セカンド・ラブ 33-2 ー火種ー

高級ブランドショップが軒を連ねる通りを左に曲がって
しばらく歩いた所にお目当ての店はあった。

隠れ家のような佇まいで表には目立った看板もなく
『響』と漢字一文字で書かれた小さな表札があるだけ。
人通りも少ない上に会員制という事もあり
パパラッチの目を避けて寛ぎたい芸能人の
御用達になっているらしい。

赤い暖簾をくぐって中に入ると、京のお茶屋さんを意識したような内装で、どこかノスタルジックをそそる。

もしかして、私の故郷を意識してこの店に決めてくれたのかしら。
この会を世話してくれた人の心遣いが感じれて嬉しい。

キョロキョロと辺りを見回しながら、お店の人を探す。
店内は、わずかのテーブル席とカウンター席、後は全部個室でプライバシーが守られていた。

「リサ!」

個室の一室から顔を出した女性に呼ばれて振り向くと
懐かしい顔にパッと顔が明るくなる。

ブロンドのショートヘアに勝ち気な青い瞳。
ノースリーブのホルダーネックトップにショートパンツ姿がホットで、彼女によく似合っている。

「ケイト!」

駆け寄ってきた彼女とハグして、しばらくの間再会を喜んだ。
身体を離し、ケイトの手が私の両頬を挟む。

「久しぶりね 、リサ。しばらく見ないうちに随分綺麗になったわ。」
「ケイトこそ!また一段と格好良くなった。最高にセクシーよ。」
「あら、ありがとう。でも、私より貴方‼︎ リサ、今、恋してるでしょ?」
「へっ⁉︎///」
「私を誤魔化そうとしても駄目よ。このお肌のハリとツヤ。美肌ホルモンがたくさん出ている証拠よ!」
「もぉ~、さすが恋愛マスター!何でもお見通しね。」
「ふふふー そうよ~ 恋愛に関してだけは、どんな演技の達人でも私の目を欺く事はできないの。」
「はい、よく存じてます。フフフ………」
「で、何処にいるの、そのお相手は?貴方の連れなんでしょう?」
「ええ、実はそうなんだけど……ちょっと急用で来れなくなっちゃったの。」
「えええ~~~~!会えないの!? リサの初彼にせっかく会えるチャンスだったのにぃ~~ オーマイゴット!!!」

顔を両手で覆い悲嘆にくれる姿は、愛の伝道師 LMEの社長と重なってしまい、笑ってしまう。

「人が悲しんでるのに、何笑ってるのよむかっ
「あっ、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど…見た目は変わっても、中身はあの頃と全然変わってないなぁ~と思って。」
「ん?どこが?」
「自分のはもちろん、他人の恋バナも大好きな所w」
「当然!これが私の美を保つ秘訣なんだもん。ドーパミンに、セロトニン!ばんばん分泌させるわよ~」
「やだぁw その手はやめてよ。フフフ・・・はいはいわかりました。ケイト様には、勝てません。」

お手上げと、両手を小さく上げて頭を下げるキョーコに、ケイトはウエストに両手を当てて胸を張り、ウンウンとわざと偉そうな態度で頷いた。
二人、目が合うとプッと吹き出して互いに爆笑する。

「懐かしいなぁ~ リサ、全然変わってないじゃん。」
「ケイトもね…ふふふーあのね、彼、用事が終わったらこっちに合流すると言ってるから、来たら紹介するね。」
「本当に!?ヤッタァ~ やっとリサの彼氏に会えるんだ~~うう~~楽しみっ!」

ウキウキとはしゃぐケイトを前に、キョーコは表情を引き締める。

「ケイト、でもね…あの……皆にはまだ……」
「内緒って事?」
「ええ。」
「同じ業界の人?」
「うん、役者なの。」
「そっか、わかった。でもその代わり、詳しく話は聞かせて貰うからね。」
「ケイト流尋問ですか?ちょっと怖いなぁ。」
「そ~んな事言って!お顔がにやけてますよ。」

キョーコの頬を人差し指で突いて、ケイトは嬉しそうに笑っていた。

「2人ともそこで何長々と遊んでるの?主役が入ってこなくちゃ、会も始められないだろ。」
「あ、ごめんなさい!」
「ヘンリー、ごめんね。久しぶりの再会に嬉しくて、ついはしゃいでしまったわ。」
「ははは、気持ちはわかるよ。」
「久しぶりだね、リサ。」

ブロンドに青い瞳の長身の男性が、キョーコの傍に近寄ってきた。
バカンス地であるにも関わらず、高級ブランドのスーツをキチッと着こなしている姿は生まれの良さが滲み出ていて 、柔らかく微笑む立ち姿からは、自信が漂っている

優雅な仕草で右手を差し出すその男に、リサは自分の記憶の引き出しを必死で探りながら手を握った。
握手をしてそのまま引き寄せられると軽くハグされ、すぐに解放される。

「俺のこと、憶えてる?」
「あ、はい。2年?3年前だったかな?舞台で一度共演させて頂きましたね。お久しぶりです。Mr.フォード。」
「正確には、2年と8ヶ月ぶりだけどね。ヘンリーでいいよ。
久しぶり、リサ。ずっと会いたかった。」

頬に触れるキスは一瞬で、挨拶としては珍しくないのになぜか、悪寒が走る。
しかしそんな感情を見せれるわけもなく、笑顔でキスを返す。

「リサ、今回のパーティは彼の提案で、会場探しから準備まで全部彼が仕切ってくれたのよ。」
「あ、そうだったんですか。私の為に、お手間をとらせてしまいすみませんでした。」
「いや、俺がお祝いしたくて動いただけだから気にしないで。それより、リサ、マストロヤンニ受賞おめでとう。君は俺の誇りだ。」
「え、いや・・・///・・・誇りだなんて…大袈裟です/// …あ、ありがとうございます。」
「さっ、皆お待ちかねよ!中に入ってパーティを始めましょ。」
「ええ。」
「さぁ行くよ、リサ。」

軽くキョーコの腰に手を添えてエスコートしながら歩くヘンリーは紳士的で、レディファーストを徹底的に叩き込まれた米国人なら当然の振る舞いだった。

なのに、何故だろう?

このやけに馴れ馴れしい態度が逆に
違和感を感じてしまう……

「リサ、どうかした?」

心配そうに顔を覗き込む彼は本当に私を気遣っているように見えた。

この2、3日、ずっと過保護に守られていて、まともに他の男の人と話していなかったから、ちょっと過敏になってるのかもしれない。
彼もあの時の事は根に持ってないようだし、私も気にしないでおこう。
せっかく私の受賞を喜んで、お祝いしてくれようとしてる人達に、こういう態度は失礼だわ。

キョーコは穏やかな笑みの裏に隠された激しい感情には気付かないまま、彼への警戒を解いてしまうのだった。

つづく

今回は結構すんなり書けたので、連日UPできましたо(ж>▽<)y ☆
次からは、波乱の幕開け!
どうなるんでしょうか!?( ´艸`)

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