あやかし緋扇小説73*大切なもの | *Novel diary*

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「大切なものは、何ですか。」

そう聞かれたら誰だって迷う。


大切なものは、一つとは限らない。





「……未来はね」

未来の母は、陵の前の席に腰を下ろす。


陵は、はい、と返事をし、真っ直ぐな瞳で見つめた。

「入院する前、とある倉庫で見つかったの。裸体のまま、ね」


未来の母は伏し目がちのまま、ゆっくりとあの出来事を語りだした。




「未来…!未来!!」

救急車のサイレンはあたりに鳴り響き渡る。

ボロボロになった未来の体を毛布で包み、そのまま抱きしめた。


「ごめんね…っ…ごめんね未来っ!!」

涙を流しながら訴え続けた。


それでも未来の体死人のように冷え切ったままで、ピクリとも動きやしない。


入院してから数日間、未来は目を覚まさなかった。


「────だけど、つい最近目を覚ました未来だったけど………」

未来の母の目尻にはキラリと電気に反射する涙が浮かんでいた。


「…未来はショックで記憶を無くしてしまったの。」




ドクン、と胸の奥がざわめき出す。



「だけど、全て忘れたわけじゃないわ。

……“あの時”の記憶と共に、神山君と付き合っていたことだけ…」














ここはどこだろう。


ポツリと暗闇の中に一人、未来がいた。

「何……?…」

未来はキョロキョロとあたりを見回す。


真っ暗すぎて、どっちが前なのかも後ろなのかもわからない。



ズ キ ン ッ


「うっ……!」

突然、激しい頭痛に襲われた。


……何?なんなの?

胸の奥がもやもやしてたまらない。


喉の奥に何かが詰まっているみたいで、気持ち悪い。

ハンマーで叩かれているような痛みは続く。


視界は揺れて、あたりはぼんやりとピントが合わなくなる。



『大切なものは、何ですか?』





ふと、誰かの声が耳に響いた、ような気がした。



「大切な…も…の………?」