午後3時41分 臍の緒を引っ張り、胎盤が摘出された。
会陰切開は5時の方向(左下)に行われたが、分娩後は7時の方向(右下)も裂けていた。約1時間20分も縫った。
900ml出血した。分娩時の出血は普通400mlと言われている。
出血が多かったのは胎盤が低かったことと関係がある。
まず前提として胎盤が外れたら大出血である。
産んだ後であれば、その大出血を子宮が縮むことで行っている。
子宮の下の方は最後に収縮する。
だから、胎盤が低いと出血量が増える。
前置胎盤が改善したとしても、分娩時は注意が必要なのはこのためである。
縫い終わった後は寝ていた。
7時くらいに起きた時、LDRから別の部屋にうつされていたカノープスが戻って来た。
助産師さんにお願いし、初乳を与えた。
初乳が出たことに安心した。
ーーーーー記録ーーーーー
妊娠週数 39週6日
出生時間 午後3時33分
体重 3030g
身長 47.8センチ
備考 臍の緒が首に3回巻いていた
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記録を見返すと、よくよく3に縁のある子である。
臍の緒が巻いてさえいなければ、私はお産を楽勝だと思っていたことだろう。
いやあ、世の中甘くないというか、そうやすやすとは何事も成せないようにできているようだ。
カノープスを“けい”と名付けた。
けい、という漢字が、私と夫の名前どちらとも読めること、画数がいいこと、その他もろもろの理由でこの名前にした。
このブログの主と同じ名前になったのはたまたまである。
(けいは私の本名ではありません)
妊娠期間は辛かったし、悩みが深かったけれど、出産を終えてみて私はけいを産んでよかったと思っている。
妊娠してよかった、子どもを産み育てるのは素晴らしいことだと思っている。
初乳を飲むけいを見ながら私は永遠を感じた。
私は死をずっと怖がっていた。
思春期の頃からだ。
ある日、死というものが身に迫ってきて、それからというもの怯えている。
いつか終わることに震えている。
生きることに囚われている。
けれども、けいを見たとき、初めて、自分の死など瑣末なことだと感じられた。
遠く、昔から、こうやって続いてきたのだと感じられた。
頭でわかっていても、実感でいなかったことが、実感を伴って理解できたように思った。
子どもというのは死すらも跳ね除ける希望そのものだと思った。
完全な開放感だった。
とはいえ、である。
この病室を出て、現実に戻れば、今感じていることは猥雑な現実の中に埋もれていくのだろう。
一瞬の感動に過ぎないようにも思う。
脳内物質が見せる幻かもしれない。
ただ、それでも、命の大きな流れを感じたこの瞬間を、肌で子どもは希望なのだと感じられたことを、ずっと覚えていようと思った。
おしまい