例によって、映画を観る前は予備知識なし。
原作があっても下調べしない。
 
何度も観た予告編から、ただのサスペンスだと思っていた。
想像の上をいく内容だった。
 
映画「ある男」
原作:平野啓一郎「ある男」
監督:石川慶
出演:妻夫木聡 安藤サクラ 窪田正孝 ほか
 

 
 
軸となるのは、弁護士城戸(妻夫木)である。
 
幼い子供を脳の病気で亡くし、離婚して郷里に帰っていた里枝(安藤)は、毎日、うつうつと暮らしていた。
老いた母と長男との3人暮らし。
小さな文具店を営む。
正直、パッとしない日々。
絵を描く道具を買いに来る、暗い謎めいた男、谷口(窪田)と知り合い、やがて結婚し娘が誕生する。
 
谷口は、林業に携わり真面目に働いて、子供たちから慕われるお父さんになっていた。
その間3年ほど。
しかし、谷口は不慮の事故で亡くなってしまう。
やがて露呈する夫の身元。
温泉旅館を経営する兄という人が(真島秀和)現れる。
行方不明になっていた弟だと。
しかし、写真のその人は弟ではなかった。
里枝は、横浜に住んでいるときに離婚で世話になった弁護士城戸に相談する。
 
というのが導入部分です。
徐々に紐解かれていく夫の過去。
言っちゃうとネタバレになるので感想が書けないアセアセ
 
しかし、話の内容というか、軸となるテーマは、身分を隠さねばならなかった男の素性ではない。
この弁護士もまた、何かから逃げるように偽って生きている部分がある。
堂々と、自分は自分と表明して生きていくことが難しい人たちがいる。
何か隠れるものがいる。
しかし、隠れても隠し切れない自分のルーツ。
隠す必要もないのに。
世間の目は、それほど優しくはないことを知っている。
 
誰でもが、一度は、何かから逃げたいと思うことがあるのではないだろうか。
逃げるのに、完全なる隠れ蓑がないと生きなおせない人たちがいる。
 
だけど、そんな「偽りの」人生でも、いつか真実になる。
愛されたり愛したりすることに嘘はないからなんだけど。
里枝の長男悠人を演じる坂元愛登がいい。
義理の息子だけど、この子の存在があることで救われた気持ちになれた。
 
世の中には、戸籍を買ったり譲ったりして他人になりすまして生きている人が、本当にいるのだろうか。
 
昔、亡くなった夫が、知らない人だったという新聞記事を読んだことがある。
家族を作ったその男が、何者だったかわからないということだったびっくり
 
 
平日だが、けっこうお客さんが入っていた。
重い、少し暗い内容だけど、不思議と嫌な感じがない。
本当ではない自分と、どう折り合いをつけて生きるのか。
たぶん、そんな人は多いと思う。