初めての豊さん | ペッターの話

ペッターの話

誰も見てないと思いながら書いてる

高校3年生の時に水谷豊にハマった。

翌年、大学1年の5月くらいだったと思うが

豊さんのコンサート情報をゲットした。

丸の内にあるコットンクラブという

オシャレなライブハウスで

何日間か出る予定だった。


行きたい!!!!


行く気満々で情報を調べていると

とんでもない文言が飛び込んできた。


「未成年だけでのご来店はできません」


当時18歳。

私は見た目が幼いから一発でバレるだろう。

一気に青ざめた。


真っ先に母親へ相談した。

チケット代は払うから

ついてきてくれないか、と。

バイトを始めたばかりで貧乏だったが

背に腹はかえられない。


母はバンド仲間とボーリング大会があり

無理だと言った。

バンド仲間と、ということは

私が頼める周りの大人はまとめて全滅。

伯父伯母にも連絡した気がする。

で、何かの理由で断られた。


終わった………

頭を抱えて落ち込む私に母が言う。

「おじいちゃんに頼んでみたら?」


私は祖父がちょっと苦手だ。

しかしもう他には誰もいない。

仕方なく電話をしたら

二つ返事で引き受けてくれた。

この時ばかりは神様に思えた。


当日は駅で待ち合わせて

電車で東京駅へ向かった。

弟も行きたいというから

チケット代を払ってあげて祖父と3人。

水谷豊に興味はないけど

久しぶりに孫と出かけられるので

祖父はなんだか嬉しそうだった。


しかし、あと一駅で東京駅というところで

電車が運転を見合わせてしまった。

復旧の目処が立たない。

途方に暮れていると祖父が

「駅出てタクシー拾おう!

ここからだったらタクシーで行けるよ!」

と私たちを連れてタクシーを拾ってくれた。

タクシー代は祖父が出してくれた。


おかげでなんとか開場に間に合った。

現地に着くと途端にドキドキしてきた。

裏に、豊さんが、いるのか…!!


私たちの席は真ん中だったが

1番後ろのカウンターだった。

でもまぁ場所なんてどこでも良い。

水谷豊が、生で見られるならどこでも。


と、従業員が我々の元へやってきた。

「急遽キャンセルが出て

ステージの真横のボックス席が

空いているのですがいかがですか?

お一人様1,000円ずつ高くなりますが…」

と交渉してきた。

その席というのが確かに真横だが

手を伸ばせばステージに届くくらいの

距離だった。

「お願いします」

と、祖父が即答した。


豊さんはステージの真ん中で歌うから

ずっと横顔を見る形になったが

それでも近くて、すぐそこにいて

感動で正直ライブの内容は

何も覚えていない。

途中、一度だけ私たちの席の

ステージギリギリまで来てくれて

こちらへ向かって手を振ってくれた。

ボックス席には私たちしかいなかったし

後ろにも席はなかったので

この時だけは、確実に、自分に対して

手を振ってくれていた。

勘違いなんかじゃなくて。


それにしても変な組み合わせだ。

まだ幼さが残る男の子と

見た目が幼い女の子を連れた

おじいさんという3人組。

一見したら祖父に無理やり連れてこられた

孫2人、という図だが

明らかに興奮してるのは孫の方なのだから

手を振る豊さんもなんだか

不思議そうな顔をしていたのが忘れられない。



祖父は先日82才になった。

「こないだ豊さんの舞台を観に行ったよ」

と報告したら

この日の思い出話を嬉しそうにし始めた。

祖父にとって楽しい思い出だったらしい。