2000年の大晦日は、寒く、朝からどんよりと曇っていた。


それでも私の心は、今年最後の日にヨウに逢える喜びで、晴れていた。


ヨウの到着は、9時の予定だった。


義母には仕事と言っている為、

私は自分の車で出掛けなければならず、

義母との生活は、小さな所で私のストレスを

ひとつひとつ増やしていった。


ひと月以上振りにヨウに逢えると思うと、

私は家でのんびりしていられ無かった。


私は8時過ぎには家を出て、事務所に向かい、既に休みに入っていて、

冷え切った事務所の暖房を強くし、やって来るヨウを待った。


クリスマスの出来事以来、ぎこちなさを含んだやり取りを続けて来た

私達は、今日、久しぶりに逢ってどうなるのだろう。


逢える事への大きな期待と、普通に振舞う事の小さな不安がせめぎ合いながら、私は事務所のパソコンを立ち上げ、時間を潰していた。


ヨウはいつもの通り、早や目に着くとメールが届いた。


私は、事務所にもう来ていると返事をし、

ヨウの為にもう一度化粧直しをした。


2000年最後のデートは、元旦を独りで過ごすと言う

ヨウの為に、食材の買い出しに行くのが目的でもあった。


ヨウはいつも、着いたよと、メールをくれるが、その日は、車を駐車場に停め、いきなり事務所に上がってきた。


弥生。と、いきなりドアを開け、ヨウが目の前にいる。

私は、黙ってヨウの胸に飛び込んでいた。


私達は、それまでのぎこちなさなど忘れ、熱く見詰め合うだけで、

恋人の2人に戻れていた。


私の会社のビルは4階建てで、1階と2階は飲食店に貸していたが、そのお店は既に年末の休みに入っていた。


4階には兄嫁の弟がデザイン事務所を構えていて、

3階が私達の事務所だった。

勿論、4階の事務所もお正月休みで、今このビルにいるのは私とヨウの2人だけだった。


人けの無かったビルは、私達のいる部屋だけが温かく、四方の窓ガラスは人息れで、細かな水滴で覆われていた。


ヨウは強く私を抱きしめ、愛していると、耳元で囁いた。

私は久しぶりにヨウの『愛している』と言う言葉を受け、立っていられなくなる程の痺れが背中を駆けた。


ヨウは芯の定まらない私の身体を、優しく、そして強く抱きしめながら、

「弥生。ごめんね。寂しい思いさせたね。まだ俺の事愛してる?」

と、聞いた癖に、

「当たり前でしょう・・・。」

と、答えたい私の唇を塞ぎ、答えさせてくれなかった。


お互いがお互いを欲しがり過ぎているのが分かっていた。

それでも、ここは仕事場で、たとえ誰もいないとしても、

これ以上求め合う事は出来なかった。


求めてはいけない事が分かっていても、離れる事も出来ず、

唇だけでしか繋がれない事が、歯痒く苛立たしかった。


私達は言葉を交わさず、唇だけの温もりを交し合い続けていた。


何度KISSをしても、飽きる事が無いのが不思議だった。

飽きるどころか、もっと深く求め合いたいと思う私達がいた。


やっと唇を離し、鼻先を擦り合わせあいながら

「抱きたいのに抱けないのって辛いね。弥生も?」

と、ヨウが言った。


「うん。私も、ヨウが欲しい。けど、今日は我慢しよう。

HOTELに行く時間は無いから・・・。」


私の言葉に、ヨウは少しがっかりした様な顔をしかけたが、直ぐに

「買い物に連れてってくれるんやもんね。俺、数の子食べたいな。」

と、やんちゃな顔になっていた。


私達は遠くのスーパーに行かなければならず、

近くに沢山のスーパーがあるにも係わらず、

車を20分以上走らせて、堺市内の大型スーパーに向った。


沢山の買い物をし、お昼ご飯を食べ、珈琲を飲みながら、明日はお正月だね。。。と話す私達は、周りから見れば、きっと夫婦に見えるだろうなと、思った。


愛し合い、求め合う私達は、もう少ししたら、

別々の箱に戻らなければならないのに・・・・。


「弥生はお正月何処かに行くの?」

ヨウがいきなり聞いた。


「ううん。私はいつもお正月は友達との飲み会ばかりで、

出掛けると言っても友達んちか、私んちで過ごすんだ。」

「旦那さんも一緒?」

ヨウは本当はその事を聞きたかったのだろう。

私は、ヨウには嘘を付かないと決めていたので、正直に答えた。


「うん、全部が一緒って訳じゃないけど、家で飲む時は一緒やね。

ヨウは?奥さんとは?」

「うん。会いたないけど、向こうの実家には1度は顔出すって話しになってるねん。」

「それは、この前の24日の話し合いの時に言われたん?」


私の問い掛けに、ヨウは頭を下げた。


「うん。あの日はごめんね。急に呼び出されたんは、本当なんやで。」

「そうなんや。私、本当言って、ちょっと疑ってた。」


私達は逢って数時間経って、やっとイブのドタキャンの核心に触れる事が出来ていた。