目が覚めたのは、ヨウからのやっと届いたメールの着音でだった。


携帯を開く前に、テレビの上の時計に目をやると、

6時を大きく回っていた。

いつもなら、5時台に届くメール。

そして、12時間以上間の開いたメール。


私は直ぐにでも確認したい気持と、見るのが恐い思いとが交差して、

直ぐにメールを読む事が出来なかった。


携帯をそのままソファのクッションの下に置き、私は洗面所に向かった。

歯を磨きながら、心は携帯に置いてきたままだった。

苛立つ思いに背中を押され、歯ブラシを加えたまま、

私はリビングに戻って携帯を持ち出した。


ぼんやりとした焦点で、メールを見た。


いつもの表題ではなく、

ごめん。で始まるメールに、私の目は釘付けになった。


ごめん。


弥生、ごめんなさい。

今日の約束、守れそうに有りません。


折角弥生がお休み取ってくれたのに、

申し訳ないけど、まだ岐阜にいます。


本当にごめんなさい。     洋介


ひとつの絵文字もない、冷ややかな連絡メールだった。


私の頭は真っ白になり、考えが纏まらず、携帯を持つ手が震えた。

何て書けば良いの?洗面所の鏡を覗く自分の顔に問いかけてみる。


返事は誰もくれない。


兎に角、どうして?と、聞くしかなかった。

何時なら大丈夫なの?と、私は短くメールを送って、携帯を閉じ、

お風呂に入った。


体を洗いたかった訳ではない。

ただ、大きな声で泣きたかった。


なんて返事が来るのか、予想は出来なかった。

でも、何故丸半日メールを送って来なかったのか・・・、

その答えだけは分かった気がした。


ヨウは、今日の約束を反故にするつもりなのだ。

昨日なら、何とか都合付かないの?と、私は言ったはずだ。

でも、今日の今日なのだ。


無理と言われれば、分かったと答えるしかない。


でも、どうして?イブを楽しみにしていたのは、私だけだったの?

私は、頭からシャワーを浴び、声を上げて泣いた。


義母は孫にクリスマスプレゼントを買ってあげる為、金曜日の夜から

義妹の所に泊まりに行っている。


旦那さんは、夕方から静岡のメル友の所に出掛ける。


そして私は、ルミナリエへと出かけて行く。


同じ屋根の下に住む家族と言う私たちは、それぞれの楽しみを求めて、家を留守にする筈だったのに。


私だけが、抜け殻になった家と言う器の中に、

取り残されてしまうのだろうか・・・。


髪を洗い、顔を洗い、湯船で体を温めたが、心までは温められなかった。


携帯にメールが届いていた。


弥生へ。

また、ハートの無い表題だった。


ごめん。今日はイブなのに、仕事終れないんだ。

昨日、アクシデントがあって・・・・。


言い訳だけ連ねたメールだった。

携帯の画面にボタボタと涙が落ち、

液晶の画面がぼやけて見えなくなった。


髪に巻いたバスタオルを外し、画面を拭いた。

それでも冷たい文章は、拭いても拭いても消えてはくれなかった。


嘘だよね。自然と言葉が転げ落ちた。


ヨウのメールは嘘だと、直ぐに分かった。

アクシデントなら、昨日のうちに連絡があるに違いなかった。


ヨウの事なら、言葉の切れ端ででも気持ちが読み取れると思っていた。

でも、分かるのは、嘘を付いていると言う事だけで、

何のための嘘なのかまでは、分からなかった。


私は、泣きながら電話を架けたが、ヨウは出なかった。


そして、メールを送った。


ヨウへ・・・。私もいつもとは違う表題で始めた。


嘘はやめて。

何があったのかは分からないけど、仕事じゃない事は分かる。

今まで、何千通もメール交わしているんだよ?


ヨウのいつものメールじゃない事位、直ぐに分かるよ。


逢いに来たくないのなら、正直に言えば良い。

でもね、今日ルミナリエに行くつもりで、準備してたんだよ。

六甲のホテルも予約してたのに。


出逢った頃に約束してたの、忘れてるんだね。


プレゼントも捨てる。

嘘つきは、ダイキライだ!!


打ちながら泣いても泣いても、涙は止まらなかった。

今日はクリスマスイブなのに。

恋人たちの1年で1番大切なイベントの日なのに・・・・。


声を上げて洗面所で無く私の声に気付き、

旦那さんが起き出して来ていた。


顔を上げた鏡の中の私の泣き顔の後ろに、旦那さんの顔があった。