成果主義で薄れる存在感
 平木委員長が示唆するように、労働組合は今、これまでとは異なる方策で存在感をアピールせざるを得ない状況に追い込まれているようだ。
人事コンサルタントの城繁幸さんは、その背景に、成果主義人事制度の導入など組合員である会社員を取り巻く環境の変化があると指摘する。

 「これまで労働組合は、組合員の賃上げなどについて、団体交渉を通じて横並びで要求することを機軸としてきました。
しかし、年功序列型賃金制度に代わって成果主義が広がった今では、仕事や待遇面の個別化が進み、従来の労組の戦法ではまったく立ち行かなくなっているのです。
特に入社時から成果主義の洗礼を受けた若い世代の組合員にとっては、労組が自分たちのために何かをしてくれるという意識はないのではないでしょうか。
おのずと、労組の存在感も薄れ、その結果が組織率の低下となって現れていると考えられます」

 厚生労働省の06年「労働組合基礎調査」によると、産業別組織を通じて加盟している単一労働組合の労働組合員数は、06年が約1004万人と、10年前の1996年(約1245万人)に比べ、約2割も減少している。
 労組の組織率が低下する一方で、従来の正社員だけが加盟するという労組の「常識」を超えて、新たに非正社員が自らの職場で労組を結成する新たな動きも出ている。

 ピアノ教室の講師を務める女性たちで06年2月に結成された「YMSスガナミユニオン」(東京・港区)も、そのひとつだ。

 労組結成のきっかけは、ピアノ教室を経営する楽器店と委任契約を結んでいる講師たちに対し、楽器店側がいきなり、一方的に契約解除や賃金の引き下げなどを通告してきたことだった。
当初は労組に関する知識もなかったが、連合東京に相談し、アドバイスを受けながら、連合ユニオン東京の傘下労組として結成にこぎ着けた。

 同ユニオンの加笠淳子・執行委員長(49)は、
 「最初は労働組合というと、男性が拳を振り上げて経営者と闘うといったイメージしかなく、正直、あまり関心はありませんでした。でも、組合結成に向けていろいろと勉強し、準備を進めるなかで、それまで自分たちがいかに賃金などに関して無頓着だったかということを思い知らされました」
 と話す。
 同ユニオンには現在、全講師の約7割にあたる、23~60歳の女性33人が加入。経営者側との団体交渉を通して、突然の契約解除を取り消させるとともに、待遇改善の回答を勝ち取るなど、着実に成果を上げている。
 「自分たちの技能を生かした仕事には充実感を抱いてきましたが、それも経営者の適切な評価や賃金などが伴ってこそ、本当にやりがいのある仕事と言えるということも実感できるようになりました。組合活動のお陰です」(加笠執行委員長)


 労組における女性の活躍は、既存の労組でも、少しずつではあるが広がっている。連合では、91年から、数値目標を掲げて労組の女性役員の増加を目指してきた。加盟単組の女性役員比率の平均は05年が7・4%で、99年と比べて0・3ポイントの微増にとどまっているが、連合本部では05年に22・2%と、99年から倍増した。

 「流通・サービスや公務員など、比較的女性比率の多い職場のほかにも、近年は電機や情報サービスなどでも労組役員に女性が選ばれています。
男女がともに責任を担い、安心してやりがいのある仕事を続けるために、女性の活躍は重要だと考えています」(連合総合人権・男女平等局長の龍井葉二氏)
 京王百貨店労働組合の横山陽子・中央執行委員長(45)は、86年に京王百貨店に入社後、94年から同労組中央執行委員を務め、副執行委員長などを経て、今年2月に執行委員長に就任した。連合中央執行委員も務めている。
 「執行委員になって最初のころは、まわりの組合役員は男性ばかりで、戸惑ったこともありました。以前はテーマに挙がることが少なかった育児休業やワーク・ライフ・バランスなどのテーマは現在では最重要課題のひとつですし、女性の組合員の声をくみ上げることの重要性を痛感しています。
各企業に成果主義が広がり、職場の人間関係が希薄になっている今だからこそ、人と人とをつなぐ労組の役割はますます大切だと思っています」
 横山執行委員長は、そう話す。

横山陽子・中央執行委員長
 労組のありようが変化しつつあるなかで、組合員であるサラリーマンたちは労組とどう付き合っていけばいいのか。

 社会経済生産性本部雇用システム研究センターの東狐貴一・主任研究員は、こう指摘する。
 「成果主義を背景に、労組は従来型の賃上げ交渉など、結果の平等を要求する組織から、会社が従業員に対して行う業績評価など、プロセスの公平性をチェックする組織への変化が求められていると思います。さらに、労働者側から会社のあるべき姿を提案するという大きな役目も担っているのです。こうした労組の役割が適正に遂行されているかを組合員はしっかりと見定め、そうなるように発言していくべきでしょう」
 労組が岐路に立たされているのは間違いないだろう。そして、その労組とどう向き合っていくのかも、サラリーマンには問われているようだ。

(読売ウイークリー2007年10月7日号より)



転載⇒http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yw/yw07100701.htm