お弁当と缶ビール4本を手にして彼が戻ってきた。


「弥生さんって飲めますか?」と、問われ、

「うん。人並みには(本当はうわばみだけど^^;)ね(-^□^-)」と答えた。


お弁当は、唐揚げや、焼き魚が入った幕の内だった。


「昔って、こう言う席は精進料理だったのに、最近って結構何でも有りだよね。」

「いやぁ~僕、あまりこんな席に出たことが無くて。良く知らないんです。

弥生さん、唐揚げ駄目なの?」

「ううん。好きだよ。」


ヨウの目を見て発した「好き」の言葉が微妙に浮いて、何故かお互いクスっと笑った。


「ヨウ君はまだ若いから、こう言う席に出た事が少ないんだね。でも、昔って本当に野菜とかお豆腐とかが殆どだったんだよ。因みに!私もまだ子供の頃の話ですが(笑)」


わざとふざけて続けた。


お弁当の8割を食べ、3本目のビールが私のお腹に消えた時、彼も扉の向こうに消えた。


数分後、今度は6本の缶ビールと、お菓子の袋を下げて彼が戻って来た。


「人並み程度じゃなくない?」

笑いながらプルトップを開けて、私の頬に缶を当てた。


由美の前で、供養だから^^と言いながら、結局私が7本、ヨウが3本の缶ビールを飲み干した。


ヨウはその3本でも酔ったらしく、少し眠そうな目をしたので、ちょっと眠ったら?と、私は言った。

その言葉に導かれた様に、彼は隅に置かれた2畳ほどの畳の上にゴロンと横になった。


お布団は無かったので、座布団を4枚縦に並べて1枚をクルンと丸めて枕にしていた。

どこでもこうやって眠れるのが僕の特技^^と、言い終わらない内に彼は目を閉じていた。


私は、本当はまだ飲み足りなかったが、今日はやめておこうと思い、公民館の階段の横に設置された自販機でお茶を買って飲んだ。


眠気は襲っては来なかったので、私はいつもバッグに入れている文庫本を取り出し、ゆっくりと読み始めた。


村山由佳さんの天使の卵。

単行本で既に読み終えた物だったが、文庫をいつもバッグに入れ、時間を持て余す時に読むのが好きだった。


8才年の離れた妹の彼を好きになり、最後には彼の子供を宿し亡くなる。

(切ない恋愛だけど、とてもピュアな文章が本当に好きで、今でも1年に2回は読み返す本です。)


8才も年の違う男の子を、『お・と・こ』 として感じられるのかな?

その頃の私はそう感じながらも、何度も読み返していたのは、若しかしたらヨウと出逢って恋をする為の教科書だったのかも知れない・・・・と、今は思う。


10分もするとヨウの小さな寝息が聞こえてきた。

気配りの人らしく、寝息までもがとても遠慮がちで、私はその時彼を本当に好きになった気がする。

(勿論、その時は全然気付きませんでしたが・・・・。)


1時間もしないうちに、ヨウは起き出し、私にも仮眠する様に即した。


「寝顔見られるの恥ずかしいし、眠くないから。」と、私がグズると、

「大丈夫。寝込み襲ったりしないから。まだまだ夜は長いから、せめて1時間でも横になった方が良いよ。」


半ば強引に、まだ彼の温もりの残る座布団の上に横たわらされた。


目を閉じたものの、昨日まで知らなかった人がいる空間で、まして会ったばかりの男性のいる部屋で眠る事は、私には出来なかった。

それでも体を横にし、目を閉じるだけでも随分安らいだ。


20分程目を閉じていたが眠る事は出来ず、ゆくっりと目を開けると、ヨウは由美のお線香を替えてくれていた。

彼に気付かれない様、ゆっくりと目を閉じると、ドアが静かに開けられる音がし、そのまま閉じられた。


もう一度ゆっくり目を開けると、ヨウの姿は無かった。


お手洗いにでも行ったのかな? と思い、私はこの隙に起きる事にした。

横になる為に束ねた髪を解き、そのまま伸びをしていると、新しい百合の花を手にし、ヨウが戻って来た。


「何? もう起きたの?」

「うん。随分楽になったよ。有難う。お花替えてくれるの?」と、言葉にすると同時にくしゃみが出た。


「ごめん。私、百合アレルギーなんだ。って言うか、匂いのキツイ花、花粉の飛び散る花は駄目なの。」

と、続けた。


「そうなん?ごめん。直ぐに別のに替えて来る。」と、言うが速いかもうドアの外に出ていた。


直ぐに戻って来るものだと思っていたが、10分経っても、15分過ぎても彼は戻って来なかった。


気を悪くさせちゃったかな? と思っていると、再びドアが開いた。