オルガ・ベルルッティの言葉に『靴を磨きなさい。そして己を磨きなさい。』というものがある。

靴磨きとは、小宇宙なのである。全ての雑念、ストレス、希望、不安、明日の予定、年度末の調整、こういったありとあらゆるものから解放され、ただただ靴を磨くだけの異次元がそこにある。磨き込む度に表情が変わり、衰えを見せるもの、最初の強情さを失い少しずつ自分に妥協するもの、細部の作りの手抜きを露呈するもの、永久とも思える堅固さを保ち続けるもの、くつによって様々な変化を見せる。そして、その変化を生んでいるのは履いている自分であり、その変化を唯一確認するのが靴磨きの瞬間である。久々磨いていなかった靴を磨くとき、それはもう、『申し訳無い』としか言いようの無い気持ちが襲ってくる。特に、エッグトウの、ブリテッィシュな奴ほど意地を張って寂しさを見せない所がかえって愛らしい。

靴磨きにも大きく分けて2つあって、ケアをメインとして乳化性クリームで仕上げる方法と、その後に油性ワックスでピカピカに仕上げる(『鏡面磨き』と言う)方法がある。私は基本的に前者しかしない。ただ、必ずデリケートクリームで一度保湿してから、一日置いて乳化性クリームを塗り込むようにしている。靴に興味を持ち始めた頃(実は言っても去年の話)に色々と調べてみたが、『これだっ』という決まりは無い。ありとあらゆるサイトで、皆若干のアレンジをきかせつつ、自分なりの磨き方をしている。私の方法も別に根拠がある訳でなく、何となく『その方が良さそう』と思ってやっているだけである。鏡面磨きとは比べ物にならないが、それでも細部まであれこれやっていると結構地道な作業である。この地味さが、我々を魅了するのである。そもそも趣味なんて、地味なものである。(切手集め、プラモデル、読書、ゲーム、等々。)

私の趣味は靴磨きとアイロン掛けと水曜どうでしょう、である。
あとの2つについてはまた今度書こうと思う。


はし

※写真はPerfetto(ペルフェット)のクォーターグローブ