『スーツは仕事着だ』
『スーツは消耗品だ』
という意見を聞いてはいけない。嘘である。

スーツの大原則、それは『スーツは肩で着る』ということである。肩のサイズが合っている事がまず自分に合うスーツの必要条件だ。肩は必ずジャストサイズである必要がある。そして、自分に合うスーツは、必ず皺の寄り方が少ない。怒り肩の人、なで肩の人、それぞれ既製に合わせるとある特定箇所に皺が寄る。そこを直せば、見違える程スーツはしっくりと着れ、シルエットが綺麗になる。このような直しは、何も特別な事ではない。袖長さ、パンツ丈の調整と同じ意識で取り組むと良。

肩の次にサイズが合わないのが袖丈。大抵長過ぎる。下に着るシャツの袖口が全く見えない場合、確実に長過ぎる。パンツも大抵長過ぎる。ジーンズと違い、皺が寄り過ぎると全体バランスが取れない。特に細身の場合、パンツ丈は短めが良。

スーツの寿命は5年。もって7年。それ以上は生地がもたないか、型が古く成りすぎる。

自分に合うスーツが分からなければ、まず一着、プロの目で見てもらい直したスーツを着ること。有名メーカーに行く必要は無い。オーダーも高い。ビームス、トゥモローランドといった大手セレクトショップの主要ライン(7万円程度)で充分。日本は、それなりのスーツをそれなりの値段で買うには非常に恵まれた環境にあると思う。そして、これらセレクトショップの重装備エリアの店員さんは、かなり適切な指摘とアドバイスをしてくれる。採寸も正確。そこで、自分のサイズはいくつなのか、そして自分の体型の特徴からどこを直すべきかを教えてもらう。大抵どこの店のものも、同じ様な直しが必要になる。直しの値段はかなり良心的。お直しの受け取りの際には、必ず試着する事。そして、採寸をした店員さんに確認してもらうよう、その人がいる日と時間帯を聞いて受取日を調整する。自分が確認をする事にこだわる客だと、あちらの意識も違ってくる。

最も基本的なのが、クビの後ろに段差の様に出る月皺(怒り肩の人)と、背中の脇のあたりから流れるように付く脇皺(なで肩の人)。この2つのうち、自分はどちらが出易いのかを把握し、直してもらう。

着皺が寄ったスーツを着てはいけない。前日寝る前、ブラッシングをして、スチームを当てるなり、当て布をして低温でアイロンをかけるなり、前日の皺はとっておく必要がある。たかだた15分程度の作業。この作業を怠れば、例えどれだけ良いスーツを着ても印象は良くならない。

スーツの前ボタンは必ず留める事。(一番下は留めない)スーツは、歩き回る時にボタンを外すようにはデザインされていない。立ったとき、シルエットを綺麗に纏めるのがスーツの美点である。逆に、座る時にはボタンを外さなければ必ず無理な皺が寄ってしまう。スパンデックスではないのである。そんなに伸びたりはしない。座る時に片手でボタンを外し、立つ時に片手でボタンを留める。この仕草が綺麗に出来るだけで身だしなみはかなり良くなる。

スーツのポケットにモノを入れない。何もかも台無しになってしまう。部分的に極端な痛みを残す原因にもなる。


身だしなみは、ビジネスの最低条件の礼儀、とは思わない。ただ、身だしなみをきっちりすることは、様々なコミュニケーション、特に顧客との折衝や面接等において、非常に重要な役割を果たす。貧乏ゆすりをしないのと同様、身だしなみを崩さないのも仕事のうちである。お洒落である必要は無い。ただ、『きっちりしている』事は仕事の一部である。


はし