1989年6月
「色鮮やかな熱帯魚が、群れをなして目の前を通り過ぎる。海底には、1981年に沈んだタンカー。船室に残っていた空気を吸ってみたら、ちょっとカビくさかったわ」。山本さん(東京都千代田区)が、スキューバダイビングの体験談を話し出すと、ダイビング仲間の石井さん(東京都新宿区)、赤羽さん(東京都清瀬市)が、かたわらで、しきりにうなずいた。
ここは東京・新宿住友ビル隣のドゥ・スポーツプラザ。
山本さんらは、1989年4月10日から9日間、インド洋に浮かぶサンゴ礁の島、モルジブ共和国へ行ってきたばかり。「いろいろなスポーツをしてみたけれど、ダイビングが一番。わずらわしい俗世界のことなんか、きれいに忘れてしまいますから」。山本さんらは、すっかり海のとりこになっている。
ダイビングは、素潜りのスキンダイビングと、潜水器具をつけて潜るスキューバダイビングに分けられる。
潜水医学に詳しい東京医科歯科大学の真野喜洋助教授(運動生理学)は、「スキンがテニスなら、スキューバはゴルフ」と運動量の違いを指摘する。「だから、スキューバは老若男女、だれにでも楽しめるレジャー性の強いスポーツ」と、真野助教授は位置づける。基本をマスターした上で行えば、危険はほとんどない、という訳だ。
真野助教授は、さらに人間の体が持っている防御機構を例に挙げ、「地上で、ある運動をして1分間の心拍数が、160-180になったとしても、水の中では、同じ運動で120-140にしかならない」と話す。
つまり、「水中では、心臓にかかる負担がそれだけ少なくなる。同じ運動をするなら、水中の方が危険が少ない」というのだ。
では、ダイビングは人体にどんな影響を与えるのだろうか。ここに実験結果がある。ダイビングの初心者A(経験半年)と上級者B、C(経験74年)を対象に、水深20メートルの海中で、72分間にわたって同じ潜水パターンを繰り返してもらい、心拍数を計ってみた。Aの心拍数は、1分間に126.3、B、Cはそれぞれ103.4、106.6で、Aに比べ約20少なかった。
一方、酸素の摂取水準を比較すると、Aは17.5%だったのに、Bは8.7%、Cは18.5%で、あまり差がなかった。
この結果について、真野助教授は「経験が浅い人の場合、かなりのエネルギーを消耗するが、慣れてくると、無駄なエネルギーを使わずにすむ」と分析。そして、「精神的にリフレッシュされる点が、ダイビングの最も大きな特徴」と、ストレス解消、気分転換に効果があることを強調する。
ただ、注意しなければならないのは、潜水病。急速に浮上すると起きるものだが、浮力調節装置などの技術革新が進んでおり、真野助教授は「安全な潜水を心掛ければ、特別な運動能力を必要としない唯一のスポーツ」とまで言い切る。
[入門アドバイス]
〈潜る前に〉
十分な訓練を受け、必要なライセンスを取得する。潜る時はウエットスーツ、ジャケット、フィン(足ひれ)、マスク、シュノーケル、ボンベなどが必要。
〈歴史〉
海女のように、素潜りで海産物を取ることは紀元前から行われてきた。1983年、フランスのジャック・マイヨールが、3分14秒潜り、水深105メートルに達したのが、素潜りの世界記録(ギネスブック)。
日本で器具を使った最初の潜水は、1825年、徳川幕府が長崎港に船台を築造した時で、水圧と同じ圧力の空気を送るため、給気潜水器を使用した。
〈問い合わせ先〉
「パディ・ジャパン」、「ナウイジャパン」、「ジュデフ」(全日本潜水連盟)
籾山敦輝典