宮部みゆきサスペンス「模倣犯」 | 日々のダダ漏れ

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日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

宮部みゆきサスペンス
「模倣犯」




●相関図





**********

網川) あなたみたいな雑魚ライターの空想
    より、僕の物語は全然大きいんです。
    本当の、悪の物語ですから。
前畑) 悪?
網川) そう、悪。悪とは何か。理不尽に理由
    もなく善良な人間の頭の上に突然打
    ち下ろされる肉体的精神的な暴力。
    打ち下ろされた人間がなぜこんな目に
    遭うのかわからずに苦しむこと。それ
    が悪。理由がないから苦しむ。理解で
    きないから苦しむ。その魅力に観客が
    引き込まれる。
前畑) 魅力? 魅力って…。
網川) 観客は考える。
    なぜ? どうして? 真相は?
    観客は探し苦悩し知りたがって悶絶し、
    やがてね、ああ、そうか! 俺だけは私
    だけは理解したぞ謎を解いたぞと得意
    になる。理解とは…打ち下ろす側に自
    分を置くことなんですよ、滋子さん。
前畑) それって…。
網川) 打ち下ろす側に観客が次々と回る。
    そしてね、誰かの頭に今度は彼らが…。
    打ち下ろす。皆があちこちで相手構わ
    ず打ち下ろす! 圧倒的な暴力を。
    理解できない頭の悪い連中に鼻高々
    と打ち下ろす。ハッハッハッ。あなたも
    早速打ち下ろされましたね。シークホ
    テルの乱闘騒ぎ。「日刊ジャパン」の
    サイトのスクープ。
    この意味、分かります?
前畑) リークしたのは…あなたね。
網川) はい。
前畑) リークだけじゃない、全部…大川
    公園の腕から、全部…。あなたが、
    栗橋浩美を使って…。全部!
網川) 前畑さん! まだ大川公園が、
    僕の物語のスタートだと思ってる?
前畑) 大川公園より、前から?
網川) はい。
前畑) いつから、こんなこと…。
    どうしてこんなこと…。
網川) だから言ってるでしょ!
    理由がない。それが悪。
    それが僕の物語。
    あなたは、最高の観客。
    いや…。登場人物です。

**********

前畑) 有馬さん。なんでそんなに
    強くいられるんですか?
有馬) 強い? 俺が?
前畑) 教えて下さい。このままじゃ私、網川の
    どす黒い物語に、のみ込まれてしまう。
    怒り、恐怖、憎しみ。得体のしれない、
    どす黒いものに、アイツの物語に、
    のみ込まれてしまいそうです。
有馬) 前畑さん。俺は強くなんかない。
    けど、人にはそれぞれ、自分の心の
    守り方ってのがあるように思う。
前畑) 自分の心の、守り方。
有馬) そいつは、生活だと思う。日常だ。
    歯を食いしばっても、日常を繰り返す。
    はらわたが煮えくり返っても、足もと
    が崩れ落ちても、日常を繰り返す。
    俺は、豆腐職人だから、豆腐を作るの
    が日常だ。真っ白い豆腐を、作る。
    毎日毎日。そして、店を開ける。
    それだけだ。


**********

前畑) 私の日常は…。
    書きます。死に物狂いで書いて、
    網川の物語を…この人死にを、
    終わらせます。


**********

前畑) 反論はありません。ですが、網川さん
    の言う真犯人Xについて、私も取材を
    始めました。
網川) へぇ~。
前畑) その子供は、父親に拒絶され、母親
    に捨てられ、自分を憎む人間たちに
    囲まれて生きてきました。
司会者) 子供? Xは、未成年ですか?
前畑) 物心つくかつかないかの頃、その子供
    は、広いお屋敷の古井戸に、イタズラを
    装って何度も突き落とされたそうです。
    誰が彼を突き落としたのか。本妻か、本
    妻の子供たちか。母親か、その愛人か。
    みんながその子に思っていた。事故で
    死んでくれたらいいのに。生まれる前の
    闇に戻ってくれたらいいのに。心は耐え
    られず、井戸の闇で死んだ。体は生き
    残って。物語を作った。
網川) それがXの動機ですか?
前畑) わかりません。ですが推察はできます。
    Xは、自分の悲劇の少年時代を文豪の
    それに重ねあわせ、自分には才能があ
    る。作家性があると思い込んだ。私に言
    わせれば、それこそまさに、Xの一番の
    悲劇。いえ、喜劇です。
網川) 喜劇?
司会者) 前畑さん、喜劇というのは?
前畑) これです。最近発見して驚いています。
    10年前、アメリカで出版されたノンフィク
    ション。日本に入っておらず、日本語訳
    もない。ですが、この中の犯罪が、今回
    の連続誘拐殺人事件にそっくりで、女性
    ばかりが拉致され、殺害され、その家族
    へ、もてあそぶような電話がかかります。
    この本では単独犯なのですが、その犯
    人が、捜査の途中で事故死までします。
    警察は、被疑者死亡で彼を送検。する
    と、その犯人の友達だと名乗る男がマ
    スメディアに登場し、こう訴えます。真犯
    人は別にいる。男は全米の注目を浴び、
    マスコミの寵児となり、世論は動き、警
    察も再捜査。その結果、友達は無実だ
    と主張したその男こそ、真犯人だったと
    いう、実におもしろい傑作ノンフィクショ
    ンなんです。男は逮捕されました。その
    とき、警察とマスメディアに、なぜこんな
    ことをしたのか?と問われてこう答えま
    す。だっておもしろかったから。みんなも
    楽しんだだろう?
網川) デタラメを言うな。
前畑) デタラメではありません。この本のタイ
    トルは、「ジャスト・ビコーズ」。直訳する
    と「なぜかと言えば」。10年前、アメリカ
    のメリーランド州で実際に起きた事件で
    す。今回の、私たちの、この連続誘拐殺
    人事件の真犯人Xは、この事件が日本
    で知られていないのをいいことに真似し
    ちゃったんですよ。
網川) 真似た?
前畑) ええ。まさにサル真似。犯罪に著作権
    があるのかどうか知りませんが、真犯
    人Xは盗作をした。この物語は、Xの、
    オリジナルじゃなかった。真犯人Xは、
    このメリーランド州の誘拐殺人事件の、
    模倣犯にすぎません!
網川) 盗作なんかじゃない!
    全部、僕のオリジナルだ!
    全部僕が考えて、生み出した物語だ!
    模倣犯だって? ふざけんな!

**********

男性) CMに入りました!
前畑) 網川君、今の発言ってまるで、自分
    が犯人だと認めたようなものだけど。
    私たち、そう受け止めてもいいのかな?

**********

電・網川) 塚田君…。僕は、何者なんだろう?
電・有馬) 俺が答えてやる。網川。
      お前はな、人でなしだ。
      人でなしの人殺しだ。
      お前、たくさんの嘘をついた。けどな、
      お前の嘘はバレた。全部バレた。
      いいか? 本当のことっていうのはな、
      お前がどんなに嘘をついても、
      どんなに遠くまで捨てに行っても、
      必ず帰り道を見つけて、
      お前のところに戻ってくる。
      ブーメランのようにな。
      絶対、お前に、返ってくる。
電・網川) 嘘つきは前畑滋子のほうだ!
      僕は模倣犯なんかじゃない。僕は…。
電・有馬) 黙って聞け。バカ野郎!
      お前はな、どうあがいたって、
      どんな理屈をつけたって、歪んで、
      壊れて、空っぽの、他人を傷つけて
      偉ぶってる、クズ野郎だ。
      世間てのはな、お前のようなヤツが
      もてあそべるほど、単純なものじゃ
      ねえんだ。おい! 聞いてんのか?
      このクソ野郎! 俺たちはタフだ。
      助け合って生きてんだ。
      こんな強いことはねえ。
      ナメんじゃねえぞ! この人殺しの、
      ろくでなしの、クズ野郎!
      二度とここへかけてくんじゃねえ。
      いいな!

**********

原作は未読。映画も見ていないし、「模倣犯」と
いう名前だけを知っているという状態での視聴。

面白かった~! そして…怖かった。フィクション
ではあるけれど、誰にでも降りかかる理不尽な
暴力がリアルに想像できて怖かった。被害者の
家族でも、加害者の家族でも、どちらも全く関係
のない顔の見えない「世間」の勝手な憶測、決
めつけ、単純な好奇心という暴力に…晒される。

「悪とは何か」と語る網川の言葉が、心に刺さる。
人は理由を求める。責めるべき、タ―ゲットを欲
しがる。「肉体的精神的な暴力を打ち下ろす側
に観客が次々と回る」ことが、容易に想像できる
のが、本当に怖い。犯人はともかく、犯人とみな
された人が、あっという間に歪んだ正義感の名
のもとに、ネット上に個人情報が晒されてしまう
恐ろしさ。昨日の味方は、明日簡単に敵になる。

テレビ東京は、いつの間にか本当にいいドラマ
を作るようになったなあと。いい役者、いい脚本、
いい演出。とても見応えのあるいいドラマだった。

それにしても…濱田龍臣の成長ぶりにびっくり。
背も伸びて、すっかりイケメンな青年になってた。
子役が大人になる分、年を取ったことを自覚す
る日々。まあ、それも楽しみではあるんだけどw


●「模倣犯」HP

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