皆さん、こんばんは。

今日は私、フォト俳句作家美月のフォト俳句と小説を掛け合わせた作品をご紹介します。


「抗えず 籠を脱けしは 哀歌のみ」美月


 私の世界はこの城の中だけ。一国の王女として生まれ十五年。外に出ることは許されず、この城の中でただ黙って笑顔の仮面をつけ続ける。それが私の人生。まるで籠の中の鳥のようだ。 

  そんな私の密かな楽しみは歌を歌うことだ。どんなに窮屈で自由のない日々も、歌を歌っている間だけは忘れることができた。 
  ある日、いつものように部屋の窓辺で歌っていると、下の庭からパチパチと手を叩くような音が聞こえた。 不思議に思い、下を覗くと、一人の少年が私に向かって拍手をしている。顔を合わせた瞬間、驚いて私たちは互いに身を隠した。だが、しばらくして、声を潜めるようにした少年の声が聞こえた。 
「あ、あの」 
  私は恐る恐る下を覗いた。少年は物陰に隠れながらも、何か話したそうな様子だ。 
「・・あ、あの・・私と話しているのが知れたら、叱られますよ」
 他の使用人たちに聞かれないように小声で忠告すると、少年は小声でこう返してきた。
 「す、すみません、あまりにも綺麗な歌声だったので・・つい・・」
 「え?・・」 
その時だった。
 「おい、どこ行った!」
  誰かが探しているようだ。咄嗟に私は身を隠した。私と話しているのが見つかったら、相手がどんな目に遭うか知っているからだ。 
「あ、あの、また・・歌ってくれない?」
 少年の微かな声が聞こえ、私は少しだけ顔を出し、少年の様子を覗いた。 
「今日の夜九時にここで。必ず来るから」
 少年は目を輝かせて、そう言うと、意気揚々と自分の持ち場へ戻って行った。 
  見たことのない顔だ。新しい使用人だろうか。歳は自分と同じぐらいのような気がした。それにしても。「綺麗な歌声・・」 
 少年の言葉を口に出してみた。そんなことを言われたのは生まれて初めてだ。今日の夜、また来ると言っていたが本当だろうか。私は戸惑いながらも、何かが変わる予感に胸をときめかせていた。

  柱時計が九時を告げた。待ちわびたその音を合図に私は急いで窓辺に駆け寄った。下の庭を覗いてみたが、人影はない。やはり冗談だったのか。そう思い、窓辺を離れようとした時だった。 
「やぁ」 
  あの少年の声だ。慌てて下を覗くと、彼が物陰に身を隠しながら笑顔を見せた。 
「また歌ってくれない?僕はここで聴いているから」「・・あ、あの、そ、そんなに気に入ってくれたのですか?」
 「もちろんだよ。今日からこの時間は僕と君だけの秘密の音楽会だね」

  それから、秘密の音楽会は毎晩のように続いた。彼は庭の芝生に座り、私が歌うのをいつも嬉しそうに聴いてくれた。音楽会の後は決まって、夜が明けるまで語り合った。 
  ある時、私がこの城から一歩も出たことがないと話すと、彼は意を決したようにこう言ってくれた。
 「いつか僕が連れ出してあげる。約束する」
  彼の笑顔は月に照らされて、輝いて見えた。 

  だが、そんな幸せな生活が続くわけもなかった。 たまたま通りかかった使用人に目撃され、秘密の音楽会は城中に知れ渡ることとなった。 彼がどんな目に遭うのか。私は彼を救いたい一心で父に頼み込んだ。
 「悪いのは全部私です。何でも言うことを聞きます。だから彼だけは助けてください!」 
  父は、彼を許し、解放してくれた。私が一生この城の中で生きることを条件に。

  明くる朝。まだ朝靄がかかる中、城を追放された彼が正門に向かい去って行く。 
 「行かないで」 そう叫びたいのに、鎖で繋がれた心がそれを阻止する。 
  私は部屋の小さな窓から、小さくなる彼の後ろ姿を見つめ、彼が好きだと言ってくれたあの歌を口ずさんだ。だが、それもすぐにやめた。 
 「・・・あなたが羨ましい・・・」 
  歌えば歌うほど、その歌声は窓から大空へと脱け出して行く。そう、この忌まわしい籠からいとも簡単に抜け出せたのは、他でもない私の歌声だけだったのだ。
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いかがでしたか?この作品は、志摩地中海村で撮影をしたものです。

撮影した門が鳥かごのように見え、そこから自由を奪われた少女の悲恋を描いてみました。歌声だけが忌まわしい籠から抜け出せるという悲しい結末が印象的な句になっています。

YouTubeでは、音楽と合わせた動画も制作中ですので、投稿でき次第、ご報告いたしますので、お楽しみに。


他にも、写真と俳句、小説を掛け合わせた作品をご紹介していきますので、ぜひこのブログやYouTube、インスタグラムにてご鑑賞いただければ、嬉しいです。


では、またのご来館お待ちしています。 美月