大阪に着いて、私たちは初めて2人で映画を観に行く事にした。


ヨウは、中学生の頃を最後に、映画なんか観に行く余裕が無かった。

弥生と一緒なら、色んな普通の事が経験出来て嬉しい。と、言った。

トムクルーズのM:I-2を観た。


ドライブをして、お弁当を食べて、映画を観る。

9月15日は、本当に普通の恋人同士がするデートを楽しんだ。

映画の後、難波の中華料理店で遅い食事を摂った。


ヨウは、デパートにすら数年行った事が無いとも言った。

心斎橋を歩いていても、お店の上のクーラーの機材を

ここに運んだ事があるとか、帰り道の高速代すらなく、

下道をひたすら走って帰ったとか、

お腹が空いてもお金が無く、コンビニでカップ麺を1つ買って

3人で分けたとか。


聞いていると涙が出る話ばかりだった。


高校を中退してからずっと働いて、バブルの頃は少し遊べたけど、

その頃に父親が数億の借金を作った事も詳しく聞かされた。

私も同じ様な経験をしてはいたが、ヨウ程、酷くはなかったかな?

とさえ思える、辛い話ばかりだった。


何より、両親の愛情を全く知らないヨウは、

何処か人を心から信用しない所があった。


「でも、弥生は違うよ。初めて会った時にでも、俺の事凄く心配してくれて。説教もされたけど、俺の為に泣いてくれた。

そんな人、今までいなかった。だから、いけない事と分かってても、

弥生の事好きになる気持止めれんかった。」


「うん。私、ヨウに出逢ってなかったら、

きっと今でも普通に奥さんしてたと思うよ。

友達と遊んだりはあっても、

こんな風な気持を持つ事は無かったやろうね。

でも、泣く事多くてもヨウに出逢えた事、後悔はしてないから。」


「これからもきっと、俺との事で苦しめる事あると思う。

泣かせる事も一杯あると思う。

けどな、俺は弥生に逢えた事は、

今までで一番の幸せな事やと思ってるから。

弥生にだけは嫌われたくないから、

これからも俺の事見放さんといてね。

悪いとことかあったら、ちゃんと教えてな。」


「分かってる。ヨウの事本当に大切やから、隠し事はしないでいようね。

駄目な事は駄目って、お互いちゃんと伝え合おう。

どんなに綺麗事言っても、今の2人の仲は

世間一般で言う、不倫には違いないから、

せめて2人の間だけは、真っ直ぐでいようね。」


私たちは逢う度いつもこんな会話をして、自分たちを励ましあった。

そして2時間程の食事の後、高速を南に走らせた。


ヨウの車は、私の会社の駐車場に停めてある。

自分の車に乗り換えヨウは神戸に帰る。


いつもは家まで送って貰えるのに、

駐車場でのさよならが寂しく、私はまたべそをかいた。


今日は普通のデートをしようと決めていたので、

HOTELには行かない約束をしていた。


今日の日が来るまでは、そう決めた事が嬉しかった。

体を繋げなくても心はちゃんと繋がってるからと、

KISSして、ハグしてまたね^^

と言い、お互いの家に帰る。

そう決めたのに、今になって体がヨウを欲しがるのを止められない。


小刻みに震える私の体を後ろから抱きかかえ、ヨウが耳元で囁く。

「・・・・・。」

「何て言ったの?」

言葉を聞き取れ無い程、私は高揚していた。