私は、ただ本当に何も知らなかった事を先に告げた。
私たちは中村氏を独身だと聞いていたし、
妹の結婚にお金を出した事など、寝耳に水だった。
そして、私は長男の嫁である事を改めて言い、
中村氏の入院中には、無償で外回りの手伝いをした事も話した。
中村氏の奥さんは落ち着きを取り戻していたが、それでもまた、
兎に角あなたのお姑さんは真面目ぶった顔をしているが、
裏ではオトコを手玉に取るような人だと、口汚く義母を罵った。
その頃の私は、不倫などする人の気持が分からなかったし、旦那さんに何度も裏切られ、傷ついていた頃だったので、義母に嫌悪感を覚えた。
私は、これ以上長居をしても気分が悪くなるだけだと思い、席を立った。
「色々、ご迷惑をお掛けし、申し訳有りませんでした。」と、頭を下げ
外に出ると、雨が降っていた。
背中から、
「今からお姑さんのとこに行って、今の事話すの?」との声がした。
私は、行くつもりなど無かった。
義母の顔など見たくないと思っていたが、この場では、行ってちゃんと話します。と言った方が、奥さんの気持が治まるだろう事が分かったので、「はい」とだけ答え、エンジンを掛けその場を離れた。
何よりも早く、この場から逃れたい思いで一杯だった。
狭い道を飛ばし、家に戻った。
旦那さんはまだ帰ってはいなかった。
ひとりリビングのソファに座り、遣り切れない思いを
どう吐き出せば良いのか考えていた。
夕食の用意に掛かろうかと思い、キッチンに立ったが進まない。
シャワーを浴びようかとバスルームに行ってはみたものの、
鏡に映る自分の顔を見るのが怖くて、電気すら点けられずにいる。
何で?何で、私がこんなに苦しまなくちゃいけないの?
情けなさと腹立たしさの混じった感情がフツフツと沸いて来る。
もう何も手に付かず、私は旦那さんが戻って来るのを
ベッドに横たわりながら待った。
旦那さんが、何時に戻って来たのかは覚えていない。
ただ、真っ暗な部屋のベッドで横たわっている私を見て、
驚いた顔をしていた事は覚えている。
私はゆっくり起き上がり、事の次第を説明した。
旦那さんの顔色が瞬く間に変わって行く。
それでも、全てを話し終えるまで、黙って聞いていた。
話が終ると、旦那さんは立ち上がり言った。
「今からおかんのとこ行って聞いてくる。
中村さんの事もやけど、もしかしたら離婚前からそんな仲になってたんやとしたら、俺も黙ってられへん。
ちゃんと聞いてくるし、やーちゃんが奥さんに言われた事も話して来るわ。」
明らかに旦那さんは興奮していた。
私は止めようとは思わなかった。
それ以上に、ちゃんと聞いてきて欲しいと思った。
中村氏の奥さんの一方的な話だけでは、納得は出来なかったし、
何より、離婚前からそんな仲になっていたのだとしたら、
今まで私に言って来た事は何だったのかと、投げ付けて来て欲しかった。
私は今、義母の顔を見る気はしなかったし、親子で決着を付けた方が良いと思い、旦那さんをお義母さんの元へと送り出した。
義母の元から旦那さんが帰って来たのは、何時だったのだろう・・・。
私は、相変わらずの遣り切れなさだけをつまみにお酒を飲んでいた。
「俺にも1杯作ってくれる?」旦那さんは言い、私の前に座った。
疲れているのか、全てを聞き放心しているのか分からない、
ただ青白い顔だけが見て取れた。
「やーちゃん。ごめんな。」そう言い、旦那さんは泣いた。