24日はごめん。と、ヨウからのメールが届いたのは、

ドタキャンをされた24日から2日後の事だった。


48時間以上メールが途絶えたのは、

付き合ってから初めての事だった。

私は、ヨウからメールが来るまで、自分からは送らないと決めていた。


ようやくメールのやり取りが再開したものの、ぎこちなく上部を探り合う

ようなメールだけの日々が続いた。


それからは、どちらが先に電話を架けるか、意地の張り合う時間が、ただ無駄に過ぎて行った。


痺れを切らしたのは、ヨウだった。


12月29日。お昼過ぎに、ヨウからの着音が鳴った。

私はその時、お正月の買出しの為に、大型スーパーの食材コーナーにいた。


旦那さんが一緒だったが、私は携帯が鳴ると同時に、手に持っていた練り物を旦那さんに渡し、その場を急ぎ足で離れた。


「もしもし・・・」

久し振りに聞く大好きなヨウの声が、耳の中で踊った。


「アホ。何で今までほってたん!!」

私は、もしもしさえ言わずに、淋しさを露わにした言葉を放った。


「ごめん。でも、弥生も架けて来てくれへんかったやん。

俺、もう嫌われたと思って、怖くてなかなか電話出来へんかった。

でも、もう限界・・・。」


「嫌いになって欲しいの?それならそうするけど・・・。」

私は言いたい言葉とは真逆の、可愛げのない言葉しか出て来なかった。


「出たぁ~弥生の意地っ張り。思っても無い癖に!」

ヨウの明るい声に、私の心も雪解けし始めていた。


「ヨウって、小心者なのか、自信家なのか、分からないね。」


私たちは、もう24日の出来事を乗り越えてしまったかの様に、話を弾ませたが、少し離れた所で旦那さんが待っている事を告げると、少し不機嫌に、

それでも普通を装ってヨウが言った。


「ごめん。買い物中やったんやね。お正月の用意?

弥生は奥さんやもんね・・・・。」


声のトーンが微妙に落ちた。


「ごめんね。もう行かないと。そうそう、何か用事だったの?」

「用事が無かったら、電話架けたらあかんの?」


電話の向こうで拗ねるヨウが、愛おしく、このまま話をしていたかったが、

それは出来なかった。


「違うよ。そんな意味じゃなくて、ずっと無視夫くんしてたのに、

急に電話くれたから、何か用かなって思ってさ!」

私は、ジョークを交えて問い掛けた。


「はい!イヤミちゃんに用事があって架けました。」

今度は、電話の向こうで微笑んでいるヨウが目に浮かんだ。


「あのね。この前年内に逢う時間作るって、言ったやん?

弥生が都合付くなら、31日は駄目かな?」


続けて話すヨウの言葉は、とても嬉しいものだったが、

さすがに大晦日に出掛けるのには躊躇し、


「う~ん。大晦日はお節作るから、今、即答出来ないよ。後でメールして良い?

出来るだけ、ううん、きっと出掛けられる様にするから、待っててね。」


電話を切って、スーパーの売り場に向うと、旦那さんがレジ近くの喫煙所で

タバコを吸っていた。


「仲直り出来たんか?」

「うん。長い時間ごめんね。今しか電話出来なかったみたいで・・・・。」

「で?年内に逢いに来はるんか?」


急に核心を突かれて、私は一瞬むせて、ゴホゴホと咳き込んだ。

旦那さんは、自分のタバコのせいだと思ったのか、

「ごめん。煙、そっち行ったか?」と、言葉を変えた。


私はそう言うことにしておこうと、

「うん。ちょっと、煙くて・・・。」と、答えた。


空咳をしながら、何て言い出そうかと、考える時間を稼いだ。


旦那さんは、大丈夫?と言いながら、私の背中を擦ってくれていた。

私はそんな時でさえ、この手がヨウの手ならどんなに嬉しいだろう・・・

と考えていた。


家族と生活を共にしていても、私の身体は魂の抜けた、

抜け殻でしか無かった。


美味しい物を食べても、ヨウと一緒ならどんなに美味しいだろう・・・と思い、

話題の映画を観ていても、ヨウと一緒なら、もっと楽しい筈なのに・・・と思ってしまう自分がいた。


そんな私が、そ知らぬ振りして、楽しいお正月を迎えて良いのだろうか。

家族の一員として、祝う事が許されるのだろうか・・・・。


不意に旦那さんの手が止まり、私の顔を覗き込んだ。


「どうしたん?また、何か嫌な出来事やったん?」

余りに長い間私が黙り込んでいたからか、旦那さんは心配そうに聞いてきた。


「ごめん、ごめん。ううん。そうじゃないんやけど・・・。」

「けど、なんや?」


私は思い切って話そうと思った。

駄目と言われたら、今回は諦めようとも思っていた。


「あのね。31日、出て来られへんかな?って、聞かれたんよ。

30日まで仕事なんやって。だから、年内は大晦日しか空いてないらしいの。

でも、お節作らなあかんから。返事はして無いねん。」


そら、あかんわ。大晦日やのに・・・と、言われると思っていた。