私は、差し出されたグラスに口を付けたものの、

考えを巡らすことに気を取られ、あまりお酒が進まずにいた。


ママが、私の前にお通しを並べながら、小声で話し掛けてきた。


「弥生ちゃん。難しい顔してるけど、何かあったの?」

さすがに、ママにはいつも心の中を見透かされてしまう。


「うん。実はね・・・・。」

小声で、私はヨウとのこれからの事を相談した。


何より、今から旦那さんに、ヨウと付き合ってる事を

打ち明けるつもりだと、1番に話した。


ママは、話を聞きながら何度も顎を縦に引き、頷いていた。

そして、静かに言った。


「弥生ちゃんが、黙っててしんどい気持は分からなくも無いよ。

けど、話した所でどうなると思う?

オーちゃんの今までの事考えると、

オーちゃんは何も言えないのが本当やろうけど、

そうか。良かったな。。。って、話にはならない事やんか?」


ママの言いたい事は、よく分かった。

仕方なしに私は、父のメールの話をした。


オーちゃんの席をの方に目をやると、

お店の女の子と何か真剣に話し込んでいる。


横顔ですら、赤いのが分かる。

既にかなり酔っているのだろう。


今、何を話しても無駄だろうと思った。

言わない事の安堵なのか、言えない事の苛立ちなのか、

どちらとも分からない気持が胸に広がる。


私はゆっくり、薄くなったグラスを空けた。


ただ、明日出掛ける事だけは、今日の内に伝えなければいけなかった。

何度も旦那さんの方を見ても、彼はこちらを見ようとしない。


何か企てている時の表情が、離れていても読み取れた。

長く一緒にいると、分かりたくない事まで見えてしまうんだな。

と思うと、旦那さんも、

私の今の気持を読み取っているのだろうか・・・・と、不安になった。


何度も何度も見ていたからか、それともそろそろこっちに来ないと

バツが悪いと思ったのか、

ようやく、旦那さんはグラスを持って私の横に移動して来た。


私が、明日の事を何て切り出そうかと思っていると、

先に旦那さんが口火を切った。


「やーちゃん。ごべんな。ほったらかしにしてた訳やないんやけどなぁ~」


呂律の回らない話し言葉で、

「悪いんやけど明日な、あの子と浜ちゃんと、お昼にボーリングして、

カラオケ行こうって話になってん。」

グラスを持った方の人差し指で、カウンターの女の子を指した。


また、始まったか・・・・。

と思いながら、私はコクリと頷き、

「で?幾ら持って行けば良いの?」と、聞いた。


旦那さんは、今度は空いている方の左手の指を3本立てた。


私は財布から3万円を抜き、旦那さんの手に握らせた。

(そんな風に甘やかすから、オーちゃんが度を越すんやと、

義母の声が聞こえた気がした。)


「ゆっくりしてきたら良いよ。

私も明日、ヨウが九州の出張から帰って来るらしくて、

お土産届けたいって言われてるから。」


旦那さんは、視点の定まらない目で、私を覗き込み言った。


「ほんだら、やーちゃんこそ、ゆっくりして来たら良いねん。

俺ら、夜には同伴でまたここに飲みに来るから、遅なるし~。」


「せやせや。良かったら一緒に夜ここに飲みに来たら?」

と、一旦グラスのお酒に口を付け、続けて言った。


本心なのだろうか?

一緒に来た所を観察するつもりなのだろうか?


一瞬の内に思いが頭を走ったが、

結局は、何も考えていない言葉なのだと気付いた。


「ヨウは、車やから、飲まれへんから。

多分来ないと思うけど、私だけでも顔出せたら寄る様にするわ。」


「分かった。ほんなら、悪いけど、向こうの席に戻っても良いかな?」

「どうぞ・・・。私明日の用意もあるし、もう少ししたら先に帰るよ。」


私の言葉を、旦那さんは既に背中で聞いていた。


私は、中途半端な気持を抱いたままヨウにメールを送った。