- ユリイカ2010年12月号 特集=荒川弘 『鋼の錬金術師』完結記念特集/荒川 弘

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鋼の錬金術師に散りばめられた様々な要素、
エルサレム問題、宗教、国家、戦争、等価交換、再生医療、サイボーグ
ナチズム、原子、ビルドゥングスロマン、食物連鎖、ユートピア
などをそれぞれ取り上げている本です。鋼の錬金術師は難しいことを普遍的に伝える、
その媒介・ハブとしてすばらしい作品だと思いますし、漫画の示唆的なものを総括するのに
いいと思ったので、久々に衝動買いしてしまいました。
一番気になったのは、『ips細胞』の著者で幹細胞生物学者の
八代嘉美さんの章です。この方、以前雑誌で自らを悪魔に魂を売った
という意味深な発言をしていたことがものすごく記憶に残っていて、
このような本でまた文章を読んだに妙な巡り会わせを感じます。
フランドル戦争で損傷した兵士の頭の骨に、犬の頭蓋骨の骨を移植したことが
臓器移植の始まりであったり、再生医療のキーとなる幹細胞の発見のきっかけが
広島・長崎の原爆だったという話されていましたが、
劇中での、(国家レベルで)人間を殺して「賢者の石」
というエネルギー体に変えてしまおうという話と、
どこか共通点があるように思えます。
両方とも、研究したり、実践して死んでしまったり、
命を賭けたものの集約を利用するという面があり、
人類が蓄積した「知恵」はまさしく
現代社会を支える知識・技術の結晶=賢者の石と言えるかもしれません。
(使い方を間違えれば崩壊を招くと言う意味でも。)
また、八代さんも最後に、
作者の「クローン牛はよくわからないけど自然に反しているのだろう」
という語りを受けて、その「わからなさ」やiPS細胞を使うことの是非、
どこからモノでどこから命なのか、といったテーマを突き詰められなかったことを
惜しんでいたように、少年誌故に月並みな教訓だけ回答して終わった感はあります。
この疑問点だけ提示して語りえなかったものについて考えることが、
実は一番肝要な気がします。
人が生まれることの自然さ・不自然さを判定する線引きは
どこにあるのでしょうか?
二人が愛した証としての誕生した命は自然なものと感じるでしょう。
逆に人工的にクローン人間を作り出すことは不自然と感じます。
では、自然な愛によって命を生みだす自然な行為を、国レベルで
促す・奨励されることによって生まれる命は、自然か不自然か。
戦後の日本の人口の増加は、
付加価値の低い産業を補う意味でも、規模の経済的なメリットを出したり、
国内市場の形成・国内市場の消費者として、多くの人口が必要だったという
背景があると思います。
そういう国レベルの見方では、今いる多くの人は、経済合理的な目的で
今ここに存在しているとも言えるのではないかと思うのですが、
それは自分が人為的なもの=不自然なものの枠組みに
入ることを意味してしまう気もします。
(劇中、なぜ人体練成が禁止されているか、その理由として、戦力となりえる
人間を再生産する手段を国が占有することで秩序を保つ、というような趣旨の発言も
気になります。)
まあまとまりませんが、やはり色々考えさせる作品ではありますね。
END