消しゴム君

消しゴム君

寫眞と物語と言葉

消しゴム君の作品集です。過去と今、何を思い何をしているかの自分勝手な忘備録でもあります。

 

 

 

【 コールタールの電燈 】
 

「 あとがき 」より


 

それはまだ僕が小学生だった夏の夜

群青の夜空に浮かんだしゃくりあごの月の下で、

ツンとつま先立てて夜空を覗き込んでいた一本の電信柱がありました。

 

その身体は全身がコールタールで覆われ、

まるで黒マントを羽織った怪人が月と何やら秘密めいた会話をしている、

幼い僕にはそんな風に見えました。

 

そして、外灯の明かりに誘われてたくさんの虫達も

コールタールを塗りたくられた電燈の周りで

これまた秘密めいた集会を開いていました。

 

そうした不思議な風景の一つ一つが今の僕を創り、
この作品に姿を変えてくれました。

 

心が潤いを無くしてしまった時、

悲しみで大切な人の顔が霞んでしまった時、

人恋しくて遠い記憶をたぐり寄せている時、

道を見失い手探りで足元の灯りを探している時、

 

愛しくて胸が締め付けられる時、

優しい風に触れたくて思わず手をかざした時、

慈しむ両手を差し出した時、

嬉しくて嬉しくてただただ嬉しい時、

 

この本を手に取り

そっとめくっていただき

そこに書き綴った一欠片ひとかけらの言葉たちと

そこであなたを向かい入れる弱くて小さな世界を

あなたと共に感じ、

あなたと共に過ごすことができたなら

それだけで、僕の寫眞と言葉たちは幸福です。

 

 

(2020年発刊・フォトエッセイ集「コールタールの電灯」より)

 

 

 

月は、いつもそこにいる

僕も、いつもそこにいる


震える冬の空の上に、月
暖炉に身を寄せるキミの隣に、僕

暗い夜道の上に、月
手探りで灯りを探すキミの隣に、僕


鈴虫たちの宴の上に、月

その歌声に耳を傾けるキミの隣に、僕


雨粒で光る野の上に、月

泣きじゃくるキミの隣に、僕

キミの上に、月
キミの隣に、僕

月は、いつもそこにいる

たとえ僕の姿が見えなくなってしまっても

僕は、いつも隣にいる


 

 

ここには
冷え切った身体を温めるものは
何一つ無いけれど

遠い夜空から拾い集めてきた星々の欠片と
木々の隙間をかいくぐってきた北欧の風と
眠れぬフクロウが読み語ってくれる物語

そして
凍えた手を繋ぎ
優しく微笑んでくれる
暖かいキミがいる。

 

 

[ キジと星の洋裁店 ]

そろそろと太陽が峠の隅っこの方に帰ってゆくと、そろそろと月と星が肩を並べて現れ、そろそろと猫又池や明神ケ丘の淵を照らしはじめました。

それまで一日中草むらに隠れて眠っていたキジはムクリと顔を上げ、おでことお尻についた枯れ草を手で払いながら「ではそろそろと行くとしよう」と言いカサリカサリと歩き出しました

はて、一体どちらに行くのでしょう。
茶色い一羽の鳩が木の上から尋ねました。

鳩 「おやおや、こんな夜更に一体どちらにお出掛 けですかな」

キジ 「はい、スーツをあしらえに」

鳩 「スーツ?」

キジ 「実は三日後にようやく嫁をもらう事になり、その宴の席にまさかこの姿では来賓者に失礼にあたると思いまして」

鳩 「確かに・・・ですな。で、誰に作ってもらうおつもりで?」

尋ねられたキジは胸をツンと月に突き出し、黄色いクチバシで星を指して言いました

キジ 「 はい、星の洋裁店です」

 

 

 

LINE
一途な思いが
夜空を翔ける