重い空気を破りたくて、何か言葉を探してはみたものの、ヨウの言葉を待った方が良いと思い、
私も彼の沈黙に付き合う事にした。
数分経っただろうか、私が時計代わりに携帯電話を見ようかとバッグを探っている時、やっと言葉を発した。
「僕も、そう思います。僕にも娘がいて、娘にとって父親は勿論僕だけだし・・・。可愛くない事はないんです。でも・・・。」
そう言ってまた沈黙した。
父親は僕だけだし?可愛くない事はない?
何だかとても違和感のある言葉だったが、私は普段から余り人の心に突っ込む事が苦手だったので、
また彼の沈黙に付き合うしかなかった。
その頃の私は、自分の悩みや秘めるべき事を他人に話すのがとても嫌だった。
(彼との長い付き合いの仲で、今はそうでは無くなりましたが・・・)
こうした方が良い。とか、貴女は間違ってる。とか説教されるのが本当に嫌いだった。
私のことを良く知りもしないくせに!!
通り一遍の説教なんて聞きたくない!!
と、いつも思っていたから、本当の悩みは、きちんと自分の中で昇華してからしか外に吐き出さなかった。
そんな私が、ごもっとも風に彼の心に入る事は出来無かった。
2度目の長い沈黙に彼自身が息切れしたのか、走り続けた後の様な深呼吸をひとつした。
「黙り過ぎて息詰まっちゃったの?何だか反対に、演説の後みたいだけど(^-^)」
と、私はようやく声を出せてほっとしていた。
「ごめん。今日会ったばかりの人に言うセリフじゃなかったね。でも・・・」
また、ヨウはその後の言葉を飲み込んでいた。
3度目の沈黙になるの?
私が指を折り掛けた時・・・・。
「こんな事言って怒られるかも知れないけど、弥生さんには今日会ったばかりって気がしなくて。
何でも話してしまいそうで恐いんだ」
私の目を真っ直ぐ見てヨウはそう続けた。
「そっれて誉め言葉と取って良い?」
「勿論!!」
私たちは見詰め合って微笑んでいた。
ここがお通夜の場でなければ、きっと2人声を上げて笑っただろう。
目の前には従妹の亡骸が横たわっている事を、2人ともきちんと認識していたから、話し声もかなり小さかった。
でもその事が、とても2人の距離を縮めたのだと思う。
本当にその夜は、色々な事を語り合った。
ヨウは、18の頃に1度結婚して半年で別れていた。
その時は子供はいなかった事。
2度目の結婚は、いわゆる出来ちゃった結婚だった事。
奥さんのご両親に反対され続けている事。
親の借金を返し続けていると言う、ごくナイーブな事まで打ち明ける彼に、私は、ただ聞くばかりでは申し訳ない様な思いがしていた。