半年近く前から営業の求人を出していた。
会社の今後を決める
大事な新規プロジェクトを担当する営業。
書類は何通も送られてきたが
実際面接に来たのは片手で数えられる程。
採用の気配がないまま数ヶ月が経った。
「どうやら新しい人が入るらしい」
そんな噂を聞いたのが先週。
この会社は新入社員の連絡が疎かなので
気付いたら知らない人がいた
なんて事も今まで何度もあった。
22日に有給休暇を取り
翌日出社してメールチェックしていると
休んでる間に新入社員の
入社連絡が入っていた。珍しい。
新入社員さんを仮にTさんとする。
新たに営業として配属になる59歳男性。
59歳かぁ。
随分歳上の新入社員がきたなぁ。
しかしそれで採用したのだから
よっぽど経歴や人柄が良かったんだろう。
私は会社の2階で1人で働いている。
営業は5階。経理のおばちゃんは4階で1人。
朝出社しても挨拶はないので
あまり顔を合わせない、という
ちょっと特殊な環境だ。
59歳だと、どんな話が合うのだろう?
アルフィーさんは世代じゃないかな。
BOØWYなら同世代くらいかな。
なんて挨拶をしようかな。
ドキドキ考えていたが
待っても待っても挨拶に来てくれない。
まぁ、私の方が先輩ではあるけど
Tさんの方が倍長く生きてるしな。
やっぱ年下から挨拶に出向くべきか。
いや、もしかしたら現場へ出ていたり
他の事務所に挨拶へ行ってていないのかも。
一応、挨拶に行く前に
営業さんへ内線を鳴らしてみた。
私「Tさんって5階にいらっしゃるんですか?」
営「いや、いないっす…」
その一言で全てを察した。
そもそもTさんは出社していなかったのだ。
昨日の今日でバックれちゃったのかな。
そう思いながら用事があって4階へ行った際に
経理のおばちゃんへ尋ねてみると
詳細はご存知でなかったが
どうやら初日の夕方には退職が決まってたらしい。
経「『明日から来ないんですよ。
また仕事探さないと…』って言ってて」
と。
よっぽど嫌だったのかな。
まぁ、気持ちは分からんでもない。
営業のトップは常務取締役で
なかなかクセの強い人だからだ。
経理のおばちゃんに聞いたら
「Tさんもちょっとクセが強そうな人だった」
と言っていたから
それで早々に見切りをつけたのかも。
いや、全く違った。
昼頃に2階に降りてきた営業さんが話してくれた。
どうやら、営業は土日出社になる事があると
事前に聞かされていなかったらしい。
その事についてTさんが突っ込んだところ
社長は
「面接で説明してる」
と頑なに譲らない。
Tさんは社長の言い分を聞いて
「では自分の記憶違いでした」
と折れた上で
「土日出社でも良いので働かせて欲しい」
と言ったそうだ。しかし社長は
「もう明日から来なくて良い」
と、バッサリ解雇を言い渡した。
初日の夕方に。電話で。
営業さんに聞いたらTさんは
妻子持ちなんだそうだ。
年齢もあり転職活動が上手くいかず
100社以上受けてようやく受かった1社だった。
奥さんも喜んでくれ、新しいスタートのために
なごり雪の降るなか出社したら夕方に解雇。
「女房になんて言おう…」
と放っといたら死にそうな雰囲気だったようで
営業さんは帰りに飲みに付き合った上
最寄りまで送ったらしい。
私が休んで布団でぬくぬくしてる間に
とんでもない修羅場が繰り広げられていた。
結局私は一度もTさんに挨拶できないまま
お別れになってしまった。
ワンマン社長なのは気付いていた。
特に思い知ったのは、元上司Aさんの時。
Aさんは社長と同じ方向を向いて
会社のために尽力していたのに
ふとしたキッカケで社長に嫌われ
嫌がらせを受けた上で2月に退職した。
社長の暴走は今まで何度もあったが
この嫌がらせには私も巻き込まれたので
初めてハッキリ当事者になり
社長に愛想を尽かしていたところだ。
こんな人の下じゃ働けない、と改めて思った。
余談だがAさんは優秀な人だったので
何百倍も大きい上場企業へ
華麗に転職を決めた。
転職先の上司から
「人材を引き抜いてきて欲しい」
と言われているようで
保守員のほとんどに声をかけているのを
私は知っている。
それに、Aさんが退職した直後
うちのお客さんが20件くらい一気に
Aさんの転職先へ奪われた。
「悪いけど本気で潰しに行くから」
と、退職前に言っていたのを思い出す。
さっさと潰してくれないかなぁ。
もちろん私はその前に逃げる準備を
しておくけれど。