。ストックホルム、

 アントワープ、パリと。

政治) その中で、一番の思い出は何ですか?

四三) 一番ですか?

政治) 私は今度、初めてオリンピックに行くん

 ですよ。何が待ち受けているのか、今からワ

 クワクしますな! どうです? 一番の思い出。

四三) え~? 何だろうかね…。

政治) 何ですか?

四三) う~ん…。

政治) どうぞ!

四三) そうね…。

政治) えっ?

四三) 一番…。

政治) はい。

(ストックホルムオリンピックを回想する四三)

四三) ああ…。

政治) 来た!

四三) あっ…。

 紅茶と、甘~いお菓子が美味しかったね。

政治) はい?

四三) いや一番、うん。

政治) もう結構です。

四三) あっ…ほんなら、失礼します。

政治) 聞くんじゃなかったねどうも。

志ん生) 聞くんじゃなかったね、どうも。

 いい大人が甘いお菓子だって。まあ

 でもね、何しろ、元祖ってのは偉えや。

政治) 本当だよ。

志ん生) 初めて世界で戦った…。

政治) 日本人だからね。

志ん生) 元祖オリンピックは…。

政治) 三千世界広しといえども…。

志ん生) 金栗四三…。

政治) ただ一人だ。

志ん生) そういったことじゃ、俺は認めてんだ。

政治) 俺は認めてんだ。てえしたもんだ。

(一人部屋の中を歩く政治)

政治) 水連は今まで陸上のことを、ずっと

 目の敵にしてきたけど、金栗さんだけは

 認めないわけにはいかない…うん。

 あれは、本当に韋駄天…。

 って、まだ行かねえのかい!

(後ろに四三が立っている)

四三) さようなら。

(笑って去って行く四三)

(お辞儀をする政治)

 

**********

 

実次にいちゃんに涙涙。幾江さんにも、涙…。

いないと思って本音を語る孝蔵とまーちゃん。

いいね。泣かせるね。本当に主役が交代した

瞬間。本当に、記憶に残るいい交代劇だった。



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