19世紀ヴィクトリア朝の古き良きロンドン。

     この街で、若い女性が次々と不気味な儀式を思わせる手口で殺される事件が発生していた。

     ロンドン警視庁は解決の糸口さえつかめないでいた。が、数々の難事件を解決したかの有名な名探偵、

     シャーロック・ホームズは犯人を突き止め、邪悪な黒魔術を操る男、ブラックウッド卿を見事警察に引き

     渡す。だが、事件を解決したホームズは失意を抱えて引きこもってしまう。

     ワトソンが家庭教師のメアリーとの結婚を決意、ホームズとのコンビを解消するというのだ。


                       Piattの私的映画生活


     そんななか、死刑を宣告されたブラックウッド卿が、ホームズに「私は復活する」と宣言、さらに「あと3人

     死ぬ。己の無力さを知れ」と不気味な警告を告げ、予定どおりブラックウッド卿は処刑された。

     ホームズの元にアイリーン・アドラーが現れる。彼女は、ホームズが唯一愛した女だ。

     アイリーンに心を乱されたのもつかの間、ホームズのもとにブラックウッド卿が生き返ったという信じ難い

     知らせが届く。墓地に駆けつけたホームズとワトソンが見たものは、別人の死体だった─。


     そして黒魔術を使って世界を転覆させようとする、ブラックウッド卿の計画が明るみに。

     果たして、ホームズは恐るべき企みを阻止することができるのか─!?

     (あらすじをお借りします。Yahoo、allcinema様)



                        Piattの私的映画生活


     シャーロック・ホームズと言ったら、推理作家、アーサー・コナン・ドイルの代表作となる私立探偵シリー

     ズで、シャーロック・ホームズと、友人で書き手のジョン・H・ワトスンの織り成す推理小説である。

     誰でも、一度は聞いたことがあるに違いない。

     図抜けた洞察力、観察力、分析力を発揮する英国紳士、事件解決こそが最高の報酬というプライドを持

     った男といった印象を持つ。


     物語は基本的に事件の当事者、あるいは捜査に行き詰まった警察がホームズに助けを求め訪ねて来る

     ことで始まる。ホームズが現場に調査に行き、警察の見過ごした証拠を発見し推理を働かせて事件の

     謎を解き、物語は終わる。

     ほとんどの作品がワトスンによる事件記録、という形で書かれている。

     変人の探偵と常識人をコンビにして相棒を物語の書き手とするスタイルは、「史上初の推理小説」といわ

     れる『モルグ街の殺人』(エドガー・アラン・ポー、1841年)を踏襲しているらしい。



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     個人的に好きな作品というか、印象深いのは競走馬、名馬シルヴァー・ブレイズの失踪と殺人を扱った

     シリーズ「白銀号事件」(短篇)。「吠えなかった犬の推理」で有名な事件。

     事件当夜の犬の「とても奇妙な行動」から、「一見何の不自然もないことが、実はとても奇妙であること」

     を推理して、ホームズは犯人を特定した。

     名馬銀星号が夜半に盗まれたのに、番犬は吠えなかった。だから何もおかしいことはなかったはずとい

     う人々に向かって、「それがおかしいというのだ」と指摘してみせたホームズの一言は、本当に衝撃的だ

     った。見方によって世界が反転するという本格ミステリの醍醐味の洗礼をホームズから受けた。



                         Piattの私的映画生活


     シャーロック・ホームズは、いかにも英国プチブルジョア高等遊民を代表する人物という印象が強い。

     鹿打ち帽にインヴァネス、手にはパイプ、時には阿片(コカイン)にも手を出し、独特な推理能力で鮮や

     かに推理を解く。

     視覚的には、まあやはり本の挿絵に大きく印象を受けているかもしれない。


                        Piattの私的映画生活


     でもこの映画はその流れをほとんど汲んではいないので、原作のシャーロキアン(熱狂的なホームズ・

     ファンのこと)のための映画ではないかもしれない。

     とくに短篇、長編あわせて60作もあるシリーズをくまなく読んだ読者は要注意。

     イメージが大きく変わる可能性があると思われる。

     これは別物、「米国私立探偵冒険譚(エンタメ)」として観ることをお勧めしたい。


     今回のホームズはクラシックなホームズ像ではなく、トレード・マークの鹿打ち帽を被らず、革製みたい

     なジャケットを着て、アンダーグラウンドの賭け格闘技に参加するという武闘派になっている。

     かなり身体が鍛えられているのだ。


                        Piattの私的映画生活


     変わったのはホームズばかりではない。ワトソンは、これまではほとんどホームズの引き立て役だっ

     た。ボケがいるからこそ突っ込みが生きてくるのであり、ホームズが光り輝くためにも、ワトソンが絶妙の

     ボケをかます、というか引き立てる必要があった。

     それが今回は、ワトソンもかなり行動的で、時にホームズ並みに活躍したりする。

     ワトソンも今回はかなりアクションの比率が高い。ホームズの引き立て役ばかりではないのだ。

     ホームズも孤高の名探偵としてではなく、パートナーが必要になったということか。


                       Piattの私的映画生活


     さらにはホームズが過去恋したアイリーン・アドラーという女性も登場する。

     ホームズの女性関係はかなり研究されている話題であり、アドラーとかつて恋仲だったとする意見は多

     くの支持を集めている。アドラーは印象としてはホームズより活動的であり、こういうアクション重視の作

     品には登場は不可欠なのかもしれない。

     いずれにしてもそのため、今回の映像化はホームズものというよりも、まったく新しいヴィクトリアン朝を

     舞台とする探偵ものという印象の方が強い。



                       Piattの私的映画生活


     実際、今回のホームズは、得意の推理で謎を喝破し、変装して夜の街を徘徊して推理を検証するという

     いつものスタイルではなく、身体を張ってのアクションで事件を解決に導く。

     ちゃんと推理や変装や阿片等のいかにもホームズというシーンもあるし、ブラックウッド卿の死からの復

     活や黒魔術というものも理詰めで解決されるのだが、それよりも印象に残っているのが、ホームズと図

     体のでかい相手とのアンダーグラウンドでの格闘シーンや、波止場での派手な爆発を交えたアクション

     だったりする。印象はアイアン・ホームズ?

     英国のホームズものというよりも、アメリカ風のでこぼこコンビを主人公にしたアクションものに印象が近

     い。というか、この方面を最初から目指したんじゃないかと思う。



                        Piattの私的映画生活


     ホームズ演じるダウニーは、かつて英国を代表する俳優のチャップリンを演じたこともある。

     今度は英国を代表する探偵のホームズを演じることも不思議ではない。しかし、それでもダウニーJr.と

     いって今真っ先に思い出すのは、チャップリンではなく、誰だろうと「アイアンマン (Iron Man)」だろう。

     アメリカン・コミックの映画化で、今最も旬の俳優の一人であるダウニーJr.がホームズを演じることは、

     その映像化の印象がひとまず残ってしまう。

     今年のゴールデン・グローブ賞では、ダウニーがホームズとして受賞したのはドラマ部門ではなく、コメ

     ディ/ミュージカル部門なのだ。

                      Piattの私的映画生活
     ジョニー・リー・ミラー、クリス・ヴァンス、ティム・ロス等、アメリカで活躍する英国人俳優は多い。

     そしてわざわざアメリカ風のアクセントで喋る。

     そのシェイクスピアと並んで英国を代表する、たぶん知名度という点では英国発のキャラクターとしては

     1、2を争うに違いない超有名英国人シャーロック・ホームズを、現在アメコミ・ヒーローとして人気のアメリ

     カ人ダウニーJr.が演じる。英国にはホームズを演じることのできる英国人俳優はいないのか。

     アクセントもまったく英国風を意識していないようだ。

     「チャップリン」の時もこんな喋り方をしていたんだっけ?

     アメリカ英語を喋るホームズかぁ。アメリカ人でも英国人でもない私だが、英国式のホームズを恋しく思

     ってしまった。

     アメリカというマーケットを意識したキャスティングにせよ、これでは印象がアクション寄りになってしまう

     のも仕方ないのかも。


                         Piattの私的映画生活


     また、「天使と悪魔」を連想させる“本当に魔力は存在するのか”というのが、本作の主題の1つでもあ

     り、黒魔術を使って残忍な殺人を繰り返すブラックウッド卿の存在がかなり効いている。

     19世紀当時も、「科学」と「宗教」の対立があり、原作者のコナン・ドイルも心霊研究協会なる団体の会員

     だったそうだが、本作もそれに沿った形で、ホームズの科学と、ブラックウッドの魔力を対峙させた点は

     興味深い。

     ハリウッドの勧善懲悪的な描き方に影響を受けているのか、今回の悪の首謀者、ブラックウッド卿の不

     気味さ、憎たらしさ、恐ろしさはさすがリッチー監督作品常連の凄み。



                         Piattの私的映画生活


     ホームズに絡むキャラクターとして、元恋人のアイリーン・アドラーを演じるレイチェル・マクアダムスも英

     国俳優ではなく、カナダ人俳優。アドラーは元々アメリカ人という設定だからそのことに特に違和感はな

     い。しかし、アメリカ製ドラマとはやはり微妙に印象が異なるのだ。

     ただし、マクアダムスはホームズ、ワトソン、アドラーという3人の中心人物の中では、最もぴったりイメー

     ジと合っているような気がする。



                         Piattの私的映画生活


     ホームズが戦うシーンでは、攻撃前の瞬時に、彼の考える攻撃方法がスローモーションで映し出され

     る。その後実際の攻撃を開始。視覚的にホームズの思考回路を理解することが出来、早すぎて分から

     ない戦いのシーンをじっくり堪能することに成功。

     これはミュージック・ビデオやCMを手掛けていた英国人、ガイ・リッチー監督のキャリアが生かされてい

     ると思う。


     これはホームズの新時代へ向けての第一歩となるのか。

     感じとしては伏線とあの超有名な数学教授が出て来ないところをみると、シリーズ第2弾が作られてもお

     かしくなさそうだ。

     シリーズをくまなく読んでいる方限定のおたのしみもある。



                       Piattの私的映画生活


    監督: ガイ・リッチー

    製作: スーザン・ダウニー(ロバートDJr.妻)他

    共同製作: スティーヴ・クラーク=ホール(ロックンローラ)

    原作: アーサー・コナン・ドイル

    原案: ライオネル・ウィグラム/マイケル・ロバート・ジョンソン

    脚本: マイケル・ロバート・ジョンソン/アンソニー・ペッカム(インビクタス/負けざる者たち)

    音楽: ハンス・ジマー(ダークナイト、天使と悪魔)


    出演: ロバート・ダウニー・Jr「アイアンマン」 (シャーロック・ホームズ)

        ジュード・ロウ「Dr.パルナサスの鏡」 (ジョン・ワトソン)

        レイチェル・マクアダムス「きみがぼくを見つけた日」 (アイリーン・アドラー)

        マーク・ストロング「ロックンローラ」 (ブラックウッド卿)

        ケリー・ライリー (メアリー)

        エディ・マーサン (レストレード警部)



    129分 アメリカ映画

    2010年3月12日公開



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