ある宝塚のスターが、自身が退団する際に「稽古場は戦場である」という言葉を残して去っていったのですが、まさにそんな感じの1ヶ月でした。

 

『ダウト —疑いをめぐる寓話』は、3月4日に稽古初日を迎えました。

稽古が始まり、家を出る時、電車を降りた時、劇団に着いた時、稽古場の扉を開けた時。思うことは一つ「今日は戦いの日だ」。

そんな張り詰めた日が3日、4日と続くと、だんだん自分も気づきはじめるのです。「毎日が戦場だ」ということです。

 

 

2004年初演の本作は、当時社会問題となっていたカトリック神父の少年への性的虐待や、確証のないまま断行されたイラク戦争へのアンチテーゼとして執筆された戯曲です。

あるミッションスクールを舞台に、黒人少年との不適切な関係を疑うシスターと、その疑いを向けられた神父。

 

舞台となるのは、1964年のニューヨーク・ブロンクス地区です。

公民権運動もたけなわ、また当時カトリック教会自体も、伝統から革新へ、大きな揺らぎの時期を迎えていました。

 

そんな揺らぎの中にあって、さらに強烈に人物たちに通底するのは、やはりカトリックという信仰のもつ大きな「呪縛」です。

 

 

宗教、という言葉を使うと難しく、かけ離れて聞こえるかも知れませんが、宗教とはすなわち『生き方』と言い換えることができるとも感じます。

近年日本でも、その呪縛を持った男性によって権力者が凶弾に倒れる事件がありましたが、やはり彼の呪縛に共通するのは、「自分が生きていく上で絶対に譲れないもの」「自分の人生を賭けた信念」である、というのが、僕自身の考えです。

 

 

『ダウト』に登場する4人の人物も、やはりこの「自分が守るべき信念」「命を賭けてでも守らないといけない生き方」を盾に、それぞれの人生、生き方、過去、命を賭けて戦います。

そうなってくると、この戯曲に挑もうとする時、やはり自分自身も、同じくらい命を賭けて稽古に挑む必要がありました。戯曲のため、座組のため、劇団のため、自分自身のため、そして、お客様のため。大袈裟ではなく、僕自身、毎日がそんな稽古の連続でした。

そして、それは役者の皆さんにとっても同じだったと思います。

 

 

吉江さん、今仲さん、今井さん、中田さん、4名それぞれに、稽古場でもがき、共に戦い、役を生きてくださいました。

改めまして、心から感謝します。本当にありがとうございました。

 

昨年の『パレードを待ちながら』から引き続き、スタッフの皆様にも沢山お力添えをいただきました。今回も沢山勉強させていただきました、ありがとうございました。

 

そして、座組外の劇団員の皆様にも、特に広報面で多くのご協力をいただきました。

覚悟と想いを背負っての1ヶ月間でした。

4月に入った新劇団員の皆さんも、沢山手伝ってくれてありがとう。でもきのこの山あげたから僕と仲良くしてね。

 

 

最後に、何よりご来場いただいたお客様。末筆ではありますが、ご観劇いただき本当にありがとうございました。

幕が開いて、やっぱりここまでやって良かった、やった甲斐があったと感じることができました。

 

ちょっとしばらくは休みたいところですが、来週からは『新天地へ』の稽古開始です。

お客様に見ていただくために、また戦いの日が続くと思います。ぜひ『新天地へ』、ご来場いただけると嬉しいです。

 

 

改めまして、ご観劇いただいたお客様、お力添えいただいた皆様、本当にありがとうございました。