「掟上今日子の備忘録」第7話~忘却探偵が秘密の同棲天国と地獄の5日間 | 日々のダダ漏れ

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「掟上今日子の備忘録」

掟上今日子の忘備録

第7話
私を寝かせないで!
忘却探偵が秘密の同棲天国と地獄の5日間
 

人と人がいれば、
おのずと関係性というものが生まれる。
特に男と女の場合、
関係性はめまぐるしく変化する。

例えば、
どちらか一人が死んでしまったら、
残された者は、忘れがたいその記憶は、
どうなるのだろう。

今日子さんは卑怯だ。
自分だけは、すぐにでも忘れられるのだから。

それだけに今日子さんは、脆く、儚い。


**********

30分で長編一冊とは驚異のペース。
読むのが速いと言うだけのことはある。
99冊×30分=2970分=49.5時間。
2日ちょっとで読み終わる。
2日の徹夜くらい余裕だ。

今日子さんをただ見守るだけのこの仕事。
退屈で眠くなるかと思ったが、
全くならない! 楽しくて仕方ない!
今日子さんを見ているだけで時給が発生する。
この世にこんな幸せな仕事があったとは。
待てよ。
もし僕と今日子さんが結婚し、
妻と夫という関係になったとしたら…。

今日子さんを毎日見られる。
リラックスした姿や、寝顔でさえも。

いや、待て待て。
今日子さんは眠るたびに
僕のことを忘れてしまうわけだから…。

駄目だ。
なまじ不運な人生を送ってきたせいで、
妄想ですら幸せな想像が出来ない。


**********

須永先生は、
平行していくつものシリーズを手掛けていた。
作品をシリーズ別に分けると、
ほとんどの作品が何かしらのシリーズもので、
計22のシリーズが存在する。
そしてどのシリーズも、きちんと完結している。
読者が一人でもいる限り、
何年かかろうも作品を完成させる。
それが須永先生の、矜持だったようだ。


**********

思えば、無謀な挑戦だったのだ。
「とても無鉄砲」だったのだ。
今日子さんならもしかしてと期待した僕が甘かった。
一人の人間が、寝ずに99冊もの本を読むなんて、
「とりとめのない多重事故」だったのだ。
できることならいつまでも、
「嬉し恥かし文化祭」でいたかった。

この12時間、
今日子さんの機嫌の悪さはピークに達している。

何だこれは…。
結婚もしていないのに、倦怠期の夫婦か。

倦怠期の夫婦どころじゃない。
これは、奴隷だ。
主人と奴隷の関係だ。

分かってる。
全ては眠気と疲労のせいだ。
この状況のせいであって、
今日子さんのせいではない。
問題は、僕が今日子さんを、
嫌いになってしまいそうなことだ。
今日子さんを憎々しく思う日が来るなんて…。
睡眠不足はこうも人から正気を奪うのか。
いや、僕という人間が、
小さい男だから悪いのか。
そもそもこんな仕事引き受けなければよかった。
元はと言えば、
重信の野郎がこんな依頼を持ち掛けて…。
いや、元はといえば須永先生が…。


厄介) なぜ死んだ、須永昼兵衛!!
    すいません…。静かにします。
掟上) チッ!


いかん。
僕もだいぶ壊れてきている。
思い出そう。可愛かった今日子さんを。
愛すべき今日子さんを。

可愛かった…。
あの時も、この時も、あの時…。


(回想)
掟上) そういうの、パスです。パ~ス~。


余計なことまで思い出してしまった。

今この時のことも、
今日子さんは忘れてしまう。
僕は、忘れられないのに。
嫌いになりたくないのに。
忘れてしまえる今日子さんは、卑怯だ。


**********

そうして再び日は暮れ…。
この頃にはもう、
今日子さんに頼まれるがまま、
眠らないためのあらゆる方策を尽くすしかなく…。


掟上) はぁ~! まずい。
厄介) ごめんなさい。
    こんなもの、食べさせたいわけじゃ。
掟上) はい。目が覚めます。


これじゃ、拷問だ。
罪人と、拷問の執行人だ。
なぜ好きな人をここまで
苦しめなくてはならないのか。


**********

今日子さんは、以前言っていた。

(回想)
掟上) 知りたいんです、私は。
    掟上今日子が、なぜ探偵なのか。


その真意が何なのか、
いまだに分からないけれど、
謎を解くことが今日子さんの人生で、
望みであるのなら、
僕はそれに、付き合うしかない。

読書開始から90時間。
僕と今日子さんは、
運動部のチームメートさながらの
スポ根的関係へと移行していた。

しかし、肝心の推理は置き去りで、
とにかく99冊を読み切る。
…という見当違いの目標へと、
向かっていたようにも思う。


**********

冷水を浴びたまま3時間。
死んでしまう。この人は、死んでしまう。

冷え切った体を急激に温めると、
冷たい血液が心臓に戻り、
ショック状態を起こすことがある。
スキー場でバイトした時に習った、
凍傷のケアと同じだ。
少しずつ、温めないといけない。

僕はレスキューさながら、
患者を温め続けた。


**********

この時の僕は、
多分かなりイカれていた。
疲れと寝不足と、
今日子さんが無事だったという、
そのことに。
だからあんな大胆なことが、
できたんだと思う。
僕は、今日子さんを裏切る。


調査終了まで今日子さんを
起こし続けることを誓います
           隠館厄介


こんな依頼、始めからなかったのだ。
記憶を奪わなければ、
今日子さんはまた一から同じことを始めてしまう。
今度こそ、死んでしまう。


厄介さんに眠らないよう
見張っていてもらう!


初めて記された、僕への信頼。
全てをなかったことに。
跡形もなく、徹底的に。

忘れていい。
全て忘れればいい。
忘れてしまえば、
また新しい一日を始められる。

犯罪だけは犯すまいと、
清く正しく生きてきた僕だが、
いざとなると、
さまざまな仕事経験が生かされ、
証拠隠滅のためのあらゆる知識を
持っていたことに気づく。
僕は悪党だ。立派な犯罪人だ。
僕と今日子さんは、
加害者と被害者になってしまった。
裏切り者の僕は、もう二度と、
今日子さんに助けを求めることはできない。
それでいい。
探偵は他にいくらでもいる。
でも今日子さんは、一人しかいない。

その時、僕は何気なく、
見てはいけないものを、見てしまった。


**********

掟上) 須永先生はノンシリーズの中でひそかに、
    少女から成長し、おばちゃんになっていく、
    1人の女性を描いていた。では、その朝美
    さんとは誰なのか?
重信) 実在するんですか?
掟上) はい。小中社長が古い資料を調べて、
    問い合わせてくれました。学生時代、
    須永先生がお付き合いしていた少女。
厄介) それが…朝美さん。
掟上) 17歳の時、ご病気で亡くなったそうです。
    だから須永先生は、命と向き合う作家になった。
    生きたくても生きられなかった彼女を思い、自
    ら命を絶つ、自殺を忌み嫌って、作中で一度も
    言葉ですら使わなかった。2月は彼女の誕生
    月だそうです。須永先生にとって、ノンシリーズ
    の執筆は筆休め。ファンはみんなそう思ってい
    ましたが、とんでもない。須永先生にとっては、
    ノンシリーズこそが、宝物だったんです。
    物語の片隅で朝美さんは、元気に高校を卒業
    し、働いて、結婚して家庭を持って、子供を育
    て…。ひっそりと、平穏な人生を生きていた。
    45年にわたって、須永先生と共に。「とうもろ
    こしの軸」の中で、朝美さんはまだお元気です。
    一人の人間の人生を描くのであれば、大往生
    するまでを描いてこそ人生。ノンシリーズはま
    だ、完結していません。
重信) そうだ…志の途中だ。
厄介) 須永先生が、物語を終わらせずに、
    自殺するはずがない。
掟上) 社長さんも納得してくださいました。
    自殺ではなく、不慮の死による最後の作品とし
    て、遺稿を出版するよう、部下に厳命するとの
    ことです。以上で、証明を終わります。


**********

厄介) じゃ、僕が、
    今日子さんの体のメモを消してる間も…。
掟上) バッチリ起きてました。
厄介) 信じられない。なら止めてください!
    もうメモを見ちゃってたなら、
    必死に消す必要もなかったわけで。
掟上) この人頑張ってるなあって、応援したくなって。
厄介) はっ?
掟上) 頑張る男子の姿、大好物なんです。
厄介) あの状況でのんきな…。
掟上) だって、怖くなかったんです。不思議と。
    厄介さんにメモを消されてる間、
    何だか安心してたんです、私。
    この人なら大丈夫、安心できるって。
    多分この人は、ずっと前からこうやって、
    私に優しくしてくれてたんだろうなぁって。
    何となく。お世話になりました。
    うちにいた5日間、  
    私随分ひどい態度も取ったのでは?
厄介) はい。かなり。
掟上) ハァ。お恥ずかしい。
厄介) いえ、お互いさまです。
掟上) そうですね。私なんて裸見られちゃったし…。
    忘れてください。
厄介) 努力します。
掟上) 今度厄介さんのも見せてくださいね。
厄介) え?
掟上) 冗談です。
厄介) ハァ…。
掟上) またご入り用の際は、ご連絡ください。
厄介) 依頼していいんですか?
掟上) もちろん。
    それと…寝室の天井のことですが。
    決して口外しないように。


**********

あの時、見てしまった、見てはいけないもの。
朝、ベッドで目覚めた今日子さんが、
一番に目にするであろう、メッセージ。

お前は今日から掟上今日子
探偵として生きていく

今日子さんの筆跡ではない、
あの文字は?


厄介) 誰が、あれを?
掟上) 分かりません。
    私はそれを知りたくて、
    探偵をやっているのかも。
    でも、自分が探偵であることには
    しっくり来るんです。
    探偵、掟上今日子。その名前さえあれば、
    一日を生きていけるような気がする。
    おかしな話ですね。


この日僕は、ある決心をした。
探偵と依頼人という関係からすれば、
出過ぎたまねかもしれない。
でも僕は、そうせずにはいられなかった。
須永先生が、朝美さんの人生を、
人知れず紡ぎ続けたように、
今日子さんの儚い人生を、
消えてしまうその日々を、
誰かが、僕が、この手で。


**********

図らずも、天国と地獄の同棲体験をすることになった
厄介の心の変遷が…かなりツボ。大好きな今日子さ
んを嫌いになりそうで苦悩する厄介が、ホント愛おし
くって。そう、極度の眠気、疲労は人を凶暴化させる。
例えば寝起きの悪い私は、午前中の電話の対応が
すこぶる悪い。それが身内、家族だったりすると、そ
の不機嫌さは頂点に。段々目が、身体が目覚めてく
ると、申し訳なかったと反省するのだけれど…眠気
には勝てなくて…。健全な精神は、健全な肉体に宿
るとはよく言ったものだと思う。どんなに好きな人で
も、体調の悪さから、気持ちが揺らぐところが人間ら
しくて、運が悪すぎるのも含めて、厄介が愛おしい。

そして、どんなに今日子さんの記憶がリセットされよ
うと、厄介に蓄積されていく記憶、彼がどんどん今日
子さんを好きになっていく事で、どんどん関係性が変
わっていくのが面白い。今日子さんは、毎回厄介に
初めて出会う感覚なのだけど、その厄介は、常に変
化してるというか。日々、昨日よりも更に今日子さん
好きになり、大切に思うようになっていく厄介が、ニュ
ー厄介が、今日子さんの前に現れるわけで。それが、
今日子さんに、「厄介さん信用できる」とメモを残させ
るまでの変化を起こさせる。そのうち、一目でこの人
は私を愛している人だと認識されるようになるかも?

厄介の存在あっての、掟上今日子の物語なんだねぇ。
このドラマがどんどん好きになっていく私です(*^。^*)

 
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第10話~愛してるから永遠にさよなら・・・涙の結末忘却探偵の最後の恋

●「掟上今日子の備忘録」HP


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