旦那さんは一気に水割りを飲み干し、ため息をついた。

それからゆっくり話し始めた。


「おかんな。中村さんの事、ほんまに独身やと思ってたらしいねん。

入院中付き添ってる所に奥さんが来て、初めて知ったんやって。

実際奥さん、何年も家出状態やったらしいよ。

けど、籍は抜いてなかったから、

中村さんが嘘言うてた事になるんやて。」


「そうなんや。それは信じるとして、子供が友里ちゃん(妹の名)だけって言うてたのは、ほんまの事やったん?」


「うん。それは、おかんが奥さんに嘘ついたらしい。

友里とこは家遠いから行く事ないやろうけど、うちは近いから、

もし、奥さんが乗り込んだりしたら困ると思ったらしい。

その事は、おかん謝ってた。

けど、おとんと離婚前から付き合ってたんか?

って聞いたら、それは絶対にない。

離婚と中村さんとの事は、全然関係ないって、言うてた。

信じたってくれるか?」


「私は、信じる信じないって言える立場じゃないから、

別にかまわへんよ。

でも、いなかった事にされてたのは、納得出来へん・・・・。

だって、入院中仕事かて手伝った訳やん?

それも無かったことにされるって事やろ?

別にお金が欲しいって言ってるんやないから、誤解せんといてね。

けど、しんどい思いしたのまで、無視されてしまうのは納得いかない。

私って、心狭いんかな?」


私の言葉に暫く、旦那さんは考え込んでいた。


「それに、離婚前に関係は無かったとしても、お義父さんとの離婚を

あそこまで頑なに決められたのって、

やっぱり、中村さんの存在があったからやと思うよ。

でないと、あんな風に『何も要りませんから、籍を抜いてください!!』

って、キツく突っぱねられへんかったん違うかな?」


私の言葉を聞き、ようやく旦那さんも自分の本心を言おうとしていた。


「俺な。ほんまの事言うと、

おとんと別れて、一人で友里を育てるって聞いた時に、

内職程度でそんなん出来るんか?って思ったよ。

おかんの事信じたかったけど、誰かおるん違うか?って。

けど、ずっとおとんとの事も見てきたから、

それやったらそれでもしゃあない・・・って思ったんや。

けどな。やっぱりこうやって色んな事知ってみると、

ショックなんが先に立ってる。

俺の時に、色々説教してたのも、何やったんや?って思ってしまう。

親として、当たり前の説教やった事は、分かってるんやけど、

気持が付いていかへん。」


旦那さんの本当の気持だったのだろう。

痛い程、気持が揺れているのが分かった。

これ以上、義母を責めても答えがある訳ではない。


結局は、全て終わった事なのだ。

受け入れるしかないのだと思い、旦那さんに言った。


「離婚前の事は、今更どう言っても終わった事やし、

結局はお義母さんの人生なんやから、

もうこれ以上責めるのは止めよう。

違うって言うんやったら、信じてあげるしかないよ。

ただ、正直に言うて、今までと同じ目では

お義母さんを見られなくなるとは思う。

大人やから、あからさまに態度を変えたりはしないけど、

その事は分かってくれる?」


「うん。やーちゃんの言いたい事はよう分かる。

ほんまにごめんな。

それとひとつ、おかんに頼まれたんやけど・・・。」

旦那さんは、言いにくそうに口篭った。


「何?何を頼まれたん?」

私は、全く見当が付かなかった。


「あのな。今回の事、友里には一切話さんといて欲しいんやって。

友里は中村さんの事好きやから、

悪い思い出にさせたないんやって。」


私は、旦那さんの言い難くそうに放った言葉に、

それまで何とか納得しようと思っていた気持が、

一気に爆発してしまった。


「何でよ!別に友里ちゃんに話すつもりなんか無いけど、

何で、いつもあの子ばっかりが守られるん?

言いたくないけど、血の繋がってもいない私が

あんなに罵倒されて、嫌な思いしたんやで。

それなのに、何よりも先に友里ちゃんの気持・・・なんやね。

お義母さんにとっては、私の気持はどうでも良いって事なんやね?」


「こんな事までは言いたくなかったけど・・・」


済んだ事。今更言葉にしなくても良い筈の事なのに、止めどなく言葉が走り出しそうになる。

怒りではない。悔しさと、情けなさの入り混じった言葉が・・・。