トランプ完敗(米ーイラン覚書)
アメリカ合衆国とイランの戦闘終結覚書。両国署名の予定が定まりました。ホルムズ海峡が開放されて、石油不足が解決し、めでたしめでたし、というニュースになるでしょうが、実際には何が起こっているのでしょうか?北野幸伯さん発行『ロシア政治経済ジャーナル』の記事をご紹介します。(以下転載)2月28日にはじまったイラン戦争。アメリカとイランは6月14日、「戦闘を終結する覚書」に合意したと発表しました。トランプは6月14日、「合意が成立した」とSNSで表明。イランの国防・外交を統括する最高安全保障委員会も、覚書に合意したと発表しています。つまり、アメリカ、イラン双方が「覚書に合意した」ことを認めている。今回は、うまくいくかもしれません。覚書の詳細な内容は、まだ明らかになっていません。現在わかっている内容を報道から見てみましょう。▼ホルムズ海峡は???『時事』6月15日。〈スイスで19日に署名式を行った後、イランが事実上封鎖している原油輸送の要衝ホルムズ海峡を開放。米軍はイラン港湾に対する海上封鎖を解除し、船舶の通航を再開させる。両国ともに合意内容の履行は署名後に始まるとの認識で一致している。〉ーーー19日の署名式の後、・イランは、ホルムズ海峡を開放する・アメリカは、いわゆる「ホルムズ海峡逆封鎖」を止めるということです。・イランは、ホルムズ海峡を開放するイランによるホルムズ海峡封鎖で、中東の国々は、原油・LNGなどの輸出が困難になっていました。(@サウジには紅海ルート、アラブ首長国連邦にはホルムズ海峡外にあるフジャイラ港ルートがありますが。)・アメリカは、いわゆる「ホルムズ海峡逆封鎖」を止めるホルムズ海峡封鎖に対抗して、米軍はいわゆる「逆封鎖」を行いました。これは、イランからの船(たとえば石油タンカー)が外にでるのを阻止するための措置です。イランの原油輸出の90%は対中国。これを阻止することで、イラン経済に打撃を与えようと。19日、無事署名式が行われれば、ホルムズ海峡が開放される。そうすると、約4カ月足止め状態だったタンカーが、いっせいにホルムズ海峡外にでていきます。当然、ガソリン価格は下がり、インフレは終息に向かうでしょう。トランプの心配は、まさに「インフレ」でした。彼は、「インフレを退治する!」と約束して大統領選で勝利した。ところが、その後やったことは、「関税引き上げ」と「イラン戦争」です。関税を引き上げれば、輸入品の値段が上がって、インフレが進むイラン戦争でホルムズ海峡が封鎖され、原油の供給が減り、ガソリン価格があがり、インフレが進んだ。「このままだと、11月の中間選挙で負ける!!!」トランプの中では、この状況をどうするかが最大の課題だった。それで、何としても、戦争を終わらせたかった。▼核兵器開発問題は?次に、イランの「核兵器開発問題」はどうなったのでしょうか?〈バンス米副大統領は14日にFOXニュースで、イランが核兵器を保有せず、開発や調達をしない確約が覚書に盛り込まれていると説明。署名後の60日間で、イランが持つ高濃縮ウランの処分方法や制裁緩和を議題とする核協議が開かれる見通しだが、議論は難航するとの見方が根強い。〉ーーー覚書でイランは、「核兵器を保有せず、開発や調達をしない」と「確約している」そうです。そして、イランが持つ「高濃縮ウランの処分方法」などは、署名後60日間で協議されるとのこと。▼なぜ「覚書」は、トランプ完敗 なのか?こう見ると、大きく二つのテーマがあることがわかります。1、ホルムズ海峡封鎖、ホルムズ海峡逆封鎖をどうするか?2、イランの核兵器開発問題をどうするか?今回は、「ホルムズ海峡封鎖」「ホルムズ海峡逆封鎖」をイラン、アメリカが「止めること」で合意しました。これは、世界にとって、もちろん「いいこと」です。まず、原油の供給量が増え、世界中でインフレが止まるでしょう。また、世界各地で深刻になっていた、「石油由来製品の不足」が解消されていくでしょう。アメリカにとってはどうでしょうか?ガソリン価格が下がり、インフレが収まり、アメリカ国民は喜ぶでしょう。イランにとってはどうでしょうか?戦闘が停止し、中国への原油輸出が再開され、お金が入ってくるようになります。ですから、ホルムズ海峡封鎖、ホルムズ海峡逆封鎖が終わることは、ほとんどすべての国にとって「WINーWIN」なのです。しかし、問題は、イランの「核兵器開発」です。覚書でイランは、「核兵器を保有しない」と「確約した」そうです。しかし、イランの「確約」という言葉に何の意味があるでしょうか?北朝鮮が何度、「核兵器を保有しない」と「確約」したか思いだしてください。そして、6月19日の覚書署名後、60日かけて「核兵器保有問題」のディーテールを詰めていく。イランが、この期間に「高濃度濃縮ウラン引き渡し」などで、譲歩すると思いますか?私は、「あり得ない」と思います。なぜでしょうか?6月19日から交渉がはじまったとして、60日間。ざっくり8月19日まで交渉が行われたとしましょう。イランは譲歩せず、交渉は決裂した。その時、トランプは、イランを攻撃するでしょうか?トランプが攻撃したら、イランはまたホルムズ海峡を封鎖するでしょう。すると、また原油価格が高騰し、ガソリン価格が上がり、インフレが再燃し、トランプの支持率は下がるでしょう。8月19日というと、11月の中間選挙「間近」といった時期です。トランプが、「選挙で敗北するリスク」をとって、イラン攻撃を再開するとは思えません。考えてみてください。「ホルムズ海峡が開放されて、メデタシ、メデタシ!!!」そうはいっても、ホルムズ海峡は、イラン戦争前、開放されていました。トランプが戦争を始めたのは、ホルムズ海峡を開放するためではなかった はずです。では、彼は、なぜイラン戦争をはじめたのか?そう、イランの核兵器保有を阻止するため です。実際、彼のハチャメチャに見える戦争には、「大義」がありました。イランは2023年3月時点で、ウラン濃縮度を83%まで上げていた。2023年9月時点で、IAEAの査察を拒否した。2025年6月のアメリカによる核施設攻撃の後も、IAEAの査察を受け入れていない。そしてIAEAは、イランが60%の濃縮ウランを440kgほど保有しているとみている。原子力発電に必要なウラン濃縮度が3~5%であることを考えれば、イランは核兵器開発問題で、絶対的に真っ黒です。ですから、トランプが「イランの核兵器保有を阻止する!」と宣言したとき、それは「国際社会のため」だったのです。特に、イスラエルやサウジアラビア、その他の周辺諸国にとっては、超深刻な問題です。そう、トランプは、イランの核兵器保有を阻止するために、戦争を開始した。ところが、トランプは今、イランの核兵器問題については、これから話し合おう! という。要するにトランプは、2月28日から続けてきたこの戦争で、実質何の成果も出せなかった ということになります。ですから、アメリカーイランの覚書は、トランプ完敗 といえるのです。▼イランは、北朝鮮成功モデルを驀進する昔からの読者さんはご存知でしょう。私は前々から、「イランは、北朝鮮成功モデル を進んでいる」と書いてきました。「北朝鮮成功モデル」とは何でしょうか?1、なんやかんやと交渉を引き延ばし、とにかく核兵器を一発でも保有してしまう2、北朝鮮の例でもわかるように、アメリカは、核保有国を攻撃することができない3、イランが核兵器保有すれば厳しい経済制裁を科されるが、中国とロシアとの交流で体制を維持することは可能そして、イラン戦争によるガソリン価格高騰、インフレによってトランプの支持率が下がっている。トランプは、「11月の中間選挙で負けたら、弾劾される」と恐れている。こういう時間的制約が、イランに有利に働きました。トランプは、いつものように、「大勝利だ!」「歴史的だ!」と自慢するでしょう。しかし、事情を知っている人はいうはずです。「ていうか、核兵器保有の話、全然進んでないよね」と。トランプは、そもそも封鎖されていなかったホルムズ海峡を開放しただけです。それで、「勝利宣言」することができるでしょうか?もちろん、口ではなんとでもいうことはできます。しかし、事情を知る人は皆、「いや、勝利じゃなくて、敗北だろ」と口に出さなくても思っているはずです。▼トランプの権威失墜は深刻な段階へトランプの覚書に一番落胆しているのはイスラエルでしょう。イスラエルの存在を認めないイランが、核兵器を保有する。これは、イスラエルにとって悪夢以外の何物でもありません。それでネタニヤフ首相は、覚書に失望しています。『時事』6月15日。〈米国とイランが戦闘終結に向けて合意したことで、イスラエルが対イラン軍事作戦で掲げた戦略的な目標の達成は道半ばとなった。強硬姿勢を貫くネタニヤフ首相と戦闘継続を回避したいトランプ大統領との亀裂も露呈。イスラエル国内ではトランプ氏に対する失望感が深まっている。〉ーーーイスラエルの気持ち、理解できます。そして、イスラエルを裏切る形になったトランプは、ただではすまないでしょう。「イスラエル・ロビー」は、アメリカ国内の最強ロビーなので、共和党内でトランプ批判が強まりそうです。「トランプ批判が強まる」それだけで、すむでしょうか・・・・・?