- 悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記 (集英社文庫)/木村 元彦
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サッカーを媒介として草の根活動的に、
旧ユーゴ諸国(セルビア、クロアチア、モンテネグロ)の関係をあぶりだした本。
セルビアの選手たちが試合前の国歌斉唱を堂々と歌わない事に興味を持った、「オシムの言葉」でおなじみの筆者木村元彦による3年に渡るルポ(あとがきには「紀行文」と書いてあったが)。
サッカーからユーゴを見ているので、ユーゴの人たちの日常の気質についても描かれています。
1999年のNATOによる空爆の前後の様子が書かれており、当時から今まで無関心に過ごしてきた自分にとって、当時の感覚を分け与えてくれる本でした
この本のハイライトは、
セルビア軍によるアルバニア系住民虐殺が起こったラチャク村での事件を皮切りに、NATOの空爆、そしてユーロ2000予選でのユーゴスラビアVSクロアチアまでの一連の流れです
「いいか、これからここで起こることはフットボールだけだ。
何を言われようとも、起ころうとも集中力を切らすんじゃないぞ!」
というストイコビッチのセリフから始まるその試合展開は、
サッカーファンならずとも息を呑むものがあります。
印象的だったのは、試合中、同じ予選でのアイルランド対マケドニアが引き分けたという結果がスクリーンに映し出された時のユーゴ側の反応です。アイルランド対マケドニアが引き分けたことで、勝ち点的にユーゴ側はこの試合に引き分けるだけで1位通過できる。つまり余裕ができる。しかしベンチの彼らはベオグラードのプレスに真偽を問い合わせてしまいます。クロアチアが僕たちを油断させるため嘘の情報を流したと思った、と、世界中からだまされ裏切られてきたトラウマ・疑心暗鬼が顔を出すシーンでした。
END
メモ:
・経済封鎖されている国にとって、選手を西側ビッグクラブへ移籍させ、移籍金をを手に入れることは大きな外貨獲得の材料である。非セルビア系民間人への虐殺を行った戦犯アルカンは、社会党政権で民営化が進まぬユーゴで、サッカークラブの分野で民営化に着手し、選手を国外に売らず国内で育てるという、ビジネスを度外視した取り組みをした。
・空爆のきっかけとなったランブイエ交渉破局に関して。薬が手に入らず、子供が死んでいくなど8年に及ぶ経済制裁で疲弊していたユーゴ(セルビア)は空爆回避のため、コソボの自治権拡大を受け入れ、合意文書に調印する予定だった。それを拒否したのは、交渉期限切れ18時間前にアメリカから提示された付属文書B(通称アネックスB)によるものだった。その内容は「コソボだけでなく、ユーゴ全域でNATO軍の展開・訓練・治外法権を認め、課税・犯罪訴追を免除せよ」というユーゴの占領地化を意味するもの。「NATOは紛争解決よりもとにかく空爆をしたかった。だから合意されそうになると、飲めるはずもない条件をつけて破綻させた」
・ クロアチアが独立宣言前年に単独でアメリカ代表と親善試合をしたり、アドリア海のドブロニクなどで外人を呼んでいるように、モンテネグロのアルバニアと親善試合したり、アドリア海舞台の観光立国を狙うことは、国際社会にアピールし、セルビアからの独立を前提に働きかけている動きといえる。セルビアとモンテネグロは宗教の違いすらないが、それだけセルビアのイメージを背負うのが嫌ということか。しかし製鉄所やビール工場はセルビアが最大の市場であり、鉄道・観光もその客頼りである。