私は再び30分休ませてもらうことにした。


そういえば、この処置室って隣の声丸聞こえなんだよなぁ…

私が悶え苦しんでる声も周りに聞こえていただろう。

怖がらせてしまっただろうか。

いい大人が騒ぐなんて恥ずかしいと思われただろうか。


しかし、そんなことはどうでも良かった。

私はこれから30分電車に乗り、駅近くのコインパーキングに置いてある車に乗り、お弁当の食材を買って帰宅しなければならないのだ。



右目はなにか鋭利な砂が入っているような痛みがする。

腫れた目を頑張って開くと、痛みで大量の涙がボロボロボロッと溢れてくる。さらに瞬きをする度にボロボロボロボロボロボロ!!!涙で視界が滲んでなにも見えない。

右目は完全に使い物にならなかった。


左目は問題なく手術が成功したようだ。

かなり腫れているが、痛みも充血もない。

しかし…

私の左目裸眼視力は0.2である。(右は0.8)

問題なく成功したところで、元々ボンヤリとしか見えないのだ。

さらに…

私は"右目を閉じて左目を開けるウィンク"が出来ない人間だった。

左目だけ開けようとすると、右目もうっすら開いてしまう。そして激痛が走る。涙が出る。


ボロボロボロボロ…

痛みと絶望で涙が止まらなかった。


時刻は18:30になっていた。

女さんがまた部屋に入ってきた。


女「どうですか?帰れそうですか?」


私は術後からずっと、スタッフさんたちの早く帰って欲しそうな雰囲気を感じていた。ちょっとイラッとした。私だって早く帰りたい。暇で休んでるわけじゃない。

長々とここで休んでいても痛みは良くならない。

寒いし。早く帰ってあったかい布団で休みたい。

とにかく行動しなければ。


私「あの…痛み止めの薬って今飲んでもいいですか?」


目のゴロゴロ…じゃなくてガリガリの痛みに薬が効くとは思えなかったが、何もしないよりはいいだろう。

女さんはまた水を持ってきてくれて、私の鞄が入っているカゴの中から痛み止めを取り出して渡してくれた。


女「薬が効いてくるまでもう少し休みましょうか」


また部屋に一人になった。

さて、どうやって帰ろうか。


左目はあまり見えないけど、しかし今は左目の視覚に頼るしかない。

左目を開けようとすると右目も開いてしまって痛いので、右目が開かないようにハンカチか何かで押さえておかなければならない。

なにより、目を閉じていてもガリガリ感があるので涙が出てきてしまう。押さえるのは必須だ。

押さえるためには片手が塞がる。片手だけで電車に乗れるだろうか?

車のことはとりあえず駅に着いたら考えよう。最悪、車を置いてタクシーで帰るか、代行を呼ぶか…

明日の次男のお弁当は…買い物に行くのは無理だ。家に何かあったかな…この状態では凝ったものは作れない…ゆで卵…冷凍唐揚げ…ハムと食パンがあったはず…ハムサンドなら作れるかな…


そんなことを考えながら10分程休み、女さんがまた現れた。


女「帰れますか…?」


とても帰って欲しそうである。


私「あの…眼帯ってありませんか?」


眼帯があっても手で押さえるのは必要だと思うが、少しなら両手が使えそうだ。

女さんは、ありますよ!と言って持ってきてくれた。

しかし、使い方に慣れていないようで、モタついている。


私はふと思い出した。


私「あれ…そういえば私、症例モデルなんですけど…術後の写真撮るって言われたような…撮らなくて大丈夫ですか?」


女「はい!撮りますよ!」


絶対忘れてたやろ。。。

いや、もしかしたら私の目は症例モデルとしては使えない状態だから写真撮ってもなーって感じだったのかもしれない。


頑張って両目を開けて、涙を流している目の写真を撮られた。

そしてモタモタと眼帯を付けてもらった。

これで帰るしかない!!!

私は覚悟を決めた。


眼帯の上から右手でしっかりと右目を押さえる。

右目を閉じていると左目が少ししか開かない。

たった0.2の視力が、うっすらとしか開かない瞼のせいでさらに見辛かったが、ぼんやりと足もとを見ながら歩き出す。


時刻は19:00を過ぎたところだった。

私がこのクリニックに到着してから7時間が経っていた。



〜完〜

後日談(経過観察)へ続きます。