先月末にピティナ・ピアノコンペティションの地区予選が一通り終わりました。
私の生徒でも予選を通過できた子もいれば、残念ながらできなかった子もいますが、いずれにしても参加すること自体が素晴らしいことだと思いますし、予選への参加を通して何か学びを得て、また次に向かって頑張ってほしいと願っています。
さて、私はコンクールに対しては決して諸手を挙げて賛成、というわけではありません。
ピアノの上達のためには単に多くの曲に取り組むだけでなく、併行してソルフェージュや理論面、音楽史等、様々な事柄を勉強する必要がありますが、どうもコンクールへの過度な参加がこれらの学びを阻害するのでは?と思ってしまうこともあります。
その一方で、一つの曲に深く取り組み、高いクオリティで仕上げることの重要性も痛感することもあり、そのためにはコンクールというものが果たす役割というのは、決して無視できるものではないと思います。
闇雲に参加することには反対ですし、大きなホールで行われる自由曲制のコンクールというのも、入賞狙いで分不相応な難曲を選択し、弾きこなすために無理のある奏法で過度な練習を続けて変な癖がつく恐れがあるため、すべての子ども達に勧められるものでは決してないと思います。
一方でピティナ・ピアノコンペティションは複数曲からなる課題曲制で、更に比較的短期間で取り組め、予選の内は100席未満の小さい会場で行われることもあります。
課題曲も年齢相応なとなっているため個人的には良い学びの場になると思い、最近はこちらを勧めるようにしています。
さて先日の地区予選の際に一つ嬉しい出来事がありました。
C級を受けた子がいましたが予選通過にはならなかったものの、審査員の先生から講評で「脱力ができていて美しい音色」というお褒めの言葉を頂きました。
実はこの生徒は普段自宅では電子ピアノで練習をしています。
私は電子ピアノでも上達するための練習方法や弾き方にも日々腐心しているため、このような講評を頂けたことには自分の中では予選通過と同じくらいの嬉しさがありました。
断っておきますが私自身は電子ピアノでもピアノと同じように上達する!とは決して考えていませんし、可能であればピアノで練習を行った方が絶対に良いと思います。
ただ、私の教室がある埼玉県川口市は全国的にも特にマンションが多いですし、私の教室はその中でもよりマンションが密集している地域にあります。
なので一定数の割合で、電子ピアノで日々練習している生徒がいます。
一応ピアノのご購入を勧めることもありますが、「マンションの規約でピアノはダメで・・・」と言われたら私にはどうすることもできませんし、「それならアビテックスも一緒に!」のようなことも決して言えませんし、かと言って電子ピアノの生徒をお断りすることも私には決してできません。
なのでどうすれば電子ピアノでも上達するか、電子ピアノでも難しい曲を弾けるようにするための練習方法を考える毎日です。
その一環として私自身も電子ピアノで練習して研究することも行っていますし、一度2週間電子ピアノのみで練習をしてその前後の演奏を友人に聴いてもらい、演奏の変化の感想を率直に述べてもらったこともあります。(もちろん先入観を避けるために電子ピアノで練習したことは伏せました。このことはまた別の機会に詳しく書きたいと思います。)
電子ピアノで練習をする際の大きな問題点としてはタッチ、打鍵が極端に雑で乱暴になるか、または反対に弱々しくなることが挙げられますが、この場合前者は音量を絞って、後者は音量を上げての練習の際に起きやすいかと思います。
個人的には前者よりも後者の「音量を上げて練習をしてタッチや打鍵が弱々しくなる」方が、まだよっぽどマシだと考えています。
音量を絞った上で乱暴に叩くように弾いてしまうと、それだけで不必要な力を鍵盤に加えることに繋がりますし、習い始めの内は他の指にも力が入ったり動いてしまい各指の独立の妨げとなりますし、ほぼほぼ脱力ができず腕や体が硬くなってしまうことに繋がります。
なので私は電子ピアノで練習を行う子には、とにかく優しく弾くようお伝えします。
優しく弾くことを心がければ不必要な力が鍵盤に加わることも避けられますし、各指の独立にも繋がり腕や体が硬くなることも避けられます。
この「優しく弾く」ということですが、当然ながら生徒本人以上に親御さんにもしっかりとお伝えするようにしています。
「音量を絞って練習をされても構いませんが、とにかく優しく弾くようにしてください。お使いの電子ピアノではそれほど音が鳴らず物足りなさを感じられるかもしれませんが、グランドピアノだとしっかり音は出ますので」といった感じです。
この際に他に気を付けることとしましては、「手や指の形」が挙げられます。
手や指の形をある程度きれいに保つことを電子ピアノでも意識すれば、ピアノを弾く際に良い音が出ることに繋がりやすくなります。
ここまで読まれてお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、これらの指導は「形」から入っています。
ピアノの練習の際は指を動かして音を出し、その音を耳で良く聴き、理想の音になるよう手や指の動かし方を調整していくということを際限なく行いますが、上記の電子ピアノでの練習方法だとまず「優しく指を動かす」、「手の形をきれいに保つ」ということに注意を払うため、音やそれを聴くための耳がおろそかになるという批判の向きがあるかもしれません。
ただあえて言うならば、「こうせざるを得ない」というのが実情です。
こう指を動かせばこんな音が出る、というふうに打鍵と音量の関係がある程度決まっているピアノと、音量を調節できる電子ピアノとでは、埋めることは容易ではないギャップが存在します。
加えて各家庭による電子ピアノの価格差による性能の違いというものもあります。
これらを考慮すると電子ピアノの生徒に対する理想の指導方法というのは、通常の教室でのレッスンプラス出張レッスンだと思いますが、それは決して現実的ではありません。
もちろんレッスンでは自分の音を良く聴くように生徒にもお伝えします。
しかしレッスンでその部分にこだわりすぎると、自宅の電子ピアノでレッスンでの音を再現しようとするあまり、体に不自然な力が入ってしまったり脱力ができなくなることに繋がりかねません。
なので小さい内や習い始めの頃はレッスンで手の形をきれいに保った上で優しく弾かせて、「家の電子ピアノでもこんな感じで練習してね」とお伝えするのがベターかと思います。
ただそれでもこれを長期間続けていくと、少なくともピアノを弾いた際に乱暴で汚い音がでるようなことは決して起こりませんし、何より各指の独立もでき、自然で脱力した弾き方をある程度身に付けることができます。
もちろん音量や響きの面で物足りなさを感じることはあるかもしれませんが、それでも乱暴に叩くように弾いて体が硬直して脱力ができなくなるよりはよっぽどマシだと思います。
そうしてある程度弾けるようになったらレッスンでは改めて自分の音を良く聴くようお伝えし、「この音を再現するための指の動かし方や体の使い方」を指導して、その動きを自宅の電子ピアノでも繰り返し行ってもらいます。
これを頑張って続けた私の生徒は電子ピアノでも、シューベルトの即興曲2番、ドビュッシーのアラベスク、メンデルスゾーンの無言歌集、ショパンのワルツ、バッハのフランス組曲、ベートーヴェンの初期のソナタ等の比較的難しい曲にたどり着き、かなりのクオリティで弾きこなせた子も何人もいます。
そして冒頭のコンクールでの講評に繋がったかと思いますし、何より過去には私の生徒で電子ピアノでの練習でピティナの地区予選を通過した子もいます。
もちろん曲に関してはいつかは限界がくるとは思いますし、電子ピアノのみでラヴェルのスカルボやバラキレフのイスラメイのような曲には決してたどり着けないと思います。
ピティナの予選通過に関してもD級辺りが関の山では・・・とも思ったりもします。
ただ上記の曲に関しては、「もうこれより先は無理かな・・・」という私の予想を良い意味で裏切ってきたので、私としましては電子ピアノでどこまでたどり着けるかというのを見てみたい気もしますし、何よりも限界を超えてほしいとも思っています。
※私が主宰しております清水ピアノスクール(埼玉県川口市)です。詳しくはこちらをご覧下さい。
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