「こんな事まで言いたくなかったけど、友里ちゃんの結婚式の前にも、

ひとつ凄く気分の悪い事言われたんよ。言っても良い?」


旦那さんはコクリと頷き、2人分の空になったグラスに

新しいお酒を注ぎ足していた。


「妹が結婚する頃、オーちゃん警察のお世話になったん覚えてるよね?

(今度は、申し訳なさそうに下を見たまま頭を動かしていた。)

あの時警察の待合で、お義母さん私に、

『オーちゃんの事、最後まで見捨てんといたってな。

弥生ちゃんでないと、あの子には無理やと思う。』って、言ったんよ。

それは良いねんけど、その後に、

『もしこんな事が友里の相手の家に分かったら、

友里の肩身が狭くなって可哀想や。

ほんまに、何でこんな事になったんか、

昔のオーちゃんはもっとちゃんとした子やったのに。』

って、言ったんやで。

それって、私と一緒になったから、悪くなったって意味やろ?

凄いそん時腹立ってんけど、場所が場所やったし、

言い返さなかった。でもそんな言い方ってある?」


旦那さんは、大きな体を抱え込む様に聞いていた。

私は、今こんな事を言っても仕方のない事だと分かっていたが、

怒りの矛先がそこにしか向けられなかった。


「結局その時も、友里ちゃんありき・・・の話やろ?

あの子がだけがいつも、良い意味の蚊帳の外なんは、何でなん?

高校生の頃やったら分かるけど、もうすぐ30歳になりやるやん。

結局は、一番可愛いって事なんやよね!」


そこまで言って、やっと私の言葉が止まった。


旦那さんは、もう一度私に対して謝った。

「ごめんな。嫌な思いばっかりさせてホントにごめん。

おかんが、友里の事どう思って何も言わんといてって言ったのか、

分からんけど、やーちゃんの言う通りかも知れへんな。

結局、俺よりはあいつの方が可愛いんやと思うわ。」


旦那さんの言葉を聞いて、やっと私は、これ以上義母の事で揉めたくは無いと思った。

言葉を並べれば並べるだけ、義母を嫌いになって行くのが分かる。

今まで、良い面も沢山見て来た筈だ。

一緒に住んでいる訳ではない、時間が経てば、また自然と接する事が出来る様になるだろう。

私は無理にでも、そう思い込もうとした。


「オーちゃん。もう、止めよう。

お義母さんの事で、私たちが言い合うのも嫌やし。

お母さんにもしもの事があったら、友里ちゃんに任せたら良いやん。

(その頃は全くそんな素振りはなく、元気一杯の義母でしたが・・・。)

私たちは、親の反対を押し切って一緒になったんやもん。

今までだって、金銭的な援助はして貰った事ないんやし、これからも2人で、力合わせて行こう。」


そう言い終ると、何処かすっきりとした自分がいた。


義母は、義母。

私たち夫婦は、これからも2人を前提に生きていけば良い。


それが、その頃の私たちの選んだ答えだった。

それから数年後には、別々の思いで生きていく事になるなんて、

思いもしていなかった。