『炎の人 -ゴッホ小伝-』の上演を終えました。三日間、たくさんの方にご来場いただくことがかない、そして温かい拍手を頂戴しました。ありがとうございました。


 

入団一年目だった劇団員の田渕詩乃がこの企画を立ち上げたとき、作者のご遺族から上演許可をいただくにあたってひとつ条件がありました。長編の戯曲ではあるが、劇団側の都合でことばを削ったりせずに上演すること。


中ホールという空間で三時間をこえる作品になることが想定されました。大きなチャレンジでした。九万字を越えるテキスト。作家の三好十郎が刻んだおびただしい量のことばへの挑戦は、「実験と冒険」を銘打つオフシアターという枠組みがあったからこそ、スタートを切ることが出来ました。




提示された条件は厳しい制約になるかと思われましたが、しかしそうではありませんでした。すべてのことばを舞台にあげる、そう腹をくくったときに、目指すべきものが焦点を結んだのかもしれません。休憩を含めて3時間20分という時間を如何に興味深いものにするか。13人の演じる27名の登場人物を如何に描出するか。

制約があってこその創意工夫がスタッフとキャストとを縦に横に繋いで生み出され、いつしか、制約に生かされているとぼくは感じるようになっていました。



稽古を始める前に『炎の人』のチラシにぼくは、次のように宣伝文句を記しました。

友たちへの、彼の狂おしいほどの愛と祈り
ゴッホの絵筆はすべて、他者との交わりから動き出した。

今回の創作にあたって生じた「他者との交わり」をキレイなことばでまとめることはできません。ぼく自身演出をするなかで本当にたくさんの失敗を繰り返し、それでも皆の叱咤に支えられてイマココというのが実際です。実験と冒険だって? 実験を繰り返すなかで人と人は傷つくし、冒険だなんて聞こえはいいが迷惑なうえに怖くてたまらない。ホンマゴメン。ホンマアリガト。恥をかき、怯え、震えながらそれでも進む。だから、ひとりではないといいかげん気付け。わかれよ自分。ゴッホという絵描きがそうだったように、交わりを求め続けた時間でした。

そうして頂戴した今回のご縁に、関わってくださったすべての方に感謝いたします。ありがとうございました。そして、もしもつぎの冒険の機会をいただけたならその時は、どうぞよろしくお願いします。