ヴォカリーズ | 還暦過ぎたピアニスト

還暦過ぎたピアニスト

青が好き。色も、響きも、そしてその意味も。若々しい躍動的なイメージがあり、未熟な初々しいイメージもある。「ヨーロッパの赤には、青が一滴」という発想も素敵だと思う。シニアになった今も、できれば青の近くで、楽しみたい・・。

分前に、Anderson & Roe という、ピアノデュオの演奏を、ユーチューブで偶然見つけた。


その映像では、ピアソラの「リベル・タンゴ」を弾いていて、若い奏者が自分達で連弾用に編曲したものらしい、極めてユニークな演奏だった。


プロモーション・ビデオという感じで、それも自作だったのかも知れない。


まず、男性ピアニストが一人で演奏を始めるのだが、相手の女性ピアニストは立ったまま、伴奏の音が出てくる部分の弦を、手のひらで押さえている。


その為、その部分の弦だけからは余韻の殆どない響きが出てくるので、あたかもチェンバロか何か、他の楽器と合奏しているかの様に聴こえてくるのだ。


そのうち、女性が左手は弦を押さえながら、右手で低音や高音を弾き加えてゆき、次第に連弾らしい音の厚みが出来上がっていく。


最初は、意表をつく奏法で驚かせるのだが、本来の姿勢に戻って弾き始めたその演奏は、更に意表をつく素晴らしい技術力で、たちまち惹きこまれた。


ネットで検索してみたら、ジュリアード音楽院で学んだ若い二人の様だったが、既に来日経験もあるらしい・・。


その後、暫くは忘れていたのだが、最近キリ・テ・カナワ繋がりで、二人の演奏する「ヴォカリーズ」の映像に出会った。


「リベル・タンゴ」の頃に比べて、二人とも年齢を少し重ねているし、その演奏姿も、正統的な素晴らしいデュオ奏者に変貌していた。


ゼルキンの演奏に比べて、やや遅めのテンポで始まって、それは悲哀のこもった、実に美しい演奏だった。


この演奏でも、上のパートが男性で、旋律を繊細に繊細に、まるですすり泣くかの様に優しくかなでている。


一方の女性の響きは、母なる大地といった風なスケールの大きな間の取り方で、豊かな音色の低音や、中声部のメロディも、ゆったりと聴こえてくる。


ジュリアード仕込みの二人のタッチは、切れも素晴らしい。


ユーチューブならばこその、貴重な出会いであった。