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No.2
名著復刻 詩歌文学館<山茶花セット>解説 ほるぷ出版
日本近代文学館編 昭和55年印刷および発行
大学生のとき、書籍収集家の先輩に自慢されたコレクションのひとつが、この<山茶花セット>。
カフェのメニューではない。詩集の復刻シリーズの名称である。
なかでも、『転身の頌』日夏耿之介は、抜群によい本であった。
表紙は、濃紫紺の布張りに金字の装丁。ページを捲ると美しい長谷川潔氏の版画、写植の文字の微妙な風合い、紙質etc.現代ではお目にかかることなどない装丁に、こんな本があるのかと感激した覚えがあった。
行間の空きに、想像力が掻き立てられる、これぞ詩集だと。
値段を聞いたら、当時の読者には高い買いものだったので、いつか買いたいと憧れを抱いたまま時が過ぎた。すっかり忘れていたのだが、2年ほど前に思いだしてネットで探し購入した。確か、1万五千円程度。
もう少し高額だと思ったけれど…
宅配便が送られてきた日、初恋相手に再会したみたいに、胸躍った。
しかも、その相手は相変わらず魅力的、いや、思い出以上にすばらしい内容だったのだから。
セット概要は、25冊の詩集からなる。
改めて付録のセット解説目次と比較しながら、読者の本棚にある本を数えたら10冊不足していた。
だから、安い価格で購入できたのだと納得した。
先に名著復刻版が出版され、のちに<山茶花セット>として発売する際に、新たに15冊加えたと解説に書かれていた。25冊で販売したものと、15冊で販売したものとふたとおりあったらしい。
ほかの10冊もできれば探したい。
解説のなかには「復刻制作の基本姿勢」と題して、
(以下抜粋)名著復刻全集を制作する基本理念は、一貫して「原本の元の姿を再現して伝える」という点にある。
(中略)原本蒐集は、原則として最低2冊以上の入手、称号が必要である。同じ初版本どうしで異同のあるものが少なくないし、資材、印刷、造本上で差異が見られるので、底本となるべき善本をもとに数冊の比較検討を行ない、刊行当時の初版本制作の意図・標指を確認しながら、複刻制作の方針を決定することになる。従って、原本蒐集は刊行以後もつづけることが不可欠である。
紙の種類や性質を判別し、特漉きしたり、印刷方法なども発行時(昭和55年)の印刷技術を駆使しつつも、できるかぎり、初版時に近いものを作成した功績がうかがえる。
破損を防ぐための現代製本技術なども駆使しているようだ。
老舗の蕎麦屋なども、時代に応じてつゆの味を少しずつ変えながら、味を守るとういうのを聞いたことがあるが、この<山茶花セット>は、文化継承の意味合いと、技術への挑戦の両方が融合した作品である。
解説に、本ごとの仕様(紙質や印刷、駆使した点など)が書かれており、印刷や装丁という別の視点から本制作の意図を探ることができるのがまた、嬉しい。
一度に15冊もきたものだから、気に入った数冊以外は、本をカバーから外すこともなく本棚に2年ほど眠ったままである。
この機会に、一冊ずつ、じっくりと読んで、感想を紹介してみたいと思う。
その際、No.2-1、No.2-2などと枝番表記とする。
<山茶花セット(内容)>全25冊
●新選版に収録(10冊)
『若菜集』島崎藤村
『みだれ髪』与謝野晶子
『海潮音』上田敏訳
『一握の砂』石川啄木
『思ひ出』北原白秋
『赤光』斎藤茂吉
『道程』高村光太郎
『殉情詩集』佐藤春夫
『青猫』萩原朔太郎
『測量船』三好達治
●新版に追加収録(15冊)
『新体梅花詩集』中西梅花
『叙景詩』尾上柴舟・金子薫園 選
『孔雀船』伊良子清白
『子規句集』正岡子規
『沙羅の木』森鴎外
『転身の頌』日夏耿之介
『自分は見た』千家元麿
『ふゆくさ』土屋文明
『道芝』久保田万太郎
『軍艦茉莉』安西冬樹
『凍港』山口誓子
『山羊の歌』中原中也
『琅汗』中勘助
『鮫』金子光晴
『体操詩集』村野四郎
ほかに<連翹セット><石楠花セット><紫陽花セット>がある。