父からのメール後、何度顔を合わせても、

父は一言もメールの一件に触れなかった。


そう言う人だと分かっていても、私は父を見る度、

沸々とした感情が湧き出るのを押さえるのに苦労した。


ヨウとは、その次の週も2度のペースで逢ったが、

出来るだけ12時には家に着くように心掛けた。


そして10月27日金曜日の夕方、ヨウは九州に出張になった。

昔からの仕事仲間で、幼馴染のアキラくんと一緒に

フェリーで行く事になり、私は南港まで、見送りに行った。


翌日の土曜日、私は小学校の同窓会で

遅くまで大阪市内で飲んでいた。


ヨウからの電話が入ったのは、10時頃だったと思う。


「明日九州から帰るから、お土産持って行きたいんだけど、

逢えるかな?」

「勿論!!何時頃になるの?」

「お昼1番には、迎えに行けると思うよ。」


初めての日曜日のデートだった。


私は、同窓会の帰り、旦那さんが飲んでいたスナックに合流した。

明日、出掛ける事を話さなければ、と言う思いと、

ヨウとの事を打ち明け様と思っていた。


父がメールを見た事で、もしかして父から何か言われる前に、

私の口から話そうと思った。


父はそれまでにも義母に、私の知らない所で話を作って語っていた。


小さい時、私が父の側を離れなかったとか。

近所を抱っこして歩いていると、

お人形さんみたいな女の子やね、と、言われたとか。

動物園が好きで、よく連れて行ったとか。


何一つ、して貰った事のない話ばかりだった。


旦那さんは兄からも父の不業を聞いていたので、

そんな話を信用するはずは無かったが、

義母は私の話より、父の話を信用する人だった。


何度、父の作り話やよ・・・と説明しても。


そんな父と義母の間では、既に私とヨウの事を、

話題にしているのかも知れないと思った。

その上で、2人とも何も言い出さないのかも知れない。


もうその頃には、それならそれで良いと、思っていた。


十分私は、自分を、家庭を裏切っているのだから、

出て行けと言われたら、出て行こうと思った。


(出て行けと、言われる方が本当は嬉しかったのかも知れない。)


大阪市内からタクシーを走らせ、家の近くのスナックに着いた時には、

1時をゆうに回っていた。


旦那さんは、見知らぬ女の子とデュエットしていた。

店のママに、こっちこっちと手招きをされ、

私はカウンターの一番奥に座った。


いつも私が来る時には空けていてくれる、指定席の様な場所だった。


ママは、静かな微笑を浮かべながら、目でオーちゃんを指し、

私の耳元で言った。


「彼女、うちの新しい子なんよ。

何か、オーちゃんと意気投合してるみたい。」


あれだけ熱を上げていた20代の彼女とは、

10月の頭位に距離を置いたようだった。

(結局は彼女は、スナックの営業で近付いていただけだった。)


この子が新しい彼女になるかも・・・と、

私はぼんやりと2人の歌を聞いていた。


旦那さんは、私がお店に入ってきた事を気付いていながら、

女の子の腰に手を回したまま、デュエットを続ける。

(そう言う人なのだから、もう気にもならなかった。)


歌い終わった旦那さんは、私の横には座らず、

入り口近くの元いた席に腰を下ろした。

多分、暫くはさっきの女の子との話が残っているのだろう。


私は、1人の間に、どう話を切り出そうか考える事にした。