私の生演奏体験Best3の3番目として挙げたアムラン(1961- )だが、彼に注目したのは1990年前後のこと。カナダから発売されたオール・ゴドフスキーアルバム(ゴドフスキーについては後日詳述するが、難しい編曲作品を多数残したことなどで、一部ピアノ好きの間で著名)の出来栄えがあまりに素晴らしかったことに驚いたものだ。技巧的な負担の大きさゆえに鈍重な演奏が多いゴドフスキーの編曲作品が見事に「音楽」になっており、さらにゴドフスキー独自の微妙な和声についても十分な配慮が行き届いたものであった。輸入盤店では見かけないため、発売元から20枚くらい買って、知人に頒布したこともよく覚えている。


 以後も私のようなピアノ好きを喜ばせてくれるディスクを多数リリースするものの、来日する気配が無かったため、断られて当然という覚悟で私とその仲間とで「招聘したい」と申し出た。97年1月のことである。すると意外にもすんなりOKがもらえて、あわてて会場を手配し、チケットを用意し、PR活動をし、初めてのことにいろいろととまどいながらも12月の初来日公演を迎えた。著名なコンクール歴のない彼の演奏会に聴衆が集まるのだろうか、という不安はあったものの、意外に「知る人ぞ知る」ピアニストになっていたようで、2回のリサイタルはいずれも満席。成功裏に終了した。
 二回のリサイタルの内容も良かった(特に二日目のゴドフスキーやアルカンについては、しばらくは同レベルの演奏を日本で聴けるとは思えないほどだったし、アンコールレパートリーの幅広さも驚くべきものだった)が、それとともに彼自身といろいろな話が出来たこと、彼がどのように練習をするのか(してきたのか)をつぶさに知ることができたことなど、副産物も多かった。今思い返しても、夢のような10日間であったと思う。

 以後、彼は来日を重ね、ブゾーニのピアノ協奏曲などの日本初演を行うなど、日本の音楽界の歴史にも名を刻みつつある。演奏する曲目がそれほどポピュラーではないため、来日しても東京とどこかでリサイタルを2,3回行うだけなのが残念だが、いつの日か、もっと日本国内広範に演奏活動をしてほしいものだ。今年はまもなく9月に来日する。彼についてはまた後日詳述したい。



 すでに彼のCDは50枚近くに達している。私が愛聴しているものとして

、オーストラリア生まれのComposer=Pianist グレインジャーの作品集、
Percy Grainger, Charles Villiers Stanford, Richard Strauss, Marc-André Hamelin
Grainger: Piano Music

ゴドフスキーが編曲したショパンのエチュード集、


Leopold Godowsky, Marc-André Hamelin
Godowsky: The Complete Studies on Chopin's Etudes


日本でも名演を展開したアルカンの「ピアノ独奏のための協奏曲」、

アムラン(マルク=アンドレ), アルカン
アルカン:ピアノ独奏のための協奏曲

そして協奏曲のCDから、他に市販の録音がないという点も評価して、ヨゼフ・マルクスの「ロマンティックピアノ協奏曲」を挙げておきたい。


Erich Wolfgang Korngold, Joseph Marx, Osmo Vänskä, Glasgow BBC Scottish Symphony Orchestra, Marc-André Hamelin
Korngold: Piano Concerto, Op. 17; Marx: Romantisches Klavierkonzert

 上述した97年の来日公演はNHKでTV放映され、FMでも放送されたが、残念ながらこれらは市販のソフトにはなっていない。