分からないことがある。
  
死ぬ前に聞けばよかった、と
母がときどき私に言う。
 
母は、彼女の両親の馴れ初めを知らない。 

地元の人ではない祖父と
地元で育った祖母は、名古屋で知り合う。
 
私の母も名古屋で生まれている。
 
 
だけど、なぜ祖母が名古屋に居たのか
どうやって祖父と会ったのか
 
そして、どうして祖父の生まれた土地に
戻らず、ここに戻ったのか?
 
分からない。
 
2人はもうこの世にはいないし
誰も知らないままだ。
 
 
誰も知らない話しというのは
なんだかミステリアスな感じがする。
 
 
子どもが4人もいるのに
なぜ誰も2人の馴れ初めを聞かなかったのか?
 
 
そんなことが聞けないくらい
生きる為に必死だったのかもしれない。
 

 
両親が共稼ぎだったため
母が弟や妹の親代わりだった。
 
 
そんな母にも、ひとつ秘密がある。
  

母も若いころ
どこかに働きに出ていたらしい。
 
 
地元に残った母の友人たちは
帰る度に垢抜けていく母を
羨ましく思ったと聞いたことがある。
 
 
しかし、母はどこで何をしていたのかを
口にはしたがらない。 

一生しないのだと思う。
 
 
何度も聞いたし
初めはなぜ、そこまで頑なに言わないのかが
とても、とても不思議だった。
 
 
だけど、大人になるにつれて
こう思うようになった。
 

母が言いたくないことは
そのまま、持っていけばいい。
 
 
彼女がそれを闇に葬りたいのなら
そうすればいい、と。
 
 
人には一つや二つ
闇に葬りたいことがあるものだ。
 
 
 
誰にも言わず
自分の胸にひめたまま
 
 
そのまま生きるも
よしとしてしまえばいいのだと思う。

 
 
家族だからといって
全部を知らなくてもいい。
 
 
 
知らないことがあるままで
生きていても家族なんだし。
 
 
ミステリアスな部分を残していった
祖父や祖母や
 
 
これからそうしていくであろう母を
思うと、何故か小説の中の
キャストのようで、楽しくなる。
 
 
わたしも何か
ミステリアスな部分がないものか。
 
 
 
んー曝け出しすぎるのも
あまり良くないなぁ、笑。
 
 

これは私の考えだけれど
  
闇へ葬りたいことがあるけど
それがあることで、心苦しいとか
後ろめたいとか、思う人がいるとしても


そんなこと思わなくていいと思う。
 
 

 
 
 
葬りたいならそうしなさいな、
言わぬが花という言葉もある。
 
 
言わぬが花
物事は露骨に言ってしまっては
興醒めするものであり、
黙っているほうがかえって趣があったり、
値打ちがあるものだというたとえ。
 
ー時事、ことわざ辞典より抜粋ー
 
 
 
少しミステリアスに生きるのも
オツなものかもしれませんね。