初めてヨウにおめでとうって言って貰える誕生日は、水曜日だった。
お互い仕事で、それでもその頃のヨウは、まだ自分の会社を立ち上げたばかりで、開店休業状態だった。
外から入ってくる日雇いの仕事に呼ばれて、出掛ける日々だったが、
腕の良い職人らしく、仕事には困らなかった。
ただ体を持って行って仕事をこなすだけだったので、その日の仕事が早く終わればその後は自由に出来た。
11月15日は、奈良での仕事だった。
終わりは早いけど、道が混んだら遅くなるかも・・・・と、言われ、
その日は、19時半にフレンチの予約を、自分で入れた。
自宅で早々に出掛ける用意を済ませ、
待っていると18時過ぎにメールが届いた。
弥生へ
今から、向かうね。
プレゼント買えていないから、途中で買って行くから、
少し遅くなるよ。
予約の時間には間に合うように行くからね。 洋
私は直ぐに返信をした。
大好きな大好きな洋へ
有難う
私の為に何か買ってくれる気持ちは嬉しいけど、
何も要らないよ。
それより1秒でも早く逢いに来て欲しい
待ってるから・・・・。 弥生より。
そして、私の願いの通り、ヨウは急いで来てくれ、
19時前には家を出て、ヨウの車に乗った。
旦那さんはその日はまだ帰宅していなかったが、
気を付けて楽しんで来て。と、メールが届いていた。
義母は、何も誕生日にまで友達と出掛けなくても・・・・
と、言いたげな顔付きだったが、
私は、帰りは遅くなるからと告げ、思い切りのお洒落をして出掛けた。
どんなに嫌味を言われ様と、私にはもう聞く耳は無かった。
ただ、本当に1秒でも早く、1分でも長くヨウといたかった。
デ○カに乗り込み、少し走らせた所でヨウは車を停め、
お決まりのKISSを交わした。
11月に入って2度目のデートだった。
「誕生日おめでとう。弥生に初めておめでとうって言える記念日やね。
これからもずっと、おめでとうって言い合える仲でいようね。」
深く長いKISSの後のヨウの声は、艶やかだった。
「そんな甘い声で言われたら、くすぐったいよ。
もっと年取っても、ずっと好きでいてね。」
と、答える私をギュッと抱きしめ、
「弥生こそ、俺の事ずっと好きでいてね。
頼りないし、あほな俺やけど、ずっと見捨てんといてね。」
と、ヨウがいつに無く心細げに囁いた。
何だか、いつものヨウと違う気がして、私は不安になった。
「ヨウ?何かあったの?元気なくない?」
「ううん。何もないよ。ただ、幸せすぎて・・・・。
俺、こんなに人の事好きになった事が無いし、
こんなに愛されてるって実感した事ないねん。
だから、幸せやけど、不安やねん。」
と、言いながら、ヨウは笑った。
「何?何で笑うん?」
「何か、ドラマの科白みたいで、言うてて恥ずかしくなったわ」
狭い車内で、いつもの様に抱き合いながら、
私達は泣き笑いの様な声を上げた。
「弥生。このままHOTELに行きたいね。」
ヨウは、本気なのか冗談なのか分からない科白を続けた。
「私も同じやけど、おなかも空いてるしなぁ~」
「俺は、弥生の方が食べたいけど、その為にも精力付けなあかんから、フレンチに行こか。」
左手で私の胸先を悪戯しながら、ヨウは笑った。
その笑顔の横顔を見詰めながら、本当に私はこの人が好きだ・・・
と思った。
デ○カのギアを握るヨウの手に自分の手を重ね、言った。
「私は、本当にヨウの事、好きで好きで仕方ない位大好き。
こんな風に思えたのって、私も初めてやと思う。
だから、多くは望まない。ただ、ずっとちゃんと私を見てて欲しい。
もし、嫌いになったら、ちゃんと言って欲しいの。
黙って居なくなったりしないで欲しい。」
ヨウはまっすぐ前を見たまま、下になった手を外し、
私の手の上に重ねた。
その手の温もりが、何もかもを理解していると応えていた。