きっと今、あなたは私との楽しかった思い出を夢に見ながら眠っている。

どうかな?
違うかな?



少し離れてみて、あなたの優しさとかがだんだん判って来たんだよ。
忙しくてもメールをくれてたりとか、私を気遣ってくれてたりとか。

何でもっと早くに気付かなかったんだろう。

何もしてくれない、私の事を好きじゃ無いんだって思ってたもん。

別れを確実な物にしたのも、このままじゃ私がダメになるから、
あなたも悲しいけど、この結果を選んだんだよね。


どうかな?


今、どう考えてる?

一瞬でも、私の事が頭に過ぎったりしてる?
寂しい?


私はずっと毎日そうだよ。
でも、少しは立ち直れてる。



もっとあなたに尽くせばよかった。
笑顔を見せればよかった。
手を重ねればよかった。



もしまた、友達としてでも会えたら、ちゃんと伝えたい。
感謝の意を。


胸いっぱいの楽しい時間をありがとう。

確かに傷も出来たけど、それに一生懸命お薬を塗ってくれてたあなたにひどくしてごめんね。



月が本当にキレイな夜だった。



病院は山に囲まれるように建っていて、日が落ちればまるで閉ざされた地のように見える。

暗闇のなか唯一差し込む月明かりに照らされる私と、彼。

寝顔がなんて子供みたいなんだろう。
何も考えず、何も無かったかのように眠る彼をぼんやり眺めながら、私は心が砂漠のように渇いているのを感じていた。



窓は開くのだろうか。

ここは個室、少し位なら自由に出来る。
ロック部分を下げて、両手で力を篭めて引くと。

夜のしじまとの直接対面。



風が思ったより涼しい。
もう9月、日中はそう感じずとも季節は確実に進んでいた。

カーテンが、波打って、それを追うと同時に彼の顔も私の目に入る。



この人は私の悲しみ痛みを知った上で寝いてるのか?
大病で彼の負った傷は大きい。
でも、それをそばで支える私は、何で支えて貰えればいい?



一人になりたかった。

一人だったけど、
二人で居るのに一人っていう孤独に堪えられそうに無かった。



窓の外には大きな丸い満月。
私を誘っているかのようにそこにあった。

足を上げて、窓の縁にかけ、力を込めて体を浮かせる。

ベランダに着地すると全身を撫でる夜風が一層寒く感じられた。

それでも私はパジャマのままでベランダに立ち景色を眺めた。



彼が入院するこの病院は、私の家の隣の市にあった。

私は自分自身で運転が出来ないものだから、バスを乗りついで通っていた。
週に二日。
仕事の関係もあってその位が限度だった。

でも、彼がこの個室に移って、宿泊も可能だということなので、私は週末日曜日~月曜日を過ごすことが出来るようになった。

嬉しかった。

彼の側に一秒でも長く居たかったから。

私を必要としてくれる彼を心から癒したいと思っていた。



そんな時、
この個室で、
私じゃない女が彼を癒した。



私は彼を責めて責めて責め抜きたかった。
でも彼はその罪に自身を保ち切れず、私が何か言う度に欝になりふさぎ込んだ。

私はどうしようも無かった。

一先ずは彼の体の回復を待ってからにしよう。
それまではひたすら支えよう。

そう決心した。



しかし現実は思ったより甘くは無かった。

時折、抑え切れなくなる感情が私のコントロールを乱す。

どこにも行き場の無い私。

夜、一人で涙を流すのが1番楽だった。


月は明滅するかのように見えた。
それは錯覚?それとも私の瞼の雫のせい?

呟いても一人。
歌っても一人。

閉ざされた山の病院は、静かに静かに私を飲み込んでくれる。



30分は居ただろうか。
再び窓を乗り越え忍び足で彼の個室に戻った。



相変わらずの寝顔。

いつか、また、心から癒したいと思えるだろうか、この寝顔を。



答えは、数ヶ月後に出たのだが。



あの夜の月明かりの病院。
ずっと忘れられない、渇いた記憶の中の渇いた私。



私の寝顔は誰も覚えていないだろうけど。