階段
10年以上も前の話
バイトをしてた場所は街中にある店舗の二階
ガラス張りで肩越しに店舗に入ってくる客が見える
場所柄もあり興味本位でのぞいて帰る人やトイレだけを使う人も多い
マナーの悪い人はトイレに入って別人になって出てくる
若い女の子が学生服でトイレに入ってはカナリアのような格好で出てくる
当時流行っていたこともあり
足にはガッチガチのミルクレープみたいな厚底サンダルを履いていた
案の定 階段でこける女子が続出
その時はもの凄い音がする
当然様子見がてら声をかけに行くのだが
大体すぐには起き上がれない
察するに恥ずかしさと痛さの狭間でもがいてるに違いないのだが
見ているこちらも不憫で仕方ない
パンツを剥き出しで足枷を付けたカナリアを目の前にすると
笑いたい気持ちを悟られないようにするので必死だった
ある時
少し年上と思われる男性が質問しにきた
「ここの元のお店は○○ですか?」
そうですとやんわり返事を返すとまた同じ質問をしてきた
伝わらなかったのかな?と思いちょっと詳しく分かるように説明した
「前にあったお店は閉店して去年からこのお店になりました」
ちゃんと伝わった感じがしなかったが
その人は「はい」と一言言い残し
階段を降りて行った
5分後、その彼はまだ階段の上に居た
さすがに様子がおかしいと思い
声をかけに行くと汗びっしょりの彼は
「階段がうまく降りれません」
とかなりせっぱつまってるように答えた
言っている意味が分からなかったが
次第に状況が把握出来てきた
一回降りては首を傾げながら上がってくる
降り方が気に入らないらしい
端からみれば なにが駄目なのか全く分からないのだが
彼にとっては汗と涙が出るくらい納得いかない事らしい
結果1時間半も階段を往復する事になったが
最後に彼が言ったありがとうが頭から離れなかった
オレも足がパンパンになったがありがとうと彼を見送った
数年に一回思い出すあの出会いでオレの人生に変化は無いが
世界は人それぞれで見え方も捉え方も違うと知った。