「久遠、待ってるから早く来てねキスマーク

珍しく甘えた口調のメールに自然と笑みがこぼれる。
いまだにどこか先輩後輩の関係から抜け出せないキョーコは
関係が変わっても以前と態度は変わらない。
それでもたまに出るようになった我儘や独占欲が嬉しくて
つい過剰に反応してしまいキョーコを怒らせてしまうのは
好きなんだから仕方ない。
しかし今夜はそれとも少し違う気がする。

「まずいな……だいぶ酔ってるみたいだ。急ごう。」

足を早め、彼女がいる店に急いだ。
店内に入ると、奥の方で女にせまっている男の背中が目に入ったが、他人が無粋に介入するものでもないとすぐに視線を逸らして
キョーコ達がいる個室を探し始めた。

「やっ!いやぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」

突然聞こえたキョーコの悲鳴に焦って後ろを振り返ると
さっき見かけた男が彼女に襲いかかっていた。

目に入った時にはすでに走り寄っていて
男の服を掴んで引き剥がし、そのまま後ろに放り投げた。

壁に追い詰められていたキョーコの腕を引っ張って
自分の胸にきつく抱きしめる。
それでも男に対する怒りが収まらなくて
また昔みたいに暴走する自分を制御できない。
彼女が呼びかけても返事をする余裕すらなかった。
多分今、彼女をこの腕に抱きしめていなければ
すでに殴りかかっていただろう。

「今すぐ-------失せろ。」

絞り出した声はいまだ殺気に満ちていて
荒れ狂う自分の感情と必死に戦っていた。

「ダメ!久遠・・・・!!!」

キョーコの声にハッと気持ちが引き戻される。
あの時と同じだ……また君に助けられた。

「う、いたたたたた…いきなり何しやがる!!」

それまで背中を丸めて蹲っていた男が荒げた声で顔を上げた。
視線が合った途端、どちらも声が出ない。
忘れたくても忘れられない男。
まさかこんな場所で会うとは思わなかった。
驚きは怒りを急速に消しさり
僅かだが恐怖すらも胸の奥から湧き上がり動揺が隠せない。

「お前……クオンか?」
「ヘンリー……?」

疑問形だったが、互いに誰かわかっていた。
知らずとキョーコを抱きしめる手に力が入る。
急に強く締め付けられた彼女が小さな呻き声をあげた。
しかし彼女は文句を言うわけでもなく
優しく安心させるように抱きしめ返してくれた。

キョーコは相変わらず人の痛みに聡い。
何も言わなくても、今一番欲しい物を彼女はくれる……

おかげで冷静さを取り戻した。

「まだ生きてたのか……てっきりどこかで、のたれ死んでいるかと思っていたよ。」
「ああ……そうだな……その方が楽だったかもしれない。」

そう…何度消えて失くなりたいと願った事だろう。
どれだけ悔やんでも、やってしまった事は元には戻せない。

わかってるーーーーーー

やはり俺は、幸せを求めてはいけなかったのか?

「久遠、顔が冷たい。」

キョーコの細い指がそっと頬に触れた。
指先からキョーコの温もりが伝わってきて、また不毛な自己嫌悪のループに陥って冷えてしまった心を温めてくれる。
腕の中で心配そうに見つめる彼女に、大丈夫だよと伝えたくて笑いかけた。

「相変わらず人間離れした奴だな。一体その顔で何人の女を騙してきたんだい?」
「ヘンリー!貴方、失礼よ!」

誤解だ!と反論しようとするより先に、今まで黙っていたキョーコがキレた。
久遠の腕の中で振り返り睨み付けるとヘンリーに言い返す。

「失礼じゃないんだよ、リサ。俺はただ、真実を述べただけだ。なぁ、クオン。」
「クッ…………」
「アメリカ、ロシア、日本人。欲張った神の采配が作り出した、こいつは奇形生物(ミュータント)だ!人間の面を被った悪魔なんだ!」
「一体何を言ってるの?貴方と久遠がどんな関係だったか知らないけど、これ以上久遠を罵倒したら、私が許さないわ!」

怒りの感情を露わにして、キッと睨みつけるキョーコに、ヘンリーはわずかに怯んだ。

「落ち着いて、リサ。君は騙されてるんだよ。奴がした事を知ったら、きっと君も同じことを思うだろう。」

キョーコの背中に回していた久遠の手が力なく落ちた。

「久遠、私は大丈夫。何を聞いても貴方から離れないわ。私の心は、永遠に久遠と共に在るの。」

ヘンリーを睨んでいた視線をいったん外し、久遠の方に向き直ると安心させるように優しく微笑みかけた。
久遠の強ばった表情が少しだけ緩む。
キョーコは、久遠の肩に手を乗せ背伸びをすると、チュッと軽く触れるだけのキスを唇に落とした。

人前では嫌がってあまりさせて貰えないキスを、キョーコに好意を寄せている男の前で、彼女からしてくれた。

それがどれだけ相手に心理的ダメージを与えるかも、きっとキョーコはわかってやっている。
再び闇に堕ちそうになっている俺の心を救うために、彼女は必死で俺を守ろうとしているんだ。

「キョーコ、忘れてないよ。君が俺を見ていてくれる限り、もう二度と同じ過ちは犯さない。約束しただろ。」
「・・・・・うん・・・」

うゅっと頬を染め、頷く姿は以前俺を救い出してくれたセツと同じ表情で、彼女もずっと俺を見ていてくれたんだと思うと、俄然力が湧いてくる。

「リサ!今すぐ奴から離れろ!さもないと、君もいつか、こいつに殺されるぞ!!」

こちらの存在も忘れて、二人の世界に入ってしまったリサに、ヘンリーは声を荒げて叫んだ。

一瞬沈黙した二人だったが、すぐに怒りに満ちた目でヘンリーを強く睨み返す。
暗黒なオーラを身にまとい、ゆっくり身体を離すと
久遠とキョーコは正面からヘンリーと対峙した。

キョーコがふつふつと怒りをたぎらせている横で
久遠は、握り締めた拳を静かにあげようとしていたのだった。

つづく


ヘンリーが誰かわかりましたか?

スキビファンの皆様ならピンときた筈ニコニコ
そうです!
31巻にちらりと出ていたモブキャラです。
過去の回想シーンで久遠に嫌がらせをしていた首謀格らしき人物。
名前もバックヤードもわからなかったので
勝手に妄想してこちらのお話に使わせていただきました~~

まだまだデンジャラスな展開は続きます!


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