バットマンの新作『ダークナイト ライジング』を観に行く前に過去シリーズを観直しておくというのは実に良い考えだ。

ということでここ数日かけてシリーズ作品に再度触れてみた。

バットマンと言ってもメジャーどころでは3シリーズに分かれる。

ティム・バートン監督の『バットマン』『バットマン リターンズ』

ジョエル・シュマッカー監督の『バットマン フォーエバー』『バットマン&ロビン』

クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』だ。

この3人の監督作品以外にもバットマン作品はあるが今回は省略。


まずは元祖にして頂点、ティム・バートン。

興行的に大成功をおさめ、今日まで続くバットマン作品の礎である。


ただ同じバートン作品とはいえ無印とリターンズではだいぶ毛色が異なる仕上がりになっている。

無印ではジャック・ニコルソン演じるジョーカーの演出が実に見事だ。

というのも物語序盤、ジョーカーはただのギャング。ありふれた悪党の一人に過ぎない。

そんな敵ならばバットマンではなくブルース・ウィリスやスティーブン・セガールにでも任せておけばいいだろ~という程度の。

ただジョーカーに変貌してから急速に世界観がバートン色に染まっていく。

それまで『アンタッチャブル』みたいな、『なんでお互いに至近距離で打ち合ってるのに当たらないだ?しかも全員撃ち方がガニ股!』という緊張感のないアクションから、バットマンvsジョーカーの兵器合戦に変わるのだ。

これは正に圧巻。そこに狂人ジョーカーのキャラが乗るのだからグイグイ引き込まれてしまう。

やはりなんと言ってもジョーカーのビビットなファションセンスはスタイリッシュすぎてかっこいい。


第二作目のリターンズ。これは無印に比べ最初からバートン色全開だ。

例えるなら『ルパン三世 カリオストロの城』。この作品ってルパン作品と呼ぶべきか宮崎アニメと呼ぶべきか分類に困る。

リターンズはバートンアニメなのか、バットマン作品なのかで迷う。

ナイトメアのバットマン版とでも言うべきおとぎ話チックな展開だ。

ここでもやはりダニー・デビート演じるペンギンの装飾がステキ過ぎる。

劇中でペンギンが両親の墓参りに行くシーンなんて額に入れて飾りたいほどにキレイだ。

それにキャットウーマンの悲しい人生、怪人シュレックのしぶとさなども見所。

無印、リターンズ共にバットマンを演じるのはマイケル・キートン。

近年のバットマンに比べて貧相に見えてしまうのは時代的に仕方ないことではあるが、このキートンバットマンは非常にお人好しだ。

そしてもうひとつの顔であるブルース・ウェインに至っては無印では、その少年期のトラウマに苛まれてはいたけれど、リターンズの頃にはそんなこともなかったかのようにふっきれているなど、基本的に明るい。

最近のヒーローにありがちな自分自身との戦いということにはあまり重点は置かれておらず、あくまで勧善懲悪の古典的ヒーローである。

その為、非常に分かりやすく万人受けする作りなのもバートン作品ならでは。


ということで最後に独断と偏見で選ぶ無印&リターンズにおける名シーンBest5。


第五位 捨てられたオズワルド

リターンズのオープニングで奇形児として出生したオズワルドが両親によって川へ捨てられ、下水を流れ動物園のペンギンの元にたどり着くというシーン。

オープニングクレジットとペンギン出生の謎を同時に映しているのだが、とにかく暗い。
バットマン=夜行性のイメージだが、リターンズは特に夜のシーンが多い。その夜は深く暗い。

これから始まるストーリーの異常さを暗示し、かつリターンズ特有のおとぎ話感が滲むこのシーンはとても印象的だ。


第四位 ブルースリーの死亡遊戯?

無印の終盤。ジョーカーは教会の屋上へベッキーを人質に取り逃げ込みます。

超高層級の教会を螺旋階段で登りジョーカーを追うバットマンの前に現れたのは謎の黒人グラサン野郎。

こんな奴ジョーカーの手下にいた?というくらい唐突に出てきたこのブラザー。

このシーンがブルース・リーの代表作である『死亡遊戯』でリーが、スパルタンXのように1フロア毎に敵を倒して建物の上に上がっていくというシーンの三階と瓜二つ。

背の高いサングラスの黒人アフロという奴。これはオマージュかなんかかな?ブルース・リー好きにはたまらないシーンでは。


第三位 クールでシュールなプードル女

ペンギンの手下にはサーカス芸を得意とする者が多い。その中で1人異彩を放つのが中世貴婦人の衣装を纏いプードルを抱え持つ常に無表情なプードル女だ。

出自はペンギンと同じサーカス団の奇形集団ということが語られているが、詳細は謎だ。

戦闘能力も未知数で、バットマンが放ったブーメランにより仲間のサーカス団が倒されていく中、彼女はプードルを使いなんなくかわしてしまい、バットマンを驚かせるが、その直後にふらっと歩いて逃走している。

ラストでもペンギンを見捨てて逃亡するなど、その存在はミステリアスだ。


そんなプードル女の素敵なシーンは、ペンギンの手下全員でバットモービルを改造するシーン。

みんなヘッドライトをつけてテキパキ作業している中で、プードル女だけはプードルを抱っこしたまま遠くを見ている。1人だけヤル気ないくせに頭にヘッドライトだけはつけているという
シュールさがたまらない。


第二位 悪夢に出る怖さ!一輪車ピエロ

またもペンギンの手下の1人なのだが、この一輪車ピエロは1カットしか出てこない。市長がプラザで演説した際に襲撃してきたサーカス団。

バイクを乗り回し狼藉を働くガイコツスタイルな者や、火を吹くピエロがいる中、一輪車に乗って空に向かいサブマシンガンを乱射しつつ女性を追いかけまわすピエロが1人!

なにそれ!シュール過ぎる。一輪車いる!?サブマシンガン乱射する!?

そのポリシーたるや尊敬に至るピエロだぜ。


第一位 怪物ペンギン

普段から興奮すると口から黒い体液が垂れてくるペンギン。ラストで下水に突き落とされた死んだかと思いきや、最後の力を振り絞って立ち上がりバットマンの背後に歩み寄ります。

そして自慢の仕込み傘で襲いかかろうするものの、選んだ傘には銃ではなく子供をあやすオモチャが仕込まれていた為、失意のまま黒い体液を吐いて憤死。その醜悪さたるや、ホラーです。

そんなペンギンの死体の周りに我が子のように育てたジャイアントペンギンが集まり、ペンギンの死体を下水の中に葬るシーンがあります。

これは一体?

バットマンシリーズの悪役の最後は墜落死またはアーカム病院に収容されるという形で幕を閉じます。


それなのにこのペンギンだけは、死後に弔われるという描写があります。


全体的におとぎ話的なリターンズならではのラストなのかもしれませんね。



次回、フォーエバー、Mr.フリーズの逆襲に続く。


iPhoneからの投稿

2004年アカデミー作品賞に輝いた「クラッシュ」



アカデミーを獲ったという割には何の情報も分からない。



ぜんぜん記憶にない。そもそもヒットしたんかな?



でも、こんな感じのほうが先入観なく観れるので本当はいいんですけどね。



さて。



冒頭から説明っぽい感じのナレーションが。



「人とぶつかり合うのが何たらかんたら~」みたいな。



「昔々、おじいさんとおばあさんが~」的な始まりで、驚いた。悪い意味で。



で、そこから回想シーンの連続。



要は世の中には色んな人がいて、頑張って生活してるけど、みんな一人じゃなく助け合って暮らしてるんだよ。っていう話。



そんな内容なので、特に主人公は設定されておらず、登場人物全員が主人公としてストーリーがありそれが他の登場人物と絡み合っていくという話。まさに人間交差点そのもの。



これぞ!という展開もなく結構ベタな感じで進んでいくので正直退屈だ。



ただ、この映画は人種差別を扱っている。これはデカイ。



日本人からしてみると、「人種差別」というものにピンとこない。



こんなことを言ったら怒られるが、日本は他国に比べ「限りなく単一民族の国家」だ。もちろん完全ではなく、限りなくだが。



その人種問題に大きく切り込んでいる作品だ。



黒人、ヒスパニック、アラブ、メキシコ、アジアなど登場人物の大半が何らかの差別を受けている。正当なアメリカ国民なのにだ。



その描写は結構エグイ。見てて切なくなる。



そんなたかが人種で差別するのかよ~って悲しくなってしまうが、これは何もアメリカだけの問題ではない。



要は人間の先入観という問題だ。



登場人物の一人であるペルシャ人がアラブ人に間違われて差別される。ペルシャ人は「アラブ人ではない」と言うが、僕もてっきりアラブ人だと思っていた。



登場人物の白人夫婦が「白人の街」を歩いている時に前から黒人の若者2人が近寄ってきて警戒した。

僕だって今住んでいる家のすぐ側だろうと、夜に黒人と遭遇したらビビってかなり警戒する。



相手のこと何も知らないのに、知らないからこそ予防線を張ってしまう。それが行き過ぎると人種差別になるのだろう。






日本より治安の良い国はないと言われる昨今。



確かに海外は危険なトラブルに巻き込まれてしまう可能性の”イメージ”がある。



確かに言語も文化も法律も違うのだからトラブルになったとき面倒にはなるだろう。ただ、僕は海外に何度か行ってるがトラブルになったことは一度もない。たぶん。



「東南アジアや中東は治安が・・・」なんていう思い込みが、そもそもの人種差別だ。



何かと政治外交でトラブルが絶えない中国。



問題があると「中国はいつも・・・」なんていうのも同じ。



何だって、誰だって悪いところを探すのは簡単だ。マイルールにそぐわないものが該当するのだから。



何だって、誰だって良いところを探すのは難解だ。マイルールに合致しなければならないのだから。



自分の許容範囲を広げれば他者の良いところというのは増えると思うんですがね。






そんなことを考えさせられる映画でした。



あとサンドラ・ブロックが良い感じでオバちゃんになってた。



少し退屈ではあるけれども面白いことは面白い。もう少し一人づつのストーリーを掘り下げて見せてくらたら!って思ってしまうが、これでアカデミー賞なので、あと少しを見せないというのが焦らしのテクニックなのかもしれん。そんなのもキライじゃないけどね。いやむしろ好きかも。




アカデミー作品賞を獲った作品を鑑賞する今週。


今回は2007年度の作品賞『ノーカントリー』。


映画公開当時、特異な殺人者がクローズアップされた映画という記憶がある。


監督はコーウェン兄弟。


この映画、観終わった率直な感想は『コーウェン兄弟やっちまったな!』というものだった。


『やっちまった』というのは『やられちまった』とも置き換えられる。


そう僕はこの映画にやられてしまった。


いや、僕だけではないと思う。この映画を観た大半の人が『え?終わり?』と呆気にとられてしまったと思う。


それもそのはず。すげぇ終わり方をする。


正直言って、まったく理解出来ずに終わった。フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』を初めて観た時のように。


無常にも流れていくエンドクレジットを眺めながら、驚きと理解できなかった悔しさから、必死に思い出し整理してみた。


でも無理だ。わけわからん。


ということですぐさま観返すことにした。しかも本気で。フリーザで例えるとナメック星でのドラゴンボール探しの時点でドドリア、ザーボンに任せず、もう第4形態に変身してギニュー特戦隊も呼んでるくらいに本気。


いや、それくらいじゃないとダメこの映画は。


ということで、昨夜2回と本日の計3回観た。


それで、ようやくわかって"きた"。


この映画はとても深い。とても。


物語は80年代。麻薬組織から大金を盗んだベトナム帰還兵のルゥエリン、そのルゥエリンを追う組織の追跡者シガー、街の老いた保安官エドという3つの視点で構成されている。


前半はルウェリンとシガーの鬼気迫る攻防戦。後半はシガーの異常さと保安官エドの葛藤だ。


ただ原題の『No Country for Old Men』からも分かる通り、この映画は老保安官エドが主人公だと思う。出番は少ないけれども。


表面的に見れば、時代についていけなくなったおじいちゃん保安官が最近は予想できないような犯罪が多くてやってらんない。引退するよコンチクショー。というものだ。


劇中のセリフで『20年前に、髪を緑に染めて鼻にピアスしてる若者を想像できたか?』というのがある。


昔のような自分が知っている我が祖国はなくなっちまったよ。ノーカントリー。ということだ。


だが!


そんなテーマだけならアカデミー獲れるワケがない。


この映画の真髄は殺人者のシガーだ。


シガーの狂気はバットマンシリーズ『ダークナイト』のジョーカーに匹敵する。


ただジョーカーは積極的な狂気。シガーは不条理な狂気だ。


なので、シガーの狂気の怖さはジョーカーをも凌駕する。


劇中、コイントスで相手の命を奪うか決めるという、バットマンの登場人物トゥーフェイスと同じ行動がある。


トゥーフェイスは僕が1番好きな悪役だが、その行動原理は簡単だ。表か裏しかない。


しかしシガーの行動原理はこうだ。


『コイントスに生殺与奪を委ねばならなくなったお前が悪い』


被害者からしたら不条理極まりない。


毎日病気にならないように食事も運動もして長生きを目指していても、ある日、交通事故にあって死んでしまう。


家庭の事情で機嫌が悪くなっていた運転手が運転するタクシーに乗ってしまって、荒い運転をされる。


どちらも不条理だ。


ただそんな不条理というものは日常の至る所に潜んでいる。


それがシガーなのだ。


シガーの前で被害者たちは言う。


『何も殺す必要はないじゃないか』


まさに正論。


ただシガーには通じない。というか理解出来ない。


不条理という恐怖。それは何よりも恐ろしい。


そして、この不気味で不条理なシガーを際立たせているのか、演出だ。


R指定だったかPG指定がかかっている今作。序盤のシガーは殺し方も凄惨だ。


ただ終盤につれてシガーの殺人シーンは"映し出されなくなる"


ただこれまでの殺戮シーンを観てきている観客としては、シガーの行動から何をしたかが推測できてしまうという、コーウェン兄弟による小憎い演出だ。


全体を通して。サスペンスとしてもドラマとしても一級。


今年観たDVDのなかでは、飛び抜けて面白い。


ただ本当に難しい。僕は3回目に観た時は、停止・巻き戻しを繰り返して、何度も何度もセリフを考えながら観た。


根気と洞察力、そして根性がいる映画。アカデミー作品賞納得の超名作。