悲しいことがあるわけじゃない。

なのに、胸が痛い。

泣きたいことがあるわけじゃない。

なのに涙が落ちる。

そんな夜があることを

私はいつ覚えてしまったのだろう。


「サマー・バレンタイン」 P110 唯川 恵 氏著



子供の頃の涙には、意味が有った。


転んで擦りむいたひざが痛くて・・・。


食べようと思っていたクッキーを、兄に盗られて。


観たいTVのチャンネルを、母に替えられて。


そして、思い切り声を上げて泣けば、終われる事ばかりだった。


なのに、いつからだろう。


大好きな人を思うだけで、

鼻筋がキーンと音を立てて、涙が出る様になったのは。


悲しい訳じゃない。

ただ、泣くと言う行為を貫くだけ。


なんで、泣くの?と、聞かれても、答えは無い。


ただ、彼の胸に包まれて、笑顔と一緒に涙が出る。


楽しいデートの後、

気を付けて帰ってねドキドキ

と、メールを打ちながら、涙が出る。


唇に届く涙は、どれも同じ様に、しょっぱい。


本当は、全然同じ涙じゃないのにね。