ヒーローの侍女マーガレット役の亀井妙子です。

翻訳の喜志哲雄先生には20代の頃から、国内外でシェイクスピア劇や、ミュージカルをご覧になられた時にそのお話をたくさん聞かせていただいてきました。

その喜志先生から「いま『から騒ぎ』の翻訳をしているんです」と話していただいたのは、いつのことになるでしょう。
その後「出版されましたので、劇団のみなさまに」と本をプレゼントしてくださり、文学座の鵜山仁さんの演出でピッコロ劇団で上演されることになり……そして今です。

本当にたくさんの方に見に来ていただきたいです。
よろしくお願いします!



私事ですが『から騒ぎ』は大学の卒業公演の演目でした。

大阪芸術大学4回生。
4年間演劇を学んで、ようやく“自分は何もできない”ということを知った頃でした。

自他共に認める落ちこぼれで、私のためにみんなで居残り稽古をするようなことが何度もあり、迷惑ばかりかけて毎日ついていくだけで必死でした。

卒業公演の実習の教授は、ピッコロ劇団の初代劇団代表の故・秋浜悟史氏。

稽古場での最終稽古の1日前、秋浜先生がおっしゃいました。
「いいんですよ、いいんですけどね。あえて何か言うなら、この中に何人か、自分のことだけ考えてる人がいますよ。ほんの数人だけですけどね」

「私のことだ!」と思いました。できないできない!と自分のことに必死で、かなり視野が狭くなっていたと思うし、また迷惑をかけていたのかと思ってかなり落ち込みました。

翌日、「昨日先生がおっしゃっていたのは、自分のことだと思う。申し訳なかった」と、およそ私にはみんなのことを考えてくれていたと思われるクラスメイトが言いだしました。

『なんであなたが! 先生が言ってたのは私なのに……』と思っていたら「いや、あれは自分だ」「私だと思う」「あれは俺やねん」と、何人もが言い出し、「え!?こんなにいるの?じゃあ、自分だと思った人は?」と最初に口火を切った彼がみんなに聞いた時、ほとんどの人が手を挙げました。もちろん私も。

その日の最終通し稽古。初めて演劇を楽しいと思ったかもしれません。

相手のことを、みんなのことを考えながら芝居をしたら、こんなにも演劇は楽しくなるのか!と、驚いたのを覚えています。

心拍数が上がってドキドキしました。そのときめきを私は演劇的充実と名付けているんですが、鵜山さんの演出は、繊細で大胆で理知的でユーモアに溢れていて、その心拍数が上がるようなときめき、演劇的充実が毎日のようにあります。

今回みんなとともにこの作品に関われることに感謝して、あの原点を心に明日も舞台に立ちたいと思います。
ご来場お待ちしております。