「大切なものは、何ですか。」
そう聞かれたら誰だって迷う。
大切なものは、一つとは限らない。
「……未来はね」
未来の母は、陵の前の席に腰を下ろす。
陵は、はい、と返事をし、真っ直ぐな瞳で見つめた。
「入院する前、とある倉庫で見つかったの。裸体のまま、ね」
未来の母は伏し目がちのまま、ゆっくりとあの出来事を語りだした。
「未来…!未来!!」
救急車のサイレンはあたりに鳴り響き渡る。
ボロボロになった未来の体を毛布で包み、そのまま抱きしめた。
「ごめんね…っ…ごめんね未来っ!!」
涙を流しながら訴え続けた。
それでも未来の体死人のように冷え切ったままで、ピクリとも動きやしない。
入院してから数日間、未来は目を覚まさなかった。
「────だけど、つい最近目を覚ました未来だったけど………」
未来の母の目尻にはキラリと電気に反射する涙が浮かんでいた。
「…未来はショックで記憶を無くしてしまったの。」
ドクン、と胸の奥がざわめき出す。
「だけど、全て忘れたわけじゃないわ。
……“あの時”の記憶と共に、神山君と付き合っていたことだけ…」
ここはどこだろう。
ポツリと暗闇の中に一人、未来がいた。
「何……?…」
未来はキョロキョロとあたりを見回す。
真っ暗すぎて、どっちが前なのかも後ろなのかもわからない。
ズ キ ン ッ
「うっ……!」
突然、激しい頭痛に襲われた。
……何?なんなの?
胸の奥がもやもやしてたまらない。
喉の奥に何かが詰まっているみたいで、気持ち悪い。
ハンマーで叩かれているような痛みは続く。
視界は揺れて、あたりはぼんやりとピントが合わなくなる。
『大切なものは、何ですか?』
ふと、誰かの声が耳に響いた、ような気がした。
「大切な…も…の………?」