十二年目の花嫁 | 消しゴム君

消しゴム君

寫眞と物語と言葉

 
 
割れんばかりの拍手と喝采が会場全体に広がった
照明が消えスポットライトがドアを照らすと、そこには初々しい花嫁と花婿が照れながら満遍の笑顔を見せて立っていた
スポットライトが花嫁の純白のウェディングドレスに反射して一段と眩しい。
 
「綺麗な花嫁さんね」
 
隣にいた妻がぽつり呟いた
その声があまりにも寂しく聞こえたので振り向くと、妻の目に涙がたまっていた
 
十二年前、彼女の両親の反対を押し切ってボクらは結婚した
 
当時ボクはカメラマンとして独立したばかりで収入など無いに等しかった
二流雑誌社の撮影助手で生計を立てようとしていた僕だったがアパート代をやっと払える状態だった。
そんな時に取材先のカフェで彼女と出会った
彼女は大人の香りが漂う都会の女性だった
 
ボクは一瞬にして恋に落ちた
 
やがて三年の歳月が流れボクは彼女に結婚を申し込んだ
彼女はそれを受け入れてくれた
しかし両親はカメラマンという職業を理由に結婚を反対した。それはしごく当然で当時のボクの月収は彼女の三分の一にも満たなかったからだ。それから何度も二人で両親を説得し、ようやく結婚にこぎつけたのはプロポーズから二年も経った秋だった。アパート代もろくに払えない僕は六十回払いのローンで結婚指輪を買った。もちろん式なんてあげることができなかった
 
あれから十二年
スタジオも持ち仕事も安定した。妻は専業主婦を楽しんでいる。そんな矢先に妻が呟いたあのひと言は、僕を十二年前に引き戻した
 
実はあの頃、僕にはもう一つの夢があった
それは彼女のウエディング姿を撮る事だ
いつか妻の写真集を作りたい
そう密かに思い続けていた
そしてその最初の一頁目はウエディングドレスをまとった妻の姿と決めていた
 
その事を思い出した
 
「まだ間に合う」
 
ひな壇でライトを浴びる若い花嫁を遠いまなざしで見つめる妻を見ながらそう思った
 
披露宴が終わり会場を後にする時、妻が言った
 
「とっても素敵な披露宴だったわね」
 
「うん、そうだね、あ、ちょっと先にロビーで待っててくれるかな、スタジオに電話してくるから」
 
そう言い、ボクは妻に隠れて式場のパンフレットを貰いに走った
 
十二年目の結婚記念日
その日、僕は花嫁の妻を撮る
 
 
(Body copy作品「十二年目の花嫁」より)