岡山市外から遠く離れた片田舎から、叔母と一緒に別の従姉妹が来た。

同じ岡山の親戚一家も車に同乗してきたらしく、祭壇前の椅子周りは一気に賑やかな空気を放っていた。


みな、一様に、何故由美が死んだのか?顔は潰れていないのか?子供たちは何処にいるのか?K氏は何をしているのか?由美の母親はなぜここにいないのか?


一気に質問を私と兄に浴びせた。


その質問のひとつひとつに分かる範囲で、そして出来るだけ丁寧に、兄が答えた。


親戚一同は、まだ勢ぞろいではなかったが、兎に角、私たち以外の親戚が来てくれた事で、由美も少しは安心しただろうと思った。


その夜兄は1度家に戻る事になり、叔母や叔父は公民館での宿泊は年齢的に堪えると言うことで、兄の家に泊まる事になった。


岡山からの従姉妹たちと私が線香守をする事になり、K氏と少しは付き合いのある従姉妹が祭壇前で、私が裏の方で一晩付く事になった。


4月の気候のよい時期だったが、夜は少し寒く、私が一人狭い部屋にいるのが可愛そうに思ったのか、ヨウは一緒に付き合うと言ってくれた。


K氏は、若しかしたら役所関係の人の1部が来るかも知れないとの事で、出来ればヨウに表にはあまりいて欲しくなかった様だった。


「色々手伝わせておいて、何かごめんね。」と、私が言うと、

「いいえ。普通の時間ならまだしも、あんまり遅くまで僕が残っていると、お役所の人たちが要らない詮索をしないとも限らないし。何より、僕自身がここにいる方が良いから。」


本心なのかも知れなかったが、本当に彼は細やかな気配りの出来る人だった。


どうみても、私よりは年下そうだったのに、とても落ち着いた雰囲気の人だった。


「安達さんって、おいくつ?」との私の問いに

「ヨウで良いです。僕も、弥生さんって呼ばせて貰いますし。」と言い

「今31歳です。因みに×いち、2回目の妻有り。4ヶ月になる子供1人です。」と続けた。

「じゃあ、私も^^主人1人、子供なし。因みに×もなし。」と笑って答えた。


「ご主人は今日は来られないのですか?」

「ええ。今出張中で、明日のお葬式には間に合う様に来てくれるんだけど。

そういう意味で身軽なので、私が残る事になったの。」と言うと、

「僕も今別居中で、身軽なのでこのまま残ります」と笑った。

私は、何故そんな小さな子がいるのに別居中なのかな?と思ったが、言葉にはしなかった。

それからその夜は殆ど眠らず、ヨウと話し込んだ。


最初は、K氏との仕事での出会いから始まったが、いつの間にかお互いの夫婦間の話にまでなっていた。


私は子供がいない分、普段は夫婦で行動する事が多かったので、そう言うと、

「僕のところは一緒に何かをするって事殆ど無いなぁ~」と、愚痴っぽく言った。


「それはまだ子供さんが小さいからだよ。きっと。もう少し大きくなったらパパとしては一緒にあちこち出かけるようになるよ。」


「多分。。。それは無いと思う」ヨウの言葉はとても重かった。


「どうして? 気になってるから聞くけど、何故生まれてそんなに間もない子供さんがいるのに別居してるの? 」と、思い切って尋ねた。


ヨウは、本当は妊娠中からあまりうまく行っていなかった事。奥さんの方の両親に今でも反対されている事。自分が仕事ばかりで、余り育児を手伝わなかった事等の事柄を説明してくれた。


子供を育てた事のない私には、育児云々の事は言えなかったが、彼が、お母さんが子供にとっては1番の様な事を言ったので、それは違うと反論した。


私には小さい頃父がいなかった。


今でこそそんなに珍しくないのかも知れないが、当時、父は外に女の人を囲ってその人と一緒に住んでいた。


私は小さい頃、良くその事で苛められたから、

「子供にとって親はどっちも必要だし、どっちの親は要らないなんて事はないと思うよ。最初にヨウ君が母親との思い出の無い子は可愛そうだと言ったけど。その言葉そのまま返す。

父親との思い出の無い子も同じように可愛そうだよ。」


私の言葉に、彼は暫く沈黙した。