愛とか恋とかエロスとか
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はじめの一歩

男のひとと初めてキスしたのは、はたちの時。
深夜。わたしの部屋の、ベッドの上だった。
髪の毛やオデコ、まぶた、鼻の先、ほっぺた、それから、あご。
彼のくちびるが、チュッと小さな音をたてながらすこしずつわたしのくちびるに近づいてきた。わたしは、うっとりしながら、その瞬間を待っていた。



わたしははたちになるまで、男のひとと例えば手をつなぐとか、からだに触れられるなんて一切考えられなかった。『肉欲の対象』として見られるなんて、なんてケガラワシイ!と思っているような、なんというか、見方によってはカワイラシイ女の子だった。


そんなわたしが、その夜はあろうことか、早く彼のくちびるがくっついてくれないか、いまかいまかと待ち焦がれていたのである。

今でも忘れない。

あの夜が、後年わたしが『エロ天使』『エロテロリスト』と呼ばれるに至る長い道のりの、はじめの一歩だったのである。




消せないメール

わたしには、一通だけ、どうしてもどうしても消せないメールがある。


もう何年も前に受信したものだ。


送信者の男とは、1年とちょっと、肉体関係を持っていた。もう終わらせてしまった話だけど。



男からそのメールをもらって半年後、わたしたちは初めて寝た。渋谷の古~いラブホテルだった。
翌朝、夢を見ているような、ふわふわした気分で路線バスに揺られて帰ったのを覚えている。すごくよく晴れた、秋の連休初日だった。


それから男は、夜、気が向くとわたしの部屋を訪れるようになった。
たまに食卓を囲み、お酒を飲み、そして、必ずセックスをした。

男はわたしに髪の毛とからだを洗ってもらうことが好きだった。
わたしは泡立てたせっけんを手のひらに載せて、擦らないようにからだを洗うので、洗われている気がしない、と、よく言っていた。

お風呂上がりにラベンダーとオレンジのオイルでからだ中マッサージしてもらうのも、続いて敏感な場所に愛撫を繰り返していくのも、男の好きなことだった。


次に逢う約束のない日々。わたしの部屋のほかでは逢うことのない日々。
不安になるたびわたしは、あの時もらったメールを読み返しては、こころを落ち着かせた。



“きみの本質が素晴らしいことを確信した”


こんなひとことで、こころが絡め取られてしまった自分が、本当に単純でバカみたいだと腹が立つ。

あの男はきっと、名の知られた大学を卒業して身なりに気を遣って仕事を一生懸命しているすごくさびしがりやの女の子を見つけると、必ずこの魔法のことばを口にするのだ。


あの男からこんな言葉を贈られて、こころを揺さぶられない女の子は、きっといない。

背が高くてハンサムで、学生時代はスポーツマンで、大きな会社でたくさんの部下を抱えて、色んな人から愛されて嬉しいくせに、わざと斜に構えてる。


わかっているのだ。
あのメールを消せないのは、ただの未練だと。この人がわたしを理解してくれると勘違いした自分が愚かなのだと。
男と過ごした甘やかで濃密な時間は、今はもう失われてしまった。


だけど、

あの男が、わたしが女であることをわたしに教えた。
何人もの男に抱かれても、こどもを宿してそして亡くしても、わからなかったのに。

あのメールが、わたしを捉え、ひところはたしかにわたしの拠りどころだったのだ。